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2008.04.24
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宮松浩憲「鉄とその象徴性―歴史人名学からの問いかけ―」
『久留米大学産業経済研究』45-1、2004年、205-220頁

 宮松浩憲先生は、ジャン・マビヨン『ヨーロッパ中世古文書学』(九州大学出版会、2000年)という大著の翻訳をされており、また、中世のブルジュワ・金持ちに関する研究書も発表されています。その後は、「セーヌ川を飲み干す―中世フランスの人名と心思―」というタイトルで、日本ではほとんど未開拓の歴史人名学に関する論文を発表されています(こちらの論文は連載[?]で、いずれは本にされる予定があるそうです)。

 今回紹介する「鉄とその象徴性」は、歴史人名学からの関心から、鉄の象徴性を読み解こうとする論考です。
 以下、レジュメ風に、本論をまとめます(なお、節ごとの小見出しは原文にはなく[原文はローマ数字のみ]、便宜的に付け加えています)。

ーーー

   I(問題提起)

・鉄の二つの象徴…(1)強さ (2)それがもたらす最悪の結果(殺戮、「堕落」)
・鉄に関わる有名な言葉
 チャーチルの演説「鉄のカーテン」;ビスマルクの「鉄血政策」;サッチャー元英首相を形容する「鉄の女」
・問題提起:鉄のこのような使用法はいつから? それは鉄を使用する民族に共通して見られる現象か?
 →ヨーロッパ人と日本人の間における鉄とその象徴性との関係を考察

   II(ヨーロッパにおける鉄とその象徴性)

○クロムウェル(とその軍隊)を形容する「アイアンサイドIronsides」の意味
・クロムウェルら議会派vs王党派→両陣営とも、鉄でできた甲冑を身につけ、武器は剣、槍、火縄銃
 ∴クロムウェル側が鉄の装備によって勝ったわけではない!
・アイアンサイド…もともと、クロムウェルに与えられた言葉
 →クロムウェル、鎧をまとっただけで先陣を切って敵と勇敢に戦う(鉄で重装備していたわけではない) *アイアンサイドを、日本の多くの教科書・参考書は「鉄騎兵」と訳しているが、これは不適
  →「鉄騎兵」の語…「日本人の間に浸透した鉄の象徴性と合致していたため、長い間間違いが一人歩きする結果となった」
・「鉄騎兵」の語は、イギリスにおける軍隊の歴史の流れにも反する!
・中世から発展してきた重装騎兵は、重量、その重さを支える馬の調達の困難などの理由から、ニューモデル軍からは排除される
○「鉄」にかかわる渾名
・デンマークはウプサラ王ビオルン1世…渾名の由来は、「剛勇としての名声のため」とされる
・英王エドマンド2世…アイアンサイドの渾名の由来
 (1)「戦争において最高の力と驚くべき忍耐力を発揮していたので」(『イングランド人の歴史』)
 (2)「その悔悛さゆえに」(『アングロ・サクソン年代記』)
・その他の渾名…「鉄の腕」、「鉄の足」(健脚?)、「鉄の頭」
 *以上、「鉄」そのものとの関連というよりも、強さ、勇敢さのために、「鉄」と関連する渾名がつけられている
○「アイアンサイド」の由来に関する新説の提示と、旧説・新説の難点
・旧説…全身を鉄製の甲冑で守られていたため
 →難点:早い時期における鉄製に甲冑の存在が立証されていないこと
・新説…馬と武器の扱いが俊敏であったため
 →難点:鉄との関係が希薄になっていること

   III(日本における鉄とその象徴性)

○鉄を含む熟語の新しさ
・「鉄則」「鉄心」「鉄拳」「鉄腕」など…明治時代以降;「鉄人」はさらに新しい
○「鉄腕アトム」について
・アトムの素材=プラスチック
 →あえて「鉄腕」の名=無敵を表すためにつけられた
*中国史の専門家によると、強さを鉄で言い換える表現方法は中国ではあまり普及しなかった
 ∴このような言い回しは、近代以降の日本人に特有、固有の心思

   IV(結論)

・鉄の語を用いた表現の根拠
 (1)使用している素材との関係
 (2)強さを象徴するため→西洋中世、日本(少なくとも明治以降)
・さらなる問題
 ・明治以前の日本人と鉄との関係は?近隣諸国における事情は?
ーーー

 ずいぶん興味深い論文でしたが、第三節は事例の紹介が多く、第二節の綿密な分析を読んだ後では、若干物足りない感もありました。もっとも、こちらは「研究ノート」ですし、さらなる研究を促しています。
 この論文でもっとも読み応えがあるのは、なんといっても「鉄騎兵」という訳語に疑問を投げかけ、その不適切さを明らかにする部分です。「鉄」に関わる渾名を列挙し、素材としての鉄とは乖離した、強さとしての鉄の象徴性を明らかにする過程も面白いです。
 楽しかったのは、「鉄腕アトム」などのマンガや物語への言及や、映画の思い出などにもふれてあることです。

 上にも少し書きましたが、宮松先生は歴史人名学の分野に果敢に挑戦されており、その分野がもつ豊かさの一端がうかがえる論文でした。
(2008/04/22読了)


 これからは、日本語論文のメモも書いていこうと思います。





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Last updated  2008.07.12 17:42:11
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