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2006.10.14
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筒井康隆『農協 月へ行く』
~角川文庫、1979年初版(1997年53版)~

 七編の短編が収録された短編集です。以下、それぞれの内容紹介と感想を。

「農協 月へ行く」
 大金持ちの農協組合員たちが、月へ行くことにした。船長の浜口は度重なる月旅行、客たちとのトラブルで抑鬱状態になっていたが、観光部長の命で、農協さんたちを月へ連れて行かざるをえなかった。乗り組み時から、農協さんたちのふるまいはひどく、宇宙船内でも月面に到着してからもそのふるまいはとどまることを知らなかった。そして彼らは、異星人と遭遇する。

 1節で、農協さんの何人かが描写されますが、金持ちぶりと言葉などのギャップが違和感を生みます。笑えそうなのに笑えない、ぎこちない感覚を覚えました。2節での浜口さんの罵詈雑言は痛快ですね。旅行評論家との口論も痛快です(このあたりになると不快感も感じますが…)。チックなどの症状におそわれながらも、農協さんたちを月へ連れて行く浜口さん。農協さんたちは船内でも手鼻をかんだりと、とんでもない描写が続きます。アメリカのお偉いさんたちが、農協を月へ連れて行ったことを嘆くシーンも、なんというか壮絶です。ものすごいテンションでした。

「日本以外全部沈没」
 地球温暖化のため、北極と南極の氷が溶け、海面が上昇。しかし、地盤の動きのため、日本だけは沈没を免れた。外国人たちは日本に逃げてくるが、国家の元首レベルの人々も、日本人に頭があがらない状況ができていた。

 小松左京さんの『日本沈没』のパロディということですが、私は原作は読んでいません。国家の元首レベルの人々のことは多少予備知識があるので面白く読めましたが、俳優さんたちのことはよく知らないので、面白さがよく分からない部分もありました。この作品も壮絶といえば壮絶ですね。笑えるところもあるのに、全体としてうまく笑えない、というか。

「経理課長の放送」
 無限放送の労働組合がストライキを起こしたため、重役たちがなんとか放送をしなければならなくなった。アナウンサーの役目を務めるのは経理課長の馬津だが、テープ係の不手際が多かったり、原稿がぐちゃぐちゃだったりと、放送はぐだぐだになってしまう。重役の命令で歌えば苦情が殺到、ついに吹っ切れた経理課長は悪態をつきはじめる。

 馬津さんのラジオ放送の形式で書かれています。重役たちの慌てっぷりが露骨にうかがえるドタバタものですね。労組にも入れず、重役の中では下っ端の経理課長の板挟みっぷりが気の毒になります。すごい風刺ですね。

「信仰性遅感症」
 全てのことに欲望が強かった父親への反抗から、洗礼を受けた鮎子。学園の教師となった彼女は、味覚を感じなくなっていた。そのことをシスター・中井に話した。中井は、なんにでも興味をもつようなタイプで、鮎子とは対照的だった。彼女と話をした後、鮎子は口の中に味覚を感じた。昨夜の夕食―17時間前に食べた料理の味が、口の中に広がったのである。

 そして、彼女のことをつけねらっていた男が彼女の寮の部屋に入り込み、彼女を襲い、その後は大体予想していた通りに話が続きましたが、鮎子さんを襲った人間ももちろんですが、ファーザーもとんでもない人間です。ファーザーは賭け事が大好きで、競馬に失敗すると神を罵ります。ラストもとんでもないですしね。ファーザーは馬鹿げた言葉を口走りますが、気持ち悪さが残ります。

「自殺悲願」
 本があまり売れていない作家、田川が編集者の桜井を訪れた。桜井が、自殺した結果本がますます売れるようになった作家の話をしたこともあり、田川は自殺を考える。自殺すれば出版部数は増えるかと桜井に迫り、重版をしてもらったものの、本が売れないと桜井から苦情がきて、田川はますます自殺を考え、何度も自殺をはかるが、ことごとく失敗した。

 田川さんがとことん惨めに描かれています。最後の最後まで悲惨です。
「ホルモン」
 これは、いつものような内容紹介は無理です。19世紀末から、ホルモンに関する(とりわけ、その強壮剤としての効果に関する)研究や言説を時系列に並べ、研究の発展について各国間で非難しあい、性ホルモンの利用のために事故が起こったりする様が描かれます。最初の方は、犬の睾丸が若返りに効くという報告がなされ、パリの各地で犬が殺されるという話があります。女性や馬の尿から性ホルモンを作るだの、ホルモン剤の過剰投与のせいでバセドー氏病になるだの…。各国の新聞や、医学界の会報などを引用する形で構成されています。

「村井長庵」
 江戸で殺人を犯した村井長庵を、弟子の東沢は故郷に近い島にかくまった。しかし、島でも長庵は好き勝手に振る舞う。一度は島の若者に非難されたことを受け、本土に戻ったが、そこでも悪行を重ねたため、あらためて島に戻る。しかし今度は、島でもさらに容赦なく悪行を重ねた。

 ちょっと調べてみたのですが、村井長庵というのは講談や歌舞伎に登場する極悪医師のようですね。本作でも、それはえげつない描写があります。村井長庵の台詞で、「後の世でいうならさしずめマスコミ御用医者」とか、「医師免許規則ができるのは明治28年、今はまだ偽医者などはおらん」などと、メタな言葉もあります。妙な世界ですね。この作品も、壮絶です。

ーーー
 全体を通して。それなりに面白いと感じながら読んだつもりですが、感想を書こうと思うと、気持ち悪さなどが先にくる気がします。痛快な部分もあるのですが、風刺が強すぎるというか。そうとう癖のある作品でした。
 解説が興味深かったです。





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Last updated  2006.10.14 11:08:21
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 壮絶なブラック・ユーモアですよね   すず さん
 やはり、作品が発表された当時の、社会への批判や痛烈な皮肉を作品に込める作風が、今となっては癖が強すぎるのですよね。たぶん、筒井さんにとって、今の小説群は「ぬるま湯」としか感じられないかも。 (2006.10.14 13:37:19)

 すずさんへ   のぽねこ さん
コメントありがとうございます。
そうですね、癖が強いと感じるのです。

>今の小説群は「ぬるま湯」としか感じられないかも。
言い得て妙なご指摘だと思いました。最近の小説でも、多くの作品に考えさせられますが、筒井さんの本作はものすごく生々しい感じがします。ブラックジョークは好きな方なのですが、笑えないところも多々ありました…。 (2006.10.14 19:35:52)

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