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のぽねこミステリ館

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2007.10.03
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ミシェル・パストゥロー(松村剛監修/松村恵理訳)『紋章の歴史―ヨーロッパの色とかたち―』
(Michel Pastoureau, Figures de l'heraldique, Gallimard, 1996)
~創元社、1997年~

 ガリマールGallimard社から出版されている「知の再発見」双書は、創元社からどんどん邦訳版も出されています。本書は、その中の一冊。原著(直訳すれば、『紋章の図柄』ですね)を見たことがないのですが、カラー図版と、それに関するキャプションがふんだんに掲載されています。本文の途中に図版が割り込んだりしていて、本文を読むには読みにくい作りなのが、このシリーズの残念なところ…(せめて、左頁に本文、右頁に図版のような形なら良いかと思うのですが)。
 とまれ、本書の構成は以下の通り。

ーーー
日本語版監修者序文

第一章 紋章の歴史
第二章 紋章の図柄と色彩
第三章 紋章学、この知られざる学問
資料篇―紋章は歴史の鍵である―
 1.百合の花は歴史家を怖がらせるのか?
 2.中世の紋章における鷲とライオン
 3.フランス文学の中の紋章
 4.14世紀の紋章裁判
 5.「封建制の象徴」の廃止
 6.日本の紋
 7.記号の言語
 8.無名の紋章の所有者をつきとめる
 9.紋章を創る場合の忠告
 10.紋章用語選

INDEX
出典(図版)
参考文献
ーーー

 監修者序文にもあるのですが、パストゥロー氏は『紋章学概論』(Traite d'heraldique)という大著を1979年に上梓しており、この文献は紋章学の権威であるそうなのですが、邦訳は出ていません。が、「知の再発見」双書として出版された本書は、『紋章学概論』の内容をコンパクトにまとめているそうで、かっこうの入門書といえるでしょう。

 第一章で、12世紀前半の紋章の確立から、現在までの紋章の流れを簡明に概観します。第二章では、紋章を構成する規則について説明し、あるいはよく使われる図柄や色彩について指摘します。第三章では、中世における紋章官の役割から、現在の紋章研究まで、いわば紋章について説明する人々の仕事についてを概観します。3章あわせて、100頁もありません。図版を眺めながら、興味深く読み進められます。

 本書の中で、パストゥロー氏が強調している点、あるいは私にとって興味深かった点をいくつか挙げておきましょう。

○第一章より
1.紋章の起源は、ゲルマン民族、古代、十字軍による東方文化の侵入といったところにはなく、西欧独自の文化に求められるということ。
2.紋章は、特にトーナメントの際、戦士を見分けるために使われるようになったこと。
3.紋章をもつことができるのは貴族に限られるのではなく、社会全体に紋章の所有が広がったということ。(参考:紋章は、教会の外で生まれましたが、後に、教会はまるで「紋章博物館」のようになります)
4.紋章の三つの意味=身分証明;注文や所有のしるし;装飾モチーフ
5.フランス革命期には、「封建制の象徴」である紋章を撲滅する運動があったこと(「紋章の恐怖政治」)

○第二章より
1.ヨーロッパの紋章は、厳密な規則に従って構成されている点で、その他の文化圏の記章(エンブレム)と区別されるということ。
2.色の組み合わせの規則について。
 紋章の基本色は、白、黄(以上、第一群)と、赤、黒、青、緑(以上、第二群)の6色です(第七の色として紫が加わることもあります)。そして、それぞれの群同士の色を並べてはならず、たとえば、白の地なら、上におけるのは第二群の4色のうちいずれかのみで、黄を重ねてはいけないというのです(もちろん、例外はあります)。
3.図柄によく使われるのは、動物(cf. 62-68頁)や幾何学模様で、後になって、植物(ただし、百合の花は初期からあり)や物(武器、道具、衣服)が使われるようになったということ。
4.紋章の分割の世界記録は、ウェールズのロイド・オブ・ストックトン家の大紋章の323分割であること(69頁に写真あり。圧巻です)。
5.兜飾り(クレスト)が、家系的性格をもち、ある家系の名字となるような場合があること。

○第三章より
1.軍使から紋章官へ
 軍使(エロー)は、元来、王族や大領主に仕える官吏で、指令を伝え、宣戦布告し、トーナメントを予告することを務めとしていました。次第に、トーナメントの予告を専門とするようになり、トーナメントの実況中継をするレポーターのような役目ももつようになります。その際、戦士たちを見分けるのは紋章ですので、彼は紋章にも詳しくなければなりません。そこで、次第に、紋章の専門家、紋章官となっていくのです。
2.紋章が教えてくれる二つの情報=所有者の身分;彼が生きた社会的、文化的世界
3.ある家系で、完全な紋章を継ぐことができるのは長子のみで、弟たちは、その家系に若干の変化を加えた紋章をもつ(=差異化)ということ。なお、女性は、未婚の間は家系の紋章を、結婚したら夫の紋章をもつのが一般的。
4.「洒落」紋章(ex.レオン王国がライオンの紋章をもつなど、所有者の名前との類似により選ばれた紋章)が、多くの情報を与えてくれること。たとえば、人名研究への貢献。
5.架空の紋章(文学の中の人物、あるいは紋章の誕生以前の歴史的人物に与えられる紋章)は、それが与えられた人物がどのようにイメージされていたかということと、その紋章の図柄と色彩を対応させることで、図柄と色彩の象徴性を探る上で重要な情報源となるということ。

 資料編も、いろんな話題があって面白いです。特に10の用語集は便利です。その他、資料編1については、こちらの論文(Michel Pastoureau, "Une fleur pour le roi. Jalons pour une histoire medievale de fleur de lis", dans Michel Pastoureau, Une histoire symbolique du Moyen Age occidental, Seuil, 2004, pp. 99-110)を、資料編2についてはこちらの論文(Michel Pastoureau, "Quel est le Roi des Animaux?", dans Michel Pastoureau, Figures et Couleurs, Paris, 1986, pp. 159-175)を参照。

 久々に全体を通して読んだのですが、楽しく読めました。
 これで、現段階(2007年10月)で出版されているミシェル・パストゥロー氏の邦訳書全てについて、記事を書いたことになります。なんだか達成感があります(笑)






Last updated  2008.07.12 18:09:20
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