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2008.10.12
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ミシェル・パストゥロー『紋章学概論』第1巻第1章
「紋章の起源と出現」
(Michel Pastoureau, Traite d'heraldique, pp. 20-36 : Livre I, chapitre I
"L'origine et l'apparition des armoiries"
)

 今回は、ミシェル・パストゥロー『紋章学概論』より、その第1巻第1章「紋章の起源と出現」を紹介します。
 まず、本章の構成は次のとおりです。

ーーー
I.前紋章
 1.古代
  a)ギリシャ b)ローマ
 2.初期中世
II.紋章の出現
 1.原因
 2.洗練
 3.年代
III.未解決の問題ときたるべき研究
 1.史料の利用
 2.問題の定式化
ーーー

 以上の流れに沿って簡単に内容紹介をして、若干のコメントを付け加えたいと思います。

I.前紋章

 ギリシャの記章は、二つのタイプに分けられます。一つは、個人的あるいは家系的な記章、もう一つは都市に固有の記章です。まず、都市の記章については、その図柄は都市名の頭文字や神のアトリビュートなどからとられました。他方、戦士の記章はより多様で、敵を怖がらせるための図柄や、「語呂合わせ」の図柄が用いられました。ただ、図柄に規則がなく、同一人物がずっと同じ記章を使ったわけではないといった点で、これらの記章は真の紋章とはいえません。

 ローマの記章については、兵士の盾や軍旗について言及されます。軍隊の記章については、それぞれの軍隊には固有の記章があるという証言がある一方で、同一軍隊の中でも異なる記章を使う人物を描いた図像も残されていて、複雑なようです。

 初期中世については、記章が描かれる盾に関する説明が面白いです。12世紀の初め頃―すなわち紋章が誕生する頃―、騎士が用いる盾は高さおよそ1.5メートル、幅は50~70センチメートルという大きなものとなります。戦いの後には、これが担架としても使われたという指摘が興味深かったです。

II.紋章の出現

 紋章の出現の原因について、従来は大きく三つの説が主張されていました。第一に、古代の前紋章と直接関係があるという説。第二に、ルーン文字やゲルマン地方の記章の影響という説。最後に、十字軍によって東方からもたらされたという説です。
 しかし、パストゥローはこれらの説を否定し、12世紀頃の軍事的装備の発展が大きな原因であると主張します。鎖帷子や兜、大きな盾で戦士の見分けがつかなくなるので、見分けをつけるために紋章が用いられたということです。
 また、紋章の図柄や色彩は厳密な規則でしばられることになりますが、このことが、(中世以降の)ヨーロッパの紋章を、他の社会や他の時代の紋章体系と区別する重要な特徴だといいます。

 紋章の誕生年代に関する細かい論争はここでは省略しますが、結論的にいえば12世紀のおよそ3/4を占める期間に紋章は登場するのであり、決定的な年代を確定するのは無意味なことだと著者はいいます。

III.未解決の問題ときたるべき研究

 まず、紋章研究に有用な史料が列挙されます。装飾写本、彫刻作品、絵画作品や日用品(金銀細工、遺物箱、チェス、布、革製品など)、貨幣といった考古学的史料が重要な情報源となるのはもちろんですが、文学作品なども貴重な史料となります。
 西欧における紋章の出現については、年代確定の問題を別とすれば、次の3つの問題が挙げられます。図像学的な問題、技術的問題(紋章規則など)、社会的・法的問題の3つです。中でも、第3の問題に関する研究が、今後は深められなければならないと著者はいいます。

   *   *   *

 上ではあまりふれませんでしたが、パストゥロー氏の研究は、細々とした西欧紋章の規則や起源の問題にとらわれるばかりでなく、人類学的な観点も視野にいれているところが面白いです。たとえば、第I節「前紋章」の中で、ギリシャの話に入る前に、「紋章学的」記章体系をもつ地域として、メソポタミア、日本、インカ、イヌイットなどが挙げられると指摘します。実際には、これらの記章体系についての詳述はなく、それらに対する西欧の紋章体系の特異性が強調されるわけですが、それでもこれからの研究の視野を広げてくれるのは間違いないと思います(私自身は紋章学を専門にしているわけではないのですが…)。

 残りの章も、ぼちぼち訳出していきたいと思います。





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Last updated  2008.10.12 06:43:32
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