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2006.11.19
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筒井康隆『串刺し教授』
~新潮文庫、1991年(初版1988年)~

 ショートショートや短編、あわせて17編が収録されています。印象に残った話をいくつか紹介します。
 最初に収録された「旦那さま留守」は、人間のお世話をするロボットたちが、留守にしている人の家に集まり、それぞれのご主人さまの真似をして遊ぶ、というお話。子供のいたずらを思い浮かべながら読みました。
 次に収録された「日本古代SF考」も良かったです。未来の人間が、SF作家が集まっていたというお店について、史料に基づいて考察するというスタイルで話が進みます。最初に「日本沈没の日」という作品を書いたというサキョー・コマツという人物が登場し、さらにはヤスタカ・ツツイさんの名前も出てきます。それだけでわくわくしますね。大笑いしたのが、論考を書いている人物が一部小説風に書いているところで、担当編集者から原稿の依頼を受けたサキョー・コマツさんの言葉。「面倒くせえ」。…それを言ってしまうとは。驚きました。
 「句点と読点」は、文庫で1頁ながら面白く読みました。句点や読点、そして改行のあり方について、実験的というか独特の趣向をこらした作品が、この本の中には他にもいくつか収録されています。
 大笑いしたのが、「きつねのお浜」です。最後に、作者注で、「この作品に対する一切の批評を拒否します」とあるので、あまり書くわけにはいかない気もしますが、思い切っているなぁ、と感じました。京極夏彦さんの『どすこい。』や、秋本治さんの『こち亀』のいくつかの話を連想しながら読みました。
 痛烈な社会批判や風刺を感じたのが、「春」です。先にも少し書きましたが、句点、読点、改行などが型破りな作品の一つです。冒頭でとっつきにくいように感じたのですが、読み進めるうちにその風刺や批判の鋭さを興味深く読めるようになりました。
 独特の作品が多い中、もちろん独特の仕上がりなのですが、それでも比較的オーソドックスな作品として読めたのが「点景論」と「風」です。「点景論」は、「おれ」が「尾行者」から逃れようとする話なのですが、「おれ」は多くの人々に、そのときどきのその人の位置づけを示すレッテルをはっていきます。「学生」「劇団員」「ウェイトレス」などなど。「おれ」自身のことも、「歴史書を買いに都心へ出てきた男」から「尾行される男」になった、などと考えています。終盤の、観覧車での出来事ははらはらしながら読みました。ラストでの「おれ」の心境の変化など、現代文の問題に出されそうな雰囲気ですが、残念ながら私にはその理由がうまく説明できません。ですが、これも印象的な作品でした。
 「風」は、全て会話文だけで構成されています。夜中に門の戸がどうんどうんと鳴るのですが、誰かお客さんがきたのか、それとも男が言うように風に過ぎないのか。寝る前に読んでいたのもあってか、いろいろ考えすぎると怖くなりましたが、同時に泣きそうにもなりました。不思議な読後感でした。
 表題作「串刺し教授」も、独特の文体で描かれています。事故で串刺しになった教授の、死亡の前後の写真が週刊誌に掲載されたことをめぐり、私は動きます。行く先々で私にかかってくる電話は、誰からなのか。過激な言葉が使われているわけではありませんが、静かな風刺がされていると感じました。

 久々に、印象に残った言葉をメモしておきます。文字色は反転させておきます。

「不条理」というものは当事者が想像した最も忌まわしい状況の顕現という観点に立てば「不条理」ではない。すべての「条理」は予測可能なのだから予測し得たその「不条理」は予測可能な「条理」の中に組み込まれてしまう」(128頁。「点景論」からの引用)。「点景論」は、こんな感じで全体的に理屈っぽいです。それが興味深く読めた一つの理由になっているとも思います。

今は尖端的なのはむしろ反動と呼ばれようが何と言われようが中心へ切り込むことではなかろうか厭だなあ真面目なことを言うと必ず嘲笑され悪口を言われる社会見よう見まねの右へならえ他人指向の気くばりの恥の文化の長いものに巻かれろの独走許さぬ株式会社日本」(184頁。「春」より引用)。ここは比較的意味がとりやすい文章ですが、全体的にすごいです。ある種の「狂気」を感じさせられる文章でした。





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Last updated  2006.11.19 18:32:17
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