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のぽねこミステリ館

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2007.09.23
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夢野久作『日本探偵小説全集4 夢野久作集』
~創元推理文庫、1984年(2001年18版)~

 短編「地獄の瓶詰」、中編「氷の涯」、そして名著『ドクラ・マグラ』の三作が収録されています。本当は、『ドグラ・マグラ』は単品(?)で手に入れたかったのですが、角川文庫版の表紙がちょっとあんまりなので(横溝正史さんのはどんなエログロ表紙でも買うのですが…)、夢野さんの作品については、創元推理文庫の全集で入手することにしました。先日古本屋さんで見つけたときの嬉しかったこと。

「地獄の瓶詰」は、孤島に流れ着いた兄妹が、ビール瓶に手紙を入れて、海に流す―その手紙が並べられています。10頁ほどの本当に短い作品ですが、いまあらためてざーっと再読して、ぞーっとするものがありました。

「氷の涯」は、ハルピン駐在の一等卒さんによる、ある事件の克明な記録であり、遺書の形式をとっています。日本軍の中に裏切り者が現れ、いくつかの殺人事件も起こるのですが、その全てが書き手である「僕」になすりつけられてしまいます。死にゆく前に、「僕」は、ことの真相を書き留めることにしたのでした。
 陰謀あり、暗号あり、主人公の「僕」が探偵役のような役回りを演じるなど、案外わくわくしながら読みました。

 …が、なんといっても『ドグラ・マグラ』です。いつものような形での内容紹介がなんとも書きづらいので、思ったことをつらつらと書いていくとします(なお、今日ではタブーになっている言葉もばんばん出てくるのですが、作品が生まれた時代と文学性を考えた上で、変に伏せ字にしたりはしないことにします)。

 …………ブウウ―――――ンンン…という、蜜蜂の唸るような、時計の音で目を覚ました「わたし」は、自分が独房のようなところにいることを知ります。ここはどこなのか、自分は誰なのか、何も分からない「わたし」に、隣の独房から話しかける女性。「わたし」をお兄様と呼び、「わたし」の妻だったといい、そして、「わたし」に殺されたという女性…。「わたし」が意識を取り戻したことを知り、「わたし」のもとへ駆けつけてきた若林博士から、少しずつ、自分にまつわる事件のことを聞いていくことになります。
 背景には、既存の精神病院を「キチガイ地獄」と呼び、真に精神病者を解放する研究を進める、正木博士の実験と、それにも関連のあるらしい、「わたし」自身が関わった恐ろしい殺人事件があるようで…。

 私は、『ドグラ・マグラ』が、小栗虫太郎さんの『黒死館殺人事件』、中井英生さんの『虚無への供物』に並ぶ、三大ミステリ(奇書)だということは知っていたものの、内容はまったく知りませんでした。というんで、以下には、上のような簡単なあらすじ以上に、内容に言及することになりますので、先入観なしに『ドグラ・マグラ』を読みたい方はご注意ください。

 基本的には、自分の名前を忘れてしまった「わたし」の一人称で話は進むのですが、途中、自殺したという正木博士の遺した四つの書物が挿入されます。正木博士が日本中を乞食坊主のかっこうで遍歴し、唱えていた阿呆陀羅経たる『キチガイ地獄外道祭文』―なんとも壮絶でした。語り聞かせの経文なので、非常に語呂がよく、ユーモラスでさえあるのですが、うわぁと思いながら読み進めました。多くの風刺が満ちている中でも、「昼夜不断の電気瓦斯灯。唯物文化の光が。明るく光れば光って来るだけ。暗くなるのが精神文化じゃ」という部分は、なんだか印象的でした。
 その他、正木博士が記者にはなした「脳髄は物を考える処に非ず」、卒業論文の「胎児の夢」など、興味深い文章が続きます。
 最後の、正木先生の遺書の中では、映画上映も行われ(厳密には、そんな風に遺書に書いているだけなのでしょうが)、自分がいったい何を読んでいるのか、なんとも不思議な気分になっていく構造でした。
 ミステリとしては、正木博士の実験に関わった呉一郎という人物と「わたし」が同一人物なのか、実母と妻を殺したとされる呉一郎ですが、実際に彼が犯人なのか、呪いの巻物を一郎に見せ、彼に夢中遊行を起こさせた人物が真犯人なのか、といった問題が提起されます。面白いのは、呉一郎にまつわる事件は、後半にやっと現れるばかりで、それまでは、徹底的に「わたし」の戸惑いや恐怖、正木先生の人柄、研究方法などに関する記述に満ちていることですね。そういう意味で、本書は、論理的に犯人を指摘するような、典型的な探偵小説とは一線を画すように思います。私自身は、「怪奇幻想小説」とでも呼びたいような作品でした。
 作中でもっともゾクゾクしたのは、作中に、『ドグラ・マグラ』というタイトルの原稿が登場することです。論文調であり、探偵小説の雰囲気ももち、 …………ブウウ―――――ンンン…という書き出しにして、 …………ブウウ―――――ンンン…で終わる。その作者は、正木博士の精神病棟の入院患者のようで。それでいて、主人公の「わたし」が、『ドグラ・マグラ』を読もうとしなかったことも印象的でした。

ーーー

 これで、日本三大ミステリと称される作品を、私は全て読んだことになります(竹本健治さんの『匣の中の失楽』も加えられることがありますが、こちらも読んでいます)。『ドグラ・マグラ』…なんとも奇妙な物語でした。ただ、読んでいる内にぐらぐらしてくるなんてようなイメージをもっていたので、そういう意味では筋は通っている物語だったので、先入観は覆りました。それでいて、やっぱりぐらぐらする気分には襲われたのですけれど。
 私は、入院歴あり、現在も通院中で、いささか情緒不安的なところがあるものですから、途中で、これにのめりこんだら危険なのではないか、とさえ思いました。大丈夫でしたが(苦笑)
 なんとも目眩く物語でした。読めて良かったです。






Last updated  2008.01.19 18:20:31
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