カテゴリ:本の感想(た行の作家)
筒井康隆『アフリカの爆弾』
~角川文庫、1987年34版(初版1971年)~ 筒井さんの短編集です。12編の短編が収録されています。割合スパイものの収録数が多いですね。 では、それぞれについて簡単なコメントを。 ーーー 「台所にいたスパイ」おれは、父親や妻の会話を盗聴していた。逆に、彼らはおれのことを監視している。誰が味方で誰が敵なのか…。 家族や町の人たちがスパイという話です。どたばたを楽しみながら読むのですが、ラストのシーンでは悲しい気分になりました。…いまラストだけ見返したのですが、これは深いですね。 「脱出」タレントのミッキー立川は、撮影を終えて帰路についた―が、そこでも彼は演技を続けなければならなくなる。 「露出症文明」スクリーンつき電話、通称「顔テレ」が流行っている社会で、私一家が「顔テレ」を買う話。役人とのケンカが面白いです。 「メンズ・マガジン一九七七」ある男性誌編集室が舞台。ヌードモデルのお尻からサナダムシが出てきて、男性誌に批判的な女性の団体が抗議に乗り込んできて、エトセトラエトセトラ…。本書の中のドタバタナンバー1作品だと思います。 「月へ飛ぶ思い」月面飛行の前日、それまで厳格な管理下にあった乗組員たちは、意外なことに外出を許可された。おれものんびりと外出をするが、思いもしない展開に…。 「活性アポロイド」科学者の父親を手伝いしている中で、さすったりつまんだりすると気持ちよくなるボールを作った毒島薬男(ぶすじまらりお)。その噂は学校中に、そして日本中に広まって…。やがて政府が乗り出すあたり、「郵性省」(『日本列島七曲り』所収)を連想しました。話の方向もあんな感じですし…。 「東京諜報地図」こちらもスパイもの。おれは、ソ連のマミアナフ氏が駐日アメリカ大使と密会するところに立ち会い、マミアナフ氏を護衛する任務を負っていた。その前に数々の苦難が立ちはだかり…。 「ヒストレスヴィラからの脱出」とにかく遠くへ行って一人になろう。地球人のほとんどいないヒストレスヴィラに旅したおれだが、友人からの便りに地球に戻りたくなる。ところが、なんともゆっくりした星のこと、電車に乗るにも苦労して…。 「環状線」環状線を利用して、人を増やす話。 「窓の外の戦争」…短い話ですし、内容紹介は書きませんが、好きな作品です。 「寒い星から帰ってこないスパイ」スパイにあこがれた男が、念願のスパイ活動に出る(と思いこむ)。 「アフリカの爆弾」隣に国が爆弾を買った。この国でも買わなければ…。人々は地球が粉々になってしまうほどの破壊力がある爆弾(中古品)を買いに行くが、村(国)に戻るのも一苦労。 ーーー 冒頭にも書きましたように、スパイものの話が多いですが、ただのスパイものではないのが面白いですね。おおざっぱにいって社会風刺、流行風刺、ある種のホラーと、それぞれに味わいが違います。 本書の中で特に好きなのは、「台所のスパイ」と、「窓の外の戦争」です。どちらも深いです。 (2008/09/29読了)
お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.10.03 07:19:19
コメント(0) | コメントを書く
[本の感想(た行の作家)] カテゴリの最新記事
|
|