のぽねこミステリ館

2008/01/28(月)06:47

舞城王太郎『スクールアタック・シンドローム』

本の感想(ま行の作家)(136)

舞城王太郎『スクールアタック・シンドローム』 ~新潮文庫、2007年~  3編の短編が収録されている短編集です。  単行本『みんな元気。』が、文庫化に際して分冊化され、本書はその第二巻にあたります。が、単なる分冊ではなく、本書の方には書き下ろし「ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート」が収録されているのがニクイですね。…あ、単行本での収録の順番も、文庫版では変わっているようです。  では、内容紹介と感想を。 ーーー 「スクールアタック・シンドローム」  3人の高校生が高校の623人を殺害し逃亡している頃、ソファの上から動けなくなった俺のところに大男がやってきて、俺が男の耳を噛みちぎって飲み込んだら、男は逃げていった。俺に精神科への通院を紹介しにきてくれた井上は、男を追っていき…。  15の時の俺の子どもは、学校の生徒や教師たちを殺していくノートをつけていた。なんとかひきこもりから脱しようとする俺は、息子と話をするため中学校へ趣く。 「我が家のトトロ」  レモンスカッシュ(通称レスカ)という名前の猫がうちにきてから、僕たちの生活が変わり始める。僕は脳外科の医師にならなければならないという天啓を受け広告代理店をやめ、かわりに妻のりえがその広告代理店で働くようになる。娘の千秋はいじめにあいはじめたので、学期が変わってから転校させることにした。家では、レスカがぶくぶく太っていくが、千秋はある日、レスカはトトロで、レスカの背中に乗って飛んだのだ、と僕に話す。 「ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート」  俺がつきあっている智春は、杣里亜をゴミ箱とみなして平気で殴っていたが、ある日杣里亜を殺してしまった。ところが杣里亜は、その名前の由来となった国ソマリアで俺と会い、この世に戻ってきた。これをきっかけに、智春は彼女と友達になることを決めたが、杣里亜は今度はふたたび変態叔父にいろんなことをされ、殺されてしまうことに怯えながら生活することになる。 ーーー 「スクールアタック・シンドローム」「我が家のトトロ」は再読ですが、ほとんど覚えていなかったこともあり、新鮮な気持ちで読みました。驚いたのは、泣けてきたこと。通勤と帰りの電車の中で主に読書するのですが、これが電車の中でなかったらぼろぼろ泣いたかもしれません。  もちろんそれは私の感受性が大きな要因だとは思うのですが、読点の少ないたたみかけるような文体で、話も割とアグレッシブでありながら、ぐっとくる描写が多々あり、良かったです。  いまさらですが、大男の耳を食べたり、なかなかシュールな世界ですよね。 「ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート」は、そこに描かれているテーマは不快に感じるものも多いのですが、一人称の徳永さんが割と前向きというか、救いのあるような価値観の持ち主であることもあってか、読了後にひどく暗鬱な気持ちになるようなことはありませんでした。  ところで、「我が家のトトロ」に(名前だけ)登場するイゲラ君は忘れられません(笑) (引用) 「あのな、言っとくけど人殺したりするなよ」 「なんで?」 「いろいろ大変だからだよ」    ―「スクールアタック・シンドローム」 (2008/01/25読了)

続きを読む

このブログでよく読まれている記事

もっと見る

総合記事ランキング

もっと見る