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2010.02.08
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E・ル=ロワ=ラデュリ(稲垣文雄訳)『気候と人間の歴史・入門【中世から現代まで】』
(Emamanuel Le Roy Ladurie, entretiens avec Anouchka Vasak, Abrege d'histoire du climats, du moyen age a nos jours, Librairie Artheme Fayard, 2007)
~藤原書店、2009年~

 アナール学派第3世代に属するフランスの歴史学者、エマニュエル・ル・ロワ・ラデュリによる、気候史研究の成果の概説です。アヌーチカ・ヴァサックとの対談という形ではありますが、実際には各章の標題が問いかけの形になっているだけで、内容的にはル・ロワ・ラデュリの単著といって良いですね。
 彼は、1967年に『気候の歴史』(邦題。邦訳は藤原書店より2000年に刊行されました)を発表し、最近、2004年、2006年、2009年に、三巻本の『人間にとっての気候の歴史』(邦題。邦訳は藤原書店より刊行予定)を刊行しています。本書は、それらの成果を一般読者向けに簡単な言葉遣いで語ってくれる著作となっています。
 本書の構成は次のとおりです。

ーーー
原出版社付記
謝辞
天と大地、神々と人間
凡例
目次

1 気候の歴史はどのようにして生まれたのですか?
2 気候の歴史の研究方法はどのようなものですか?
3 気候の歴史家とはどのような人たちですか?
4 「小氷期」とは何ですか? 超小氷期を何と呼びましょうか?
5 小氷期はヨーロッパだけのものですか?
6 中世小気候最良期とは何ですか?
7 クァットロチェントの気象的、気候的特徴は何ですか?
8 過去500年間において、他より特に冷涼、寒冷、降雪の多い年が連続する期間を挙げることができますか?
9 1570年から1630年の超小氷期の、人間に対する影響はどのようなものでしたか?
10 17世紀は絶え間なく寒かったのですか?
11 マウンダー極小期とは何ですか?
12 1709年の冬はなぜ記憶にとどめられているのですか?
13 「厳冬」とはどのようなものですか?
14 フランス、特にパリにおける過去数世紀間の大洪水はどのようなものでしたか?
15 ルイ15世治下の「解氷」(語の多様な意味で)について何が語れるのですか?
16 「気象」条件は、フランス革命の勃発に何らかの役割を果たしましたか?
17 フランス革命中の「農業気象学的」状況は、何らかの社会・政治的影響をもたらしたのですか?
18 気候によって発生した不慮の食糧危機に対する、「ボナパルト的経営」はあったのですか?
19 ラキ事件とは何ですか?
20 1816年の「夏のない年」についてどのようなことが語れるのですか?
21 食糧不足と飢饉は気象学的条件とどのような関係を持っているのですか?
22 1830年の革命と1848年の革命は、有意な気象学的状況と結びつけられるのですか?
23 1839年から1840年の危機はどうして「未遂に終わった」のですか?
24 アルプスの小氷期の終結時期を確定できますか?
25 気候の歴史は、現在の再温暖化にどのような観点を提供できるのですか?
26 20世紀について、年全体と一世紀全体の視点から、季節別にみた再温暖化を話題にできますか?
27 小氷期末期の数年以降、すなわち1860年代以降、寒冷な冬から何が生じたのですか?
28 20世紀における厳冬のひとつを、それが人間に与えた影響とともに思い出すことができますか?
29 過去の猛暑は、特に人間に与えた影響の点で21世紀初頭の猛暑と異なりますか?
30 最近の再温暖化はブドウ栽培に好適ですか?
31 葡萄の収穫日は気候の指標でしょうか?
32 ヨーロッパおよび正解における2007年夏の非常に対照のはっきりした気象状況は、歴史上例のないものですか?

簡単な文献紹介
訳者あとがき
〔附〕『人間にとっての気候の歴史』(全三巻)内容紹介
ーーー

 全32章ですが、本書は180頁ほどの比較的薄い著作です。ということで、1章ごとが短いので、どんどん読み進めることができます。また、問いかけが「です・ます体」となっていますが、本文も「です・ます体」なので、とても読みやすいですね。

 1点だけ残念だったのは、シャルルマーニュ大帝という表記です。「マーニュ」が、「マグヌス」つまり大帝の意味に当たりますので、これだと「カール大帝大帝」という意味になってしまいます。一般にされる正しい表記は、カール大帝、あるいはシャルルマーニュですね。

 しかし、それは小さな点にすぎません。全体として、訳文も読みやすいですし、簡単な研究者情報などの訳注も豊富に付されていますし、良い訳書だと思います。

 最近の「温暖化」についての問題は、かなり政治的な問題にもなってきています。それに対して、ル・ロワ・ラデュリがどのような評価をしているのか、気になっていたのですが、政治的問題のレベルまでは踏み込んでいないですね。私は、歴史家は中立的であるべきだと思っているので、それは正しい姿勢だと感じる半面、研究成果の蓄積から一定の評価はできないものかと、ちょっと物足りない感じもしてしまいました。現代の「温暖化」の問題については、『人間にとっての気候の歴史』第3巻が詳述しているようなので、そちらも楽しみになります。

 また、21章で、18世紀末から広まる中絶性交避妊が、食糧不足という文脈の中で言及されているのも興味深かったです。避妊はまた、愛や性行動、心性の歴史にも関連するテーマです。さらっと書かれているだけですが、学際的な視野の重要性を感じた一文でした。

 その他、興味深かったことをいくつか書き留めておきます。
 第1章は、『気候の歴史』執筆の状況と、同書が刊行当時どのように受け止められたか、ということが触れられていて、興味深かったです。
 第2章は、『気候の歴史』でもとられている研究方法を簡潔に整理していて、便利です。
 そして第3章は、主要な気候史の研究者を列挙していて、こちらも便利です。どうしても気候の歴史というと、史料の問題もあり、近世・近代以降が中心となっていますが、そんな中で中世の気候を研究しているピエール・アレクサンドルの研究が気になります。論文は1本ですが持っているので、ぜひ読んでみたいと思いながら、なかなか手が出せていません…。

 詳しい気候の状況については記事ではふれませんが、どの章も興味深く読むことができました。
 原著は、『人間にとっての気候の歴史』第2巻と第3巻の間に刊行されています。けれど、邦訳では、本書が最初に刊行されたことで、『人間にとっての気候の歴史』への入門としての位置づけがはっきりしているように思います。巻末での、同三巻本の内容・構成紹介も嬉しく、ますます『人間にとっての気候の歴史』全三巻の邦訳刊行が楽しみになります。

(2010/02/07読了)


   *   *   *

 簡単な近況報告です。
 最近はぱたぱたとしていて、なかなか落ち着いて小説を読む時間がとれていません。しばらく更新ペースは落ちると思いますが、充実した日々を送っています。





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Last updated  2010.02.08 07:02:13
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