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2008.10.22
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氏原寛/松島恭子/千原雅代[編]『はじめての心理学―心のはたらきとそのしくみ』
~創元社、2000年~

 大学あるいは短大の、心理学の導入の教科書として位置づけられる本です(読者の対象は大学1~2年生を対象にしているようです)。「まえがき」でも、本書は「教科書」だと言われています。教科書というと堅苦しいイメージですけれども(私は勉強は好きですが教科書は好きではありません…)、本書は一般向けに分かりやすく心理学のいろんな研究と成果を紹介してくれています。
 私は在学中に何冊か心理学系の本も読んだもので、本書も読んでいましたので、今回数年ぶりの再読ということになります。その数年のあいだに、私自身が入院生活を経験したこともあり、数年前とは違った視点で読めたように思います。
 まず、本書の構成は次の通りです。

ーーー
まえがき(松島恭子)
第1章 【総論】心の二重性(氏原寛)
第2章 【学習】月に吠える犬(鎌田穣)
第3章 【知覚】あばたもえくぼのメカニズム(安福純子)
第4章 【認知と記憶】私は誰か―解離の病(谷口奈青理)
第5章 【社会】人間はみな兄弟か(三船直子)
第6章 【人格】それでも私は私である(坂田浩之)
第7章 【発達1】二人いるから一人になれる(篠田美紀)
第8章 【発達2】憧れは山のかなたに(久保恵)
第9章 【感情】私の中の他人(千原雅代)
第10章 【意識と無意識】わが内なる自然(康智善)
第11章 【臨床】心の癒し(鈴木千枝子)
第12章 【精神保健】すこやかな心のために(越智友子)
第13章 【文化】エロスの復権(松島恭子)
あとがき(千原雅代)
ーーー

 各章の後ろには、その章に関する人物や事項についてのコラムがあって、こちらも楽しいです。たとえば、児童心理学の分野で有名なピアジェが幼少時は自然科学に興味をもっていて、10歳のときには白スズメに関する生物学の論文を書いていたなんてエピソード、などなど…。
 上にも書いたことの補足ですが、本書は(本文余白の註を除き)すべて「です・ます体」で、読みやすく書かれています。枕元の友にして、一日1章ずつ寝る前に読みました。

 さて、13章全てにふれるのは大変なので、興味深く読んだところに重点を置きながらつらつらと書いていきます。

 まず、第1章で、心理学というよりも生き方・考え方の部分で興味深い部分がいくつかありました。一つは(第7章とも関連しますが)小さな子どもは母親に依存しているからこそ自立できるということを指摘したあとで、「現在、自立とは依存を切り捨てることだと思い込み、そのためにわけのわからない孤独感に悩まされて、酒や踊りやときには麻薬によって紛らわせている若い人が少なくありません」(18頁)と続けます。さらに、心理学者ウィニコットの、「依存のない自立は孤独にすぎない」という言葉を紹介しています。著者の方々は全員臨床心理士ということもあり、この部分もそうですが、読みながらなんだか安心できるところが多かったです。
 なお、先に書いた幼児の依存と自立について付け加えておきますと、幼児は母親が近くにいてくれると安心しているからこそ、母親から少し離れたところまで行って、興味をもったもので遊びます(自立)。ところが何かのひょうしでびっくりしてしまうと、急いで母親のところに戻ります(依存)。こうやって、誰か(小さな頃は特に母親)に助けられながら、自分の世界を広げていくことができるといいます(7章参照)。

 もう一つ、第1章で面白かったのは、絶対評価と相対評価の話。小学校などで優等賞や一等賞が消えていることを挙げながら、お互いの差をあわらにすまいとする人たちが、その差が人間的な値打ちを左右するという偏見にとらわれているということが多いといいます。「だから差別反対を声を大にして叫んでいる人たちが、逆に最も強い差別感にとらわれている場合があります」(31頁)という言葉や、「運動会の一等賞廃止に賛成する人が、大のオリンピックファンであることも珍しくありません」(30頁)という言葉を、そうそうと同感しつつ読みました。好きで読んでいる筒井康隆さんも、この手の一等賞廃止論者への風刺を書いておられるので、そんなことを連想したりしました(ちょっとどの本か忘れてしまいましたが…)。

 第3章は、いわゆるだまし絵がたくさん紹介されていて、それだけでも楽しいです(もちろん内容も興味深いです)。

 第7章は幼少期、第8章は思春期・青年期を扱っています。自分の幼少期の頃は覚えていませんが、第8章についてはいろいろ(残念なことも)思い出しながら読みました。

 11章~13章は、もちろん専門領域のことも踏まえつつ、現在の生き方や考え方にも示唆を与えてくれるように思います。

 12章は「健康」について書いているのですが、「健康という幻想」という考え方を興味深く読みました。いつでしたか、健康番組で捏造がありましたが、その番組で良いとされた品物がやたら売れたことがあったとか。インターネットで最近見ていると、最近ではやたらバナナが売れるとか(もうこの流行も済んだのでしょうか)。なんだかなぁと思います。
 そして、悲しみや怒りという「マイナス思考」も大事なんだよ、という指摘も興味深いです。失恋などで悲しみながらも、うまく泣けなかったり、悲しめなかったりしていると、後から深い鬱になるということもあるようです。「喪失体験の直後に必要な『悲哀の仕事』をしきれなかったつけが、長く尾を引く症状として現れるのでしょう」(307頁)、と、著者は続けています。
 もう一つ、印象的だった部分を引いておきます。「いろいろな悩みを丁寧に悩める人の心のひだは幾重にも深く、重い悩みを背負って歩む人の心の足腰は鍛えられて強靱なことでしょう。このように悩みをしっかりと抱えられる力、悩みをまっとうに悩める力は、寛容や柔軟性と並んで、心の健康の大きな要素の一つだと考えられます」(308頁)
 11章では「悩みを聞いてもらうことの重要性」も書かれていますし、第1章では先にもふれたように依存の重要性が説かれています。
 残念なニュースが多い昨今ですが、なんというか、生きやすい世の中になれば良いなぁと思います。

 ちょっとずれてしまいましたが、最後の13章。ここでいう「エロス」は、簡単にいえば、物事を論理的・客観的に見る「ロゴス」とは反対に、物事を体験を通して知ること、といえるでしょう。太陽が何度で直径がどれだけあって地球からの距離がどれくらいか、というのは「ロゴス」。お日様が照っていると温かいよ、ということを知るのが「エロス」の知です。本章は、この「エロスの知」が最近では減らされているのではないかといくつかの点を指摘した上で、その重要性を説いています。私がまさにインドアで本を読むのが好きな「ロゴス」派といえるのでしょうが、実際に体験することで得られるものがとても大きいのも分かるつもりです。心にとめておきたいです。

 第9章のコンプレックスの話や第10章の無意識の話など、ここではふれられなかった話も多いですが、どの章も興味深いです。他の心理学の概説はあまり読んでいませんが、記述もやさしいですし、いろんなテーマが紹介されていますし、心理学に興味を持っている方の導入としておすすめの1冊です。

(2008/10/19読了)





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Last updated  2008.10.22 06:45:54
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