カテゴリ:西洋史関連(論文紹介)
Michel Pastoureau, "L'animal et l'historien du Moyen Age"
dans Jacques Berlioz et Marie Anne Polo de Beaulieu (dir), L'animal exemplaire au Moyen Age ― Ve - XVe siecle, Presses Universitaires de Rennes, 1999, pp. 13-26. 今回は、ジャック・ベルリオズ/マリ・アンヌ・ポロ・ド・ボーリュー監修『中世の模範的動物―5世紀から15世紀―』所収の、ミシェル・パストゥロー「動物と中世史家」を紹介します。本書の序論としての位置づけになろうかと思いますが、内容的にはこれまで氏がいろんなところに発表してきた研究の寄せ集めという観もあります。 まずは本稿の構成を示した上で、すでに別の記事で紹介した部分についてはそちらに譲り、本稿のなかで興味深かった部分について重点的に書いていこうと思います。 本稿の構成は次のとおりです(原著には節の番号はないですが、便宜的に[ ]に入れて付しておきました)。 ーーー [はじめに] [1]動物に対するキリスト教中世―二重の態度 [2]小さな物語petit histoireから人類学的歴史学へ―動物裁判 [3]人間に最も近い動物―豚 [4]動物学の歴史とアナクロニスムの陥穽 [5]象徴的な動物―政治的・文化的役割 ーーー [はじめに]で、従来は動物に関する歴史研究は「小さな物語」として退けられていたけれど、ロベール・ドロールの研究(『動物の歴史』)やその他の諸科学(人類学、言語学、動物学)との協力から、動物も歴史学の対象として認められていたことを指摘します。そして、[1]ではキリスト教中世が動物に対してとった二つの態度(人間より劣った存在として見るか、よく似た存在として見るか)を紹介し、その例として、[2][3]で動物裁判について見ることになります。ここまでの部分については、ミシェル・パストゥロー『ヨーロッパ中世象徴史』所収「動物裁判―見せしめとしての正義?」(原著を読んでの記事はこちら)とほとんど内容が重複していますので、動物裁判の事例や類型などについては、そちらの記事に譲ります。 順番は前後しますが、[5]節では同書「獅子の戴冠」(原著を読んでの記事はこちら)でもふれられている動物園の話や、「動物の王は何か」(『図柄と色彩―中世の象徴と感性に関する研究』所収)などでもおなじみ、紋章に見るレオパール(豹)の話があることを思えば、本稿の中では特に[4]節を興味深く読みました。 [4][5]では、歴史家が注意すべきアナクロニスム(時代錯誤)の陥穽について、熱く語られます。 まず[4]節では、中世文化における動物を見るときに、現代的な動物学の見方をするという過ちを糺弾します。たとえば、ほ乳類の概念。これは18世紀に生まれたそうで、中世の人々には知られていなかったとのことですが、このほ乳類の観念で中世世界を見てしまうと、イルカが魚の王様と考えられたことが理解できなくなってしまうといいます。また、ちょっと上にも書きましたが、中世のレオパール(豹)と今日の豹は関係がない、ということも理解しがたくなってしまいます。パストゥロー氏が強調するのは、中世文化自体の観点から研究を進めることの重要性と、同じく、想像界が現実世界と同様に重要な領域である、ということです。たとえば、ある社会の多様な側面を研究する社会学者や人類学者も、その社会の価値体系、想像界を研究しなければ、その社会のことは理解できないのだ、と、かなり熱い言葉もありました。 [5]節では、中世という時代をひとまとめにして考えるというアナクロニスムを批判します。たとえば、動物園でもっとも多く飼われた動物は、時代によって変わっていきます(初期中世では猪、熊、ライオンの3つの「王」がいましたが、やがてライオンが唯一の王となります)。動物を戦わせる見世物でも、ライオンと熊の戦いが減っていっても、ライオンと雄牛の戦いは行われたといいます。15世紀頃から雄牛の復権が起こったとのことですが、これについては「雄牛の象徴史序論」(『色彩・図像・象徴―歴史人類学研究』所収)が参考になります。 ミシェル・パストゥローの論文をいろいろ読んでいると、いろんなところで同じことを書いているので、目新しさがないこともよくあります(ただし、おかげで知識や理解は補強されていくように感じています)。本稿についてもそれはいえますが、「動物と中世史家」という論考のタイトルを思えば、本稿でもっとも重要なのはやはりアナクロニスムへの警鐘だといえると思います。 興味深い論考でした。 (2008/12/08読了)
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Last updated
2008.12.11 07:10:33
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