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2007.02.05
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島田荘司『飛鳥のガラスの靴』
~講談社文庫、1995年~

 解説によれば、本書は「吉敷竹史シリーズ」の第10作にあたるそうです。以下、いつものように内容紹介と感想を。

 1990年10月22日。人気俳優・大和田剛太の自宅へ郵便物が届けられた。夫の名前とともに妻の名前もあったため、妻の三枝子は家政婦とともにそれを開封した。それは、人間の―おそらく剛太の右手だった。
   *
 少し時間がとれる時期に、吉敷竹史は京都で起こった大和田の事件を知った。事件から10ヶ月、大和田の行方は依然として知られていない。電話で、京都府警に事件のことを尋ねた吉敷に対し、捜査一課の主任は皮肉を言う。目立つ動きをするな、調子にのるな、と。売り言葉に買い言葉で、吉敷は一週間で事件を解決すると約束した。それが無理なら、職を辞めるという条件で。
 すぐに京都、そして大和田が属していたプロダクションのある大阪を訪れた吉敷だが、大和田は後輩に対する面倒見もよく、誰からも好かれていた人物だった。これは怨恨に違いない。そう思いながら捜査を進める吉敷だが、結果は芳しくなかった。
 しかし、大和田が最後に、少しだけ友情出演した映画が、解決のヒントになった。脚本では主役とされていた西田優が、大和田と共演した日に失踪したため、別の女優が主役を演じていたのである。なにかある、と信じた吉敷は、東京に戻り、西田の関係者を当たり始める。その中で、彼女の母親は吉敷が訪れる前に自殺をはかる。自殺をはかると同時に、彼女は、ある本を燃やしていた。それは、西田優の姉が記した『飛鳥のガラスの靴』という本だった。
   *
 幼い頃から民俗学、伝承に強い興味を抱いた宮地禎子は、家庭の事情もあり、高校に進学することなく働き始めた。しかし、時がたち、一冊の本を自費出版することができた。それが、『飛鳥のガラスの靴』である。彼女は、その本の中で、幼い頃の思い出を綴っていた。最も恐ろしかった思い出は、ある夜に、父親とともに小舟で岩窟に入っていったときのことである。幻想的な光に満ちたその岩窟で、急に水が吹き上がり、父親が死んでしまったのだった。また、民話や伝承に興味をもつきっかけも記していた。村の老婆から教えてもらった、「すずむしとまつむし」という民話。この民話に夢中だった彼女は、やがて、その話が「シンデレラ」と同様の話であることに気付き、はるか遠く隔たった地域で、同様の物語が伝えられているということに、非常に興味を持ったのだった。
   *
 さらなる調査で事件の構造に気付いた吉敷は、飛鳥に向かう。しかし、そこでも調査はうまくいかない。主任との約束の期日は迫っていた。

 島田さんの作品を読むたびに書いている気がしますが、やっぱり面白いな、と思いました。「心痛む場所」という章の奇数節が、『飛鳥のガラスの靴』の内容なのですが、宮地さんが仮説を練り上げていく過程、そしてその仮説自体がとても興味深かったです。
 話の展開には、どこか二時間ドラマのような「偶然」があるのですが、それはともかく…。事件自体も、いってみればとても歪ではあると思います。しかし、それこそが、ここで描かれていることのメッセージなのかな、とも思います。吉敷さんの主任が、日本社会の「弊害」の典型的な人物として描きながら、それが本書の大きなテーマの一つになっているようです。
 いろんなところで名前はよく見ているのですが、吉敷さんの元妻である通子さんが電話で登場します。二人の間で何があったのか気になりますし、その他の吉敷シリーズも読みたくなってきました。吉敷さんは敏腕刑事ですが、どこか不器用なところがありますね(私はまったく人のことはいえないのですが…)。主任など、同僚との関係でにじむ不器用さはかっこよいのですが、通子さんとのやりとりからうかがえる不器用さは、とても人間らしくて良かったです。御手洗さんよりもずっと庶民派、といったところでしょうか…。
 最近、本を読みながら付箋をはることが少なくなってきたのですが、今回久々にはりました。
「現代日本人は、驚くなかれ、善悪の判断を失うことで成人するのだ」(154頁)。ニュースなどで常々感じていますが、言い得て妙だと思います。自分自身も振り返ることを忘れないようにしなければなりません。





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Last updated  2007.02.05 14:52:33
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