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2007.07.06
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龍臥亭幻想(上) 龍臥亭幻想(下)
島田荘司『龍臥亭幻想(上・下)』
~KAPPA NOVELS、2004年~

 島田荘司さんの長編です。ついに、石岡さんと吉敷さんが出会います。御手洗さんはスウェーデンにいるので、吉敷さんと出会うことはありませんでしたが…。
 あの龍臥亭のある貝繁村で、再び不可解な事件が起こります。それでは、内容紹介と感想を。 なお、シリーズものの作品ですので、少なくとも、『龍臥亭事件』と『涙流れるままに』で語られた内容が前提となっています(『涙流れるままに』は、それ以前の吉敷シリーズが前提となっていますが…)。さらにいえば、『異邦の騎士』もですね。ですので、これらの作品を未読の方は、以下の内容紹介、さらに感想にはご注意ください。

 2004年、1月。石岡和己、犬坊里美、加納通子とユキ子など、龍臥亭事件の関係者が、8年ぶりに貝繁村は龍臥亭に集まった。隣の法仙寺に新しく住職となった日照、龍臥亭事件のときに居合わせた神主の二子山一茂もおり、一同は、里美が司法試験に受かったという知らせを、とても喜んだ。
 ところで、日照は、貝繁村に伝わる<森孝伝説>について語ってくれた。没落した関森孝伯爵は、先代からつかえている使用人のお振りに実質の権限を握られ、妻の胤は使用人の男、芳雄の体を求めた。老朽化した階段で転落し、足を悪くした伯爵は、完全に胤に見放されていた。しかしあるとき、胤と芳雄の逢い引きの場所に、鎧兜を身につけた伯爵が現れる。伯爵は、芳雄の両腕を切断し、胤の首をはねた。その前には、お振りも殺していた。毒を盛られて弱っていた伯爵自身も亡くなったはずだが、鎧兜は遺っていたものの、伯爵自身の死体は見つからなかった。そして、芳雄の死体もまた、見つからなかったという。
 鎧兜は、法仙寺に置かれることになった。そして、片足の欠如した死体が鎧兜を身につけ、歩き回り、悪党を征伐するという伝説が残った。
 この伝説に興味をもった石岡は、最近、村で奇妙な事件が起こったことを知る。舞台は、大岐の島山の上にある、沖津の宮という神社。新嘗祭の際、衆人環視の中、巫女が消えてしまったという。そこの神主の菊川は、高利貸しにも手をそめ、人の弱みを握っては、多くの女性をものにしている、聖職者とは思えないような悪人であった。
 失踪した巫女―真奈美の恋人である黒住も、石岡に事件の話をしにやってきた。一行が菊川に話を聴きに行ったとき、大地震が起こる。そして、セメントにできた切断面の中には、女の死体があった。真奈美の死体だった。
 黒住は、犯人は菊川だと、彼を殺そうと暴走する。それを、必死にとめる石岡。結婚を考えていた女性を失い、20年苦しんだからこそ、彼は黒住を必死にとめるのだ。
 真奈美の死体が発見されてからも、凄惨な事件は続く。そして、森孝伝説が再び蘇った。

 上巻の著者の言葉に、「異邦の騎士再び」とあります。恋人の死に怒りをもやし、菊川を殺そうとする黒住さん。それを必死にとめる石岡さんは、『異邦の騎士』の事件を思い出さずにはいられません。
 『龍臥亭事件』での石岡さんも、かっこよいと思いました。ですが、今回はそれを上回ります。こんなにかっこいい石岡さんは見たことがないように思います(たしかに、『異邦の騎士』では、不器用であり、事件のためにどうしようも苦しんでいる彼の中に、かっこよさを感じましたけれど…)。黒住さんはまだ若く、力もあるだろうに、必死に体当たりをする。そして、石岡さんが彼にかける言葉も、とても優しく、力強く、ただただ感動でした。
 御手洗さんはウプサラで石岡さんの話を聞き、事件の概要を知ると、電話で助言を与えてくれます。そして、通子さん親子を迎えにきた吉敷さんは、御手洗さんの言葉を石岡さんから聞きながら、一つの謎を解明します。
 けれども、本作の中では、夢の共演をはたした二人の名探偵も、極端にいえばどこか脇役のような印象を抱きます。語り手である石岡さん。恋人を殺された黒住さん。親友を失った育子さん。同じく、親友を失うことになった二子山さん……。こうした人々が、主役であったように思うのです。
 それもあり、私は、『異邦の騎士』とは別に、一つの作品を連想しました。「ある騎士の物語」です。<以下反転>自分の大切な人が悪魔のような人間に苦しめられ、復讐を遂げたいと考える。しかし、それは非常に困難である。そんな状況の中、ほとんど奇跡的に、復讐を遂げるという物語……<ここまで>。
 菊川という、悪魔のような男が、真奈美さんを殺したらしいということは、物語の初期から明かされます。しかし、彼が非常に狡猾な男であることと、セメントの下に埋められていた死体という謎の前に、石岡さんたちが彼の犯罪を暴くことは容易ではありません。それにしても、このように、狡猾な犯人が、初期から明確に示されている作品は、島田さんの作品の中では珍しいように思います。
 菊川はとんでもない人間でしたが、その他、本作に登場する主要な人物は、素敵な方が多かったです。なにより、日照和尚と二子山さんの二人は良かったですね。ですから、後の事件にはやりきれない思いを感じました。
 とにかく、良い読書体験でした。

*年表で整理していたこともあり、知ってはいましたが、石岡さん自身が、御自分の年齢(50代)に言及しているのを読むと、なんとも感慨深くなりました。

*そういえば、吉敷シリーズの短編「発狂する重役」の中で、吉敷さんが事件を語る相手の「私」=石岡さんという説をどこかで読みましたが(文庫の解説でしたか)、石岡さんとは今回が初対面の様子。「発狂する重役」の「私」は、石岡さんではなかったのですね。





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Last updated  2007.12.13 10:50:17
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 Re:島田荘司『龍臥亭幻想(上・下)』(07/06)   torezu さん
こんばんは。
龍臥亭幻想面白そうですね。
石岡さんと吉敷さんが出会うとなれば、ぜひ読んでみたいです。
発狂する重役というと「展望塔の殺人」でしょうか?聞き手の人物が石岡さんという説もあったのですね。実際はどうやら違うようですが…
格好良い石岡さん…非常に魅力的です。w
来月はぜひ購入してみたいです。 (2007.07.06 21:52:09)

 こんばんは   のぽねこ さん
torezuさん、コメントありがとうございます。
これは良かったです。本当に石岡さんがかっこよかったです(笑)
「発狂する重役」(記事はおかしなことになっていたので訂正しました)は、そうです、『展望塔の殺人』に収録されています。記事を書くときは無精しましたが、ちょっと調べてみますと、『寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁』の解説の中で、綾辻さんが、「私」=石岡さん説を紹介しておられます。
とまれ、ぜひ『龍臥亭幻想』も読んでみてください。ご感想を楽しみにしていますね。 (2007.07.06 22:29:06)

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