カテゴリ:本の感想(や・ら・わ行の作家)
横溝正史『夜歩く(金田一耕助ファイル7)』 ~角川文庫、1996年改版初版~ 金田一耕助シリーズの長編です。たしか、『八つ墓村』事件と前後した事件だったかと記憶しているのですが、本書にはそういう情報は出てきませんでした。鬼首村も出てくることから、『悪魔の手毬唄』事件も近い事件だったかと思います。そのどちらかに、『夜歩く』事件に関する言及があったかと思うのですが、はてさて…。 とまれ、内容紹介と感想を(内容紹介については、今日の人権擁護の見地に照らして不適切な用語も出てきますが、作品の時代性を考慮して、作品に沿った用語を用いた次第です)。 探偵小説家である私―屋代寅太―は、表面的には友人の千石直記から相談をもちかけられた。夢遊病の発作のある妹が、怪しい佝僂の画家、蜂屋小市と結婚することになりそうだという。蜂屋小市は、半年前、『花』というキャバレーで謎の女に、太ももを拳銃で射抜かれたが、彼を銃撃した女が、すなわち直記の妹、八千代であるという。 八千代には、怪しい手紙が届けられていた。「近く汝のもとに赴きて結婚せん」「汝夜歩くなかれ」といった内容の手紙が三度届けられ、最後には、佝僂の写真が同封されていた。ただし、その佝僂の首から上の部分は切り取られていた…。 八千代の兄である守衛も佝僂であり、しかしその兄は八千代と血のつながりがない可能性もあるという。そんな中、八千代は守衛と結婚するくらいなら、画家の蜂屋を選んだのだろうというのだが…。 八千代らの住む古神家に、ついに役者がそろう。未亡人の柳、直記の父の鉄之進、守衛、八千代、蜂屋、そして直記と私。直記と私が古神家に着いたその日、酒乱になった鉄之進が刀を持って蜂屋を追いかけるという出来事もあり、夜には、蜂屋の部屋に食事を運んだ八千代がみみず腫れを作ったりということもあり、直記は金庫に刀をしまった。鍵は直記だけが持っており、そしてダイヤル錠の番号は私しか知らない。 同夜。八千代が夢遊病の発作を起こし、離れの洋館に歩くのを、直記と私は目撃した。翌朝、洋館から、首を切断された佝僂の死体が発見された。被害者は、蜂屋なのか、守衛なのか…。さらに金庫をあけて刀をたしかめると、刀は血に染まっていた…。 後、舞台は岡山県鬼首村にうつる。そこでも、惨劇は繰り返される。 中学生の頃に、横溝さんの『本陣殺人事件』をはじめて読み、その後夢中で金田一耕助シリーズを読んだのですが、その中でも、本書は印象的でした。やはり、ミステリというジャンルを読み始めた時期ですので、私にはトリックも犯人もとても新鮮なのでした。昨年か一昨年でしたか、ある方に、私が横溝正史さんからミステリに入ったということについて、読む順番が良かったと言っていただいたことがあるのですが、あらためて、そう思います。 当時、トリックや犯人について衝撃を受けたのは、『本陣殺人事件』『女王蜂』、そして『夜歩く』ですね。横溝正史さんの、いわば古典的なミステリで、こうしたトリックなどにふれられていたのは幸せだと思います。 さて、『夜歩く』も何度目かの再読ですが、楽しく読むことができました。何度か記事にも書いていますが、まずタイトルが魅力的ですよね(ディクソン・カーの作品にも同名の作品があったと記憶していますが、未読です)。 どろどろした一族の因縁。病。呪いの刀。などなど、いかにもな装置が見事に生きています。やっぱり面白いですね。 *表紙画像は、横溝正史エンサイクロペディアさまからいただきました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.10.09 07:45:06
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