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2006.08.08
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Michel Pastoureau, "Figures et Couleurs Pejoratives en Heraldique Medievale"
dans Michel Pastoureau, Figures et Couleurs, Paris, 1986, pp. 193-207

 ミシェル・パストゥロー「中世紋章の軽蔑的な色と形」を読了。史料の種類、中世紋章の中の軽蔑的な色と形の紹介、そして研究の手続きが紹介されるという構成で、方法論を提示してくれる論文です。
 以下、小見出しに沿って紹介を。

1.資料体

 この研究では、「悪い」人間に与えられたおよそ300の紋章が史料となります。これらの紋章の出所として、(1)文学テクスト(武勲詩など)、歴史・叙述テクスト、(2)図像資料、(3)特定の紋章(サラディンなどの)が区分されています。
 そして、「悪い」人間の類型化が紹介されます。(a)サタン、反キリストなど、(b)人物化された悪徳、(c)悪評高い聖書の人物、古代あるいは初期中世の人物、 (d)異国の王や人間(想像の人物も)、(e)ユダヤ人、(f)キリスト教と戦う王や君主(イスラーム)、(g)騎士道物語の人物(不実な騎士など)、です。

2.要素

a)盾の形
 紋章は主に盾に描かれたのですが、盾の形をもたない紋章もある、それには意味がある、ということです。たとえば、外周が丸いものは軽蔑的であり、イスラームや東方の王には丸い盾があてられたとか。

b)色
 この節が一番面白かったです。紋章の中の主要な七色は、金、銀、赤、黒、青、緑、紫。この中で、銀だけは軽蔑的な意味をもたなかったそうです。このうち、特に軽蔑的な色は赤と黒ですが、この二色に対する態度は時代によって変わります。赤が次第に悪く見られないようになり、逆に中世末期になると、黒はつねに赤よりも悪い、というんですね。
 他の色について。金色は黄色としてみなされ、価値が落ちていきます。これは、貪欲、裏切り、ユダヤ人を示します。
 緑は、イスラームにわりあてられるときなどは軽蔑的な意味をもちますが、それは例外的で、特に宮廷文学の中ではいつも良い色であるとか。若さ、愛、喜びなどを示します。ところで緑は、想像の紋章のうち18%、現実の紋章のうち2%を占めるそうです。
 一方青は、想像の紋章のうち15%、現実の紋章のうち23%で、緑と逆の現象が認められます。青は中立的に用いられ、良い青は誠実さを示し、悪い青は喪の感情を示すそうです。
 紫は、紋章のなかできわめてまれだそうです。その希少さこそに意味があり、外国人の盾に紫が用いられたとか。

c)形
 軽蔑的な役割を果たす形は多いのですが、一番多いのは動物の図像です。その中でもっとも悪いとされたのがレオパール(豹)。これについては、先日紹介した「動物の王は何か」でふれましたので割愛します。その他、悪、サタンなどのアトリビュート[象徴的な持ち物]とされたのが、蛇、蛙、猿、猫などなどで、多く列挙されています。
 植物(野菜)の中で軽蔑的な意味をもつのは、りんごしか確認できないそうです。これも、原罪でのりんごの役割のため、軽蔑的な意味を持たせたにすぎない、といいます(ラテン語名も原因にあげられていますが、ここでは省略します)。
 続いて、身近なもの。斧や短刀など刃物、鈴や鐘など「騒々しい」ものが軽蔑的な意味をもつといいます。
 そして、幾何学模様について。等間隔の仕切りや交互に配置される色は、常に悪い意味を示したといいます(市松模様、等色二分など)。こうした面の地ではなく、その上に描かれる「可動図形」の中で悪い意味をもつのは、星と月。星は東方を、月はイスラームを示しました。
 また、黒人、老人なども、こうした機能をもったそうです。

d)紋章の構成
 無地(=単色)が、軽蔑的な意味を示すもっとも単純な方法だったといいます。先述の色の話とも関係しますが、特に赤一色と黒一色が軽蔑的な意味を示したそうです。過剰に色を使うのも同じ意味をもったとか。
 また、歯や角を強調したり、巨大に描かれたりした姿は好意的でない意味を示したそうです。
 兜飾りについての言及も面白かったです。現実の紋章では、盾の中に描けなかったものを、兜飾りの中で示した。つまり、兜飾りは「安全弁」の役割を果たした、というのですね。ところが、想像の紋章(文学作品内など)では、この安全弁の機能は必要なかったということです。

3.手続き
 研究上の手続きが(a)~(g)まで紹介されますがここでは省略します。おおむね、これまで述べてきたことの整理です。最後の、(g)「聴覚的に好意的でない印象を引き起こすために、言葉あるいは表現の響きに頼ること」というのが面白かったです。これは、文学にみられる想像の紋章に固有の領域です。視覚ではなく、聴覚が問題となるのですね。

ーーー
 どういう図形や色が軽蔑的な意味をもった、という羅列がメインなので、それ自体は興味深いのですが、そこから広がっていきにくい(というか、広げていない)という感じがしました。ですが、最後に紹介されている、「聴覚」の問題は興味深かったです。この紹介の冒頭でも書きましたが、方法論の提示ですので、示唆に富む論文だといえると思います。





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Last updated  2008.07.12 20:54:57
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