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2010.07.22
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ティルベリのゲルウァシウス(池上俊一訳)『西洋中世奇譚集成 皇帝の閑暇』
~講談社現代文庫、2008年~

 本書は、宮廷に仕えた聖職者、ティルベリのゲルウァシウス(1155年頃-1234年)が、タイトルどおり皇帝が余暇を楽しむために著した『皇帝の閑暇』の、第3部の全訳です。
 訳者解説によれば、その第1部は、主に創世記のはじめの方の注釈となっている「宇宙論」、第2部は知りうるかぎりの地球上の地域を記述する「地理論」となっていて、邦訳された第3部が、「驚異譚」となっています。
 第3部は全129章で(それぞれの章の長さは数行から20数頁とまちまち)、不思議な動植物や鉱物、「インド」の怪人たち、幽霊や悪霊の話、狼男の話など、興味深い話題が盛りだくさんです。

 特に面白く読んだ2つの話について、メモしておきます。 一つは、第85章で詳しく語られるドラクスについて。ドラクスは、悪霊というか妖精というか、日本でいうところの妖怪がいちばんぴったりくるような存在です。
 ドラクスは川の淵に住んでいて、金の指輪なんかに姿を変えては、それに興味をもって拾おうとする女性や子どもを川の中に引きずり込みます。特に授乳時期の女性を引きずりこんでは、自分の子どもたちの乳母にする、というのですね。物語の中では、7年でドラクスの宮殿から地上に戻ってきた乳母の証言が紹介されています。
 もう一つは「カタロニアの山」と題された第66章で紹介される、悪霊の館についてです。カタロニアにある、カナグムと呼ばれる山の頂上に湖があります。そこには、常人には見ることのできない悪霊の館があるといいます。物語では、泣きやまない子どもに業を煮やして、その子を悪霊に渡してしまう農民の話が語られます。7年後、その土地のある男が、悪霊にこき使われていた男を発見します。さらに悪霊は、上述の農民の娘を育てるのも飽きたので、喜んで返すつもりだ、といいます。農民は驚き、そして娘を返してもらうのですが…。
 以上、2つの話について簡単にメモしてみましたが、これらの話が面白いと思ったのは、当時のイマジネール(想像界)についての貴重な証言となっているように思われるからです。ただし、これらの「面白い話」を、学問的に分析する力は今の私にはありませんが…。

 さて、本書の中で最長の第103章「ある乙女に現れ、驚異を物語り、知らせる死者」や第99章「かつて妻だった女を殺した死者」などの幽霊譚は、先日紹介しました、ジャン=クロード・シュミット『中世の幽霊』の中でも詳しく分析されています。先にシュミットの分析を読んでからオリジナルの物語にふれたので、より興味深く読むことができました。
 また、シュミットはその著作の中で、幽霊譚を分析するための主要な3つの史料として、「奇蹟譚」「驚異譚」「教訓例話」の3つを挙げています。そして「驚異譚」について論じていく際、ティルベリのゲルウァシウスによる「奇蹟」と「驚異」の違いに関する見解を紹介しているのですが、その見解は本書の序に見られます。

 中世ヨーロッパのめくるめく想像の世界にふれられる、興味深い史料です。

(2010/07/03読了)





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Last updated  2010.07.22 07:11:00
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