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2009.03.25
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エマニュエル・ル=ロワ=ラデュリ(稲垣文雄訳)『気候の歴史』
~藤原書店、2000年~
(Emmanuel Le Roy Ladurie, Histoire du climat depuis l'an mil, Editions Flammarion, 1983)

 近年、気候(あるいは環境)の歴史が注目されてきているようです。
 気候の歴史については、たとえば、
・永田諒一「ヨーロッパ近世「小氷期」と共生危機―宗教戦争・紛争、不作、魔女狩り、流民の多発は、寒い気候のせいか?―」『文化共生学研究』6、2008年、31-52頁
 などがあります。
 環境の歴史については、
・ロベール・ドロール/フランソワ・ワルテール(桃木暁子/門脇仁訳)『環境の歴史―ヨーロッパ、原初から現代まで―』みすず書房、2007年(買ってはいるものの未読です)
・大黒俊二「環境史と歴史教育―究明、貢献、退屈―」『歴史評論』650、2004年、2-9頁
 などがあります。また、
甚野尚志・堀越宏一編『中世ヨーロッパを生きる』東京大学出版会、2004年
 の中にも、自然と人間をテーマにした部が設けられています。
 とまれ、本書『気候の歴史』は、こうした歴史を研究する際の必読書となっているといえるでしょう。
 著者のル・ロワ・ラデュリは、『モンタイユー』(刀水書房、1990年)などの民俗学的研究でも有名です(『モンタイユー』を、ものすごく興味深く読んだのを忘れられません)。方法論に関する論文「歴史家の領域―歴史学と人類学の交錯―」については、このブログでも記事を書いたことがあります。
 そんな著者は、1960年代には気候の歴史について精力的に研究をされていたようで、本書はその貴重な成果です。

 本書の構成は以下のとおりです。

ーーー
序論
第一章 調査の目的
第二章 森林と葡萄の収穫日
第三章 一つのモデル―最近の最温暖化
第四章 「小氷期」の諸問題
第五章 作業仮説
第六章 中世の気候の年代学と「小気候最適期」の諸問題
第七章 気候変動が人間におよぼした影響と気候変動の気候学的要因
あとがき

原注
資料 アスペン会議のダイアグラム
参考文献
手稿史料
図表一覧
図版一覧
訳者あとがき
ーーー

 以下、印象に残った部分を中心に、全体をかんたんに紹介してみます。

 序論と第一章は、気候それ自体の歴史を研究するという問題意識、方法論の表明となっています。
 特に興味深かったポイントは、3点あります。
(1)人間中心の歴史からの脱却
 有名な歴史家マルク・ブロックは、次のように言っています。「風景の目に見える特徴や[道具や機械]の背後に、一見きわめて冷徹な文書やそれを制定した者たちから非常に離れたように見える制度の背後に、歴史学がとらえようとするのは人間たちなのである。そこに到達できない者は、せいぜいが考証の職人にすぎないであろう。よい歴史家とは、伝説の食人鬼に似ている。人の肉を嗅ぎつけるところに獲物があると知っているのである」
(『新版 歴史のための弁明―歴史家の仕事』6頁)
 ル・ロワ・ラデュリはブロックを称賛しつつも、この言葉には異議を唱えます。彼は、歴史家の任務を、人間の専門家にとどめるのではなく、「歴史学者とは、時間と古文書に関わる人間であり、年代順に記録されたいかなるものも彼には無関係ではありえない(……)彼はまた、ある場合には、それ自体としての「自然」に関心を抱くこともありうる」(33頁)と言います。「物理的歴史と人間的歴史もまたありうる」、と。
 このことについては、第三のポイントにも関わるのですが、私自身はやはり、究極的にはその時代、その地域に生きた人間を探ることが、歴史学の目的なのでは、と思ってしまいます。物理的歴史は、そうした過去の人間の現実をさらに正確に浮かび上がらせるために有用だからこそ、歴史学にとって有意義なのではないか、と。…しかし、物理的歴史(それこそ気候や環境の歴史)が、今日の諸問題を考える手掛かりになることを思えば、やはりその意義は大きいわけですが。
(2)学際的研究
 とまれ、気候の歴史を探るにあたっては、伝統的な歴史家が依拠してきた古文書(文字史料)だけでは十分ではありません。気候学、地理学、地質学、花粉学、年輪年代学など、いわゆる自然科学の諸分野の知見をふんだんに取り入れる必要があります。そして本書は、まさにそうした自然科学の成果を多く紹介しながら、過去の気候状況を明らかにしようとしています。
(3)研究の二つの段階
 ル・ロワ・ラデュリは、気候の歴史には、二つの段階があると言います。第一段階は、(人間中心主義を一切排除して)気候それ自体の歴史を明らかにすること。第二段階は、第一段階の成果を取り入れながら、過去の気候と人間の歴史を結びつける作業です。
 本書は、それ以前の研究が不十分であったために、第一段階を中心的に論じます。(1)で所感めいたことを書きましたが、私自身は第二段階の研究が、歴史学の究極的な目標のように思います。もっとも、それも第一段階の研究が不十分であれば、失敗に終わるでしょう。そういう意味で、第一段階の重要性があるのでは、と思うのです。

 第二章は、気候の歴史を探る方法として、森林(特に年輪年代学)と葡萄の収穫日に関するデータを手掛かりとする研究を紹介します。

 第三章は、1850年頃から、(地球は)「再温暖化」の時期にあり、1940年頃からは、世界的な「冷涼下」が起こっている、というデータを示し、具体的にその分析を行います。このあたりから、気候の歴史を研究する上で、氷河が果たす重要性が指摘されます。

 第四章から第六章にかけて、気候の歴史の分析は、新しい時代から過去に遡っていきます。
 第四章は、1600年頃から始まり1850年頃に終わる「小氷期」に関する綿密な分析です(本書の中で最も頁数も多いです)。自然科学の知見だけでなく、文書史料も多く紹介されます。私が専門に勉強している時代ではないため、流し読み気味になりましたが、その方法論は勉強になります。また、膨大な知見に驚かされます…。
 第五章は、第四章の補足、といえるでしょう。

 第六章は、(紀元千年以降の)中世の気候を分析する試みです。文書史料も不十分ですし、科学的データも誤差の幅が大きいようで、この時代の気候についての綿密な分析は難しいようです。簡単に気候の歴史の流れを示せば、1000年~1200年頃に割合暖かい時期、「小気候最適期」があり、 1200-1300年頃にいったん寒くなってきて(氷河の前進)、第四章で分析したように、1600年ころから「小氷期」のピークがくる、ということになります。

 第七章は、まず前半が気候の歴史と人間の歴史の結びつきを簡単に検討(特に小麦の収穫について)するという、研究の第二段階の試みとなっています。後半は、気候変動の要因について詳しく論じます。後半は大気循環に関してなどなど、自然科学の知見の紹介なので、ほとんど理解が追いつきませんでした。流し読みでした…。

 というんで、おおまかな気候変動の流れについては把握できましたが、細かい部分まで理解は追いつきませんでした。それでも、理解できないなりに、普段ふれることのない気候学の成果(原著は30年近く前になりますので、データは古びているのでしょうが)や方法にふれることができたのは興味深かったです。

 ここで思ったのは、学校教育は無駄じゃない、ということ(当然ですが)。中学生の頃、気候(というよりも天気)について理科で学んだ覚えがありますが、ほとんど覚えていません。覚えていれば、本書も若干ではあるでしょうが、理解しやすかったのかな、と思います。
 学校で勉強している頃は、「こんなの勉強して何になる」と思う方も多いでしょうが(私もいくつかの分野についてはそうでした)、あれは全て、以後の勉強をする際の道具を獲得する過程だと思います。たとえば、私はなんであれ勉強は面白いと分かりましたし(もちろん自分自身が勉強する分野は限られますが)、今後何かを勉強しようというとき、学校で習ったことを身につけているかどうかは、作業の効率にも関わってきます。
 たしかに、たとえば日常生活で微分積分をすることは私にはありません。それでも、今後何かのきっかけで数学面白い!となったときに、やはり初歩的な作業は身につけていた方が、その奥にある楽しさにもたどり着きやすいのではないか、と思います。
 もう一つ例を挙げれば、百人一首も一時期覚えさせられましたが、一時に無理に詰め込んだものはさっぱり抜け落ちてしまっています。覚えていれば、高田崇史さんの『QED 百人一首の呪』ももっと楽しく読めたでしょう。
 もちろん、これからもいくらでも勉強は続けられますし、それは喜ばしいことです。それでも、学校で習うことくらいは身につけておきたかった、といまさらながらに思います。覆水盆に返らず…。

 …ずいぶん脱線してしまいましたが、ちょっと話を戻して…。
 本書は、自然科学のデータに依拠する部分が大きいのですが、ピエール・アレクサンドルという研究者は、文書史料を中心に、中世の気候に関する研究を行っているようです。ただ、その研究書は入手するのが難しいようで(いくつかの大学図書館には入っているようですが)、今後読めるかどうか気になります。もっとも、アレクサンドル氏の論文は一本ですが入手してみたので、また機会があれば読んで、記事にも書きたいと思います。
 なにはともあれ、数年ぶりに本書を通読できて良かったです。

(2009/03/20読了)





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Last updated  2009.03.26 18:41:25
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