のぽねこミステリ館

2007/07/08(日)07:13

横溝正史『幽霊男(金田一耕助ファイル10)』

本の感想(や・ら・わ行の作家)(149)

横溝正史『幽霊男(金田一耕助ファイル10)』 ~角川文庫、1996年改版初版~  金田一耕助シリーズの長編です。今回は、事件が何年のことか明記されていなかったように思うのですが、『女王蜂』事件に言及があるので、昭和26年(1951年)以降のことですね。  では、内容紹介と感想を。  ヌード・モデル仲介業者、共栄美術倶楽部にふらりと訪れた不気味な男。ぼさぼさの髪に、襟巻きに顔をうずめ、ほとんど顔を隠したその男は、幽霊男と名乗った。幽霊男は、そこにいた三人の娘の中から、器量の良い方ではない恵子を指名した。翌日、恵子が約束通り幽霊男のもとを訪れると、彼女は、幽霊男に血を吸われそうになってしまう。  そして、幽霊男が予約していたホテルに届けられたトランクの中から、恵子の死体が見つかった。  後には、モデルの美津子が幽霊男の餌食になりそうになる。幸い、彼女は殺されることはなかったのだが、彼女の記憶によれば、男の左手の小指が欠けていたという。それは、吸血癖があることで知られていた、画家の津村一彦の特徴と一致していた。  舞台は伊豆半島の南方S温泉地に移る。そこで、共栄美術倶楽部のメンバーは、事件のために何度も流れた例会を盛大に行っていた。<美の饗宴>と称する、野外ヌード写真コンクールである。  そこには金田一耕助も密かに居合わせたのだが、そこでも、恐ろしい事件が繰り返されることになる。  横溝正史、江戸川乱歩の作品といえば、エログロ猟奇的、凄惨な殺人、などがキーワードに挙げられると思いますが、本作もまたそれらのキーワードがあてはまりますね。主要な舞台が、ヌード・モデル仲介業者ですからね…。  さらにいえば、なんというのか、怪人ものとでもいうのでしょうか、時折、幽霊男が悦に入っている場面も描かれます。変装したり、あるいは繃帯で顔を覆った幽霊男の正体は誰なのか、興味がひきたてられるのももちろんですが、そのグロテスクな、不気味な描写が、また訴えかけてくるものがあります。  この中でわくわく…というか、はらはらしながら読んだのは、金田一さんがかなり激昂されるシーンです。美の饗宴の中で繰り返される殺人、そして、その後も繰り返される事件。特に美の饗宴の際の金田一さんの怒りは、珍しいように思います。  挑発的な幽霊男の犯行に、金田一さんの推理、さらには幾人もの登場人物たちの思惑が交差して、とてもわくわくしながら読みました。 *表紙画像は、横溝正史エンサイクロペディアさまからいただきました。

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