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のぽねこミステリ館

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2010.01.29
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森本英夫/西澤文昭訳編『フランス中世滑稽譚』
~教養文庫、1988年~

 今年になってから紹介しています、『フランス中世艶笑譚』『フランス中世処世譚』に続く、中世ファブリオのシリーズ第3弾にして完結編です。
 上述それぞれの記事でも書きましたが、ファブリオは、12世紀から14世紀にかけてさかんに作られた、「現実的主題を扱い、愚かしい行為や出来事を笑いの種にした笑い話」です(『フランス中世艶笑譚』解説の定義より)。
 本書の構成は、以下のとおりです(部やそれぞれの話の連番は、便宜的に付しました)。

ーーー
第1部 僧侶にご用心
 1.ゴンベールと二人の学僧の話
 2.やきもち亭主アルールの話
 3.染料に赤く染まった司祭の話
 4.騎士とその妻と学僧の話
第2部 愚か者あわれ
 1.パリの三人の女たちの話
 2.尻長のベランジェの話
 3.バイユールの農夫の話
 4.桑の実を食べた司祭の話
第3部 頓智と奸智
 1.弁舌によって天国に行った農夫の話
 2.オルレアンの町人の女房の話
 3.司祭と騎士の話
 4.フランシスコ派修道士の下穿きの話
 5.むりやりに母親をあてがわれた司祭の話
第4部 臭い話
 1.大道芸人ジュグレの話
 2.糞の話
 3.田舎のロバ引き
第5部 馬鹿話
 1.魔法の指輪の話
 2.ゴートロンとマリオンの話

あとがき
ーーー

 第1部は、寝取られ亭主の話です(このテの話はシリーズ通してたくさんあります)。そんな中、第4話の「騎士とその妻と学僧の話」は凝っていて面白かったです。奥方に本気で恋して今にも死にそうになった学僧。ところが奥方はとても信心深い女性で、夫以外の男性に身を任せるなんて考えもしない。そして夫の妹は、学僧に恋をしている…という、なかなか惹きつけられる設定です。
 第2話の中には、興味深かった登場人物のセリフがあります。それは、「恩知らずの者によくしてやっても、うらまれるのが関の山」という諺がある、というセリフです。というのは、『フランス中世処世譚』に収録された「溺れた仲間を救ってやった男の話」のなかに、次のような文章があるからです。
「邪悪な心の持ち主に仕える者は、時間の損だ。罪を犯した盗人を、絞首台から助けてやったとしても、その男、一日とておまえさん方を愛さないだろうよ。いやかえって憎しみを抱くものだ。悪者というものは、善意を受けた相手に、決して感謝することなんかありゃしない」
 いま引用した文章はことわざというわけではありませんし、私自身、中世のことわざを勉強していないのでさっぱりですが、同じジャンルの史料を読む中で、同じような意味の言葉を見つけられて、ちょっとテンションが上がったのでした。

 第2部は、笑える話が満載です。たとえば第3話など、生きているのに、あんたはもう死んだのよと女房に言われて信じてしまい、自分のいる前で堂々と女房と司祭が交わるという、なんともまぁな話です。第2話は、毎日トーナメントに行って活躍しているといいながら、実は木に盾をぶら下げて、自分でそれを槍でぼろぼろにする男が、妻にしてやられるのですが、これもそんな馬鹿な!という設定があります。

 第3部では、特に第1話が面白かったです。死亡後、悪魔も天使もその魂のところにやってこなかったので、見かけた大天使について天国に行った農夫がいました。天国で、聖ペテロや聖トマスに、お前は天国にふさわしくないぞと言われるのですが、聖書のエピソードをあげて、聖ペテロたちこそ、天国にいるにふさわしい振る舞いをしていたのか、と言い負かしてしまいます。聖書、そして使徒たちがここまでパロディ化された話があったんだなぁ、と、新鮮な発見でした。

 第4部は、まるで筒井康隆さんのある種の短編みたいなむつごさがあります。そんな中、第3話は毛色が違います。これは、肥料を積んでロバを引いていた農夫が、町にやって来て、香辛料屋の前で、香辛料のにおいで気絶してしまうという話です。農夫は、肥料のにおいをかいで、意識を取り戻すのでした。
 この話について、『フランス中世処世譚』でもふれた、ジャック・ド・ヴィトリの例話集にも同様の話があります。
Thomas Frederick Crane, The Exempla or Illustrative Stories from the Sermones Vulgares of Jacques de Vitry, London, 1890 (reprint., BiblioLife, 2009)
の例話191番です(編者クレインも、この編訳書のもとになっているファブリオ集を指摘しています)。

 第5部は、2話とも見開き2頁だけの短い話で、印象に残りませんでした。

 ということで、ファブリオの編訳シリーズ3冊を全て読むことができました。以前の記事にも書きましたが、私は中世史の史料といえば基本は説教や説教例話を読んでいたので、ここまで馬鹿話に徹したファブリオを読むのはとても新鮮な体験でした。単純に読み物としても面白いですし、良い読書体験でした。

(2010/01/25読了)






Last updated  2010.01.29 06:57:52
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