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2007.03.26
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徳井淑子『色で読む中世ヨーロッパ』
~講談社選書メチエ、2006年~

 以前紹介した徳井淑子さんの著作『色で読む中世ヨーロッパ』を紹介します。現在、徳井さんはお茶の水大学生活科学部教授だそうです。
 本書の構成は以下の通り。

はじめに
序 章 色彩文明の中世
第一章 中世の色彩体系
第二章 権威と護符の赤
第三章 王から庶民までの青
第四章 自然感情と緑
第五章 忌み嫌われた黄
第六章 子どもと芸人のミ・パルティと縞
第七章 紋章とミ・パルティの政治性
第八章 色の価値の転換
終 章 中世人の心性

参考書誌
あとがき
索引

 色に焦点をあてて中世文化を見ていき、その中で中世の人々の心性、生活感情を探るという試みです。 本章の対象は、「中世」の中でもとりわけ12世紀から15世紀です。というのも、12世紀は、ステンドグラスが多用されるようになり、写本の彩色挿画も増加するようになる時代です。文学の中でも色彩についての言及が増え、本書の序章では特にふれていませんが、パストゥローによれば紋章が増加する時代でもあります。
 本書の主要な史料は、15世紀に、シシルという紋章官が著した『色彩の紋章』という書物です。この書物は、二部構成になっていて、「第一部は金・銀・赤・青・黒・緑・パープルについて、聖書を中心に」著名な先人である聖職者らの著作などからのさまざまな引用をつなぎあわせた「伝統的でかたい解説」です。第二部は、「仕着せや標語をつくる際に役に立つようにと、より多くの色について自らのことばで語った、親しみやすい解説」となっています(本書25頁)。この書物に、色についてのイメージ、色彩論は書かれているのですが、いかにして15世紀までに色がそのような意味をもったのか、こうした時代の変遷にも徳井さんは注目しています。
 たとえば、第一章では、12世紀からしばらく、黒が否定的なイメージの色であったことを指摘するのですが、第八章では、15世紀に黒が好まれる色になっていったことを指摘します。その他、「中世」の間長く否定的なイメージを付されていた色が、15世紀に肯定的に見られるようになったこと、そしてその15世紀的な感性は近代的な感性にもつながること(たとえば、現代でも黒い服はフォーマルに用いられますね)を述べた上で、本書の観点から見た15世紀の意義を指摘します。ホイジンガは、15世紀を、ルネサンスの告知の時代というよりも、「中世の秋」としてとらえました。そのことをふまえ、徳井さんは、「本書は十五世紀を中世の秋でもなく、ルネサンスの告知でもなく、現代にまでつながる近代的な新しい心性の発現のときとしてその意義を認めたいと思う」と述べています(204頁)。
 特に第二章からの、各々の色についての章もとても興味深いのですが、ここでは第五章以下について、少しふれておきます。第五章では、黄色が忌み嫌われていたこと、社会の秩序から外れた道化に黄色が与えられたこと、同時に、子どもにも黄色い服が与えられたことを指摘した上で、中世には子どもと道化が同じような概念でとらえられたのではないか、と問題提起します。さらに第六章でも、縞模様やミ・パルティ(左右色分けのデザイン)が道化や芸人にも、子どもにも与えられたことを指摘し、同様の問題を認めます。子どもについても論じたこの二章で興味深いのは、中世の人々が子どもを小さな大人として認識しており、また、子ども独自の服はありえないと論じたフィリップ・アリエス(その有名な著書『<子供>の誕生』)の説への反論と評価です。黄色は、理性を欠いた、という意味をもちました(したがって、道化や芸人に与えられました)。それならば、子供は理性を欠いた、不完全な大人(人間)としてとらえられているという意味で、アリエスの説は肯定的にとらえられます。逆に、黄色やミ・パルティ、縞模様といった、一般の人々がほとんど着ることのなかった服を子どもたちは与えられていたということから、アリエスの説は反論されます。アリエス説への反論も面白いのですが、「黄色」といった色、あるいは「ミ・パルティ」といった模様から、中世の人々の価値観がたしかに浮かび上がってくる論の進め方が、とても面白かったです。
 その他、ネタあるいはメモの意味で書いておきたいのは、第一章でふれられている「バーリンとケイの法則」です。これは、色認識と文明化の相関を述べた説で、ひとはまず光の色(=白)と闇の色(=黒)を最初に認識し、次に認識するのは赤だと説いています。さらに、第三段階、第四段階で緑と黄色(順番は文明による)、第五段階で青、第六段階で茶色、第七段階で菫色やオレンジ色、そして文明化とともにひとは認識する色の数を増やしていくといいます。この法則は、白・黒・赤を基本的な色彩体系とした初期中世にもあてはまる、というのですね。

 なお、私がときどき紹介しているミシェル・パストゥロー氏が、徳井さんに、服飾史家は色についてもっと調査すべきだと鼓舞したというエピソードにもふれられています(7頁)。それもあってか―というか、中世の色彩を勉強する際に、ミシェル・パストゥローの研究は必読ではあると思うのですが―本書でもパストゥロー氏の研究が言及されています。私がいま非常にゆっくり読み進めているUne histoire symbolique du Moyen Age occidentalも注でひかれていたので、その該当箇所を読むのが楽しみになりました。

ーーー

 特に面白く読んだところを簡単に紹介するだけになりましたが、このあたりで記事を終えたいと思います。





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Last updated  2008.07.12 18:47:42
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