カテゴリ:本の感想(た行の作家)
筒井康隆『48億の妄想』
~文春文庫、1976年~ 筒井康隆さんの最初の長編です。いやはや、小説を読む時間がとれるようになり、2冊目に読みましたが、こちらもものすごく面白かったです。読んでいて何度か感動で震えましたが、久々に読書ができて物語がもつ面白さに感動しているのもあると思いますが、本書のすごさも大きいと思います。 まずは、簡単に内容紹介を。 ーーー 「情報化社会」に入った日本では、マスコミが絶大な力を握っていた。日本各地には小型のテレビカメラ(アイ)があからさまに、あるいは密かに設置され、局の方で面白い映像を確認すると即座にそれを流す、という社会。日本中の(そして、これは世界中にあてはまるのですが)ほぼ全員がテレビに出たがり、アイを意識して行動する。有名人のバロメーターは、その家に設置されたアイの数で。国民はとにかく分かりやすく、派手で、面白い番組を期待し、ニュースにもそれを求める。国民の意見でマスコミもどんどん報道を派手にし、大事故の模様をセットで再現するほどの世界。 銀河テレビのディレクター、折口も、どんどん派手なニュース番組を制作していた。ところが、日韓対立の大問題の解決に悩まされていた外相の死後、彼の在り方は変わるようになる。外相の葬式を大々的に報道する中、外相の一人娘だけは、決してテレビカメラを意識した行動をとらなかったのだ。 彼女と出会い、折口は変わっていく。そんな中、ついに、日韓のマスコミ同士で示し合わせ、両国は「喧嘩」として、海戦を行うことになる。 ーーー まず、平岡篤頼さんによる解説の一文を引用します。 「[…]彼の小説はカフカの場合と同様、前提だけが非現実的だが、後はきわめて論理的に、必然的に展開される」 なるほど!と、うならされました。本作を読み進める中で、そのリアリズムが引き起こす恐怖感に何度もぞくぞくしたのですが、この解説の言葉ですっきりしました。アイが日本中に設置され、ほぼあらゆる人がテレビを意識し、テレビに出たがる社会… というのは「非現実的」な前提なのですが、登場人物たちの思考は、その前提をふまえた上でとても現実的なのです。個人的には、最近はほとんどテレビを見ませんが、しかし本作のレベルほどでなくても、同様のことはいまも行われているのではないかと思います。 たとえば、某報道番組では、職場を退いた方のインタビューの際、その方に元の職場の制服を着せていたことがありましたし、某教養番組では、事実の改変が行われていました。個人的には、前者は放送局がバカだな、で済むのですが、後者は、放送に分かりやすさ・面白さを求め、テレビ番組の言うことにすぐに飛びつく消費者の方にも問題があり、放送局が増長した部分もあるのではないかと想像しています。 ということをふまえて読むと、余計に怖くなる物語でした。 また、第一部終盤のクライマックスではどきどきしました。 なんとも語彙がないのがもどかしいのが、とにもかくにも面白いです。良い読書体験でした。 (2008/07/01読了)
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