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2010.10.26
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浜本隆志『指輪の文化史』
~白水uブックス、2004年~

 指輪について、主にヨーロッパの歴史を辿りつつ、日本との比較を試みた意欲的な著作です。
 著者の浜本隆志先生は、関西大学教授でいらっしゃいます。他の著作に、以前紹介した『紋章が語るヨーロッパ史』などがあります。
 本書の構成は次のとおりです。

ーーー
序章 指輪文化の謎・空白の1100年
第一章 指輪ア・ラ・カルト
 一 印章指輪
 二 鍵つき指輪
 三 骸骨の記念指輪―「死を忘れるな」
 四 毒入り指輪
 五 武器としての指輪
 六 指貫き
第二章 指輪のフォークロア
 一 ヴェネツィアの「海との結婚」儀礼
 二 婚約・結婚指輪の歴史
 三 婚約・結婚指輪のフォークロア
 四 魔よけとしての指輪
第三章 指輪と政治的・宗教的権威
 一 古代の王権・神権としての大型リング
 二 政治的権威としての指輪
 三 指輪とキリスト教
 四 神の花嫁
第四章 指輪とシンボル
 一 指輪と円のコスモロジー
 二 契約と拘束のシンボルとしての指輪
 三 ハート―愛のシンボル
 四 蛇のシンボル
第五章 指輪と時代モード
 一 左手薬指の指輪
 二 指輪と手袋の確執
 三 図で見る指輪・装飾モード史 四 戦争と指輪
 五 指輪モードを生み出すもの
第六章 指輪と誕生石
 一 占星術と十二宮
 二 十二宮と誕生石伝説
 三 指輪と宝石信仰
第七章 指輪物語
 一 古代の神話・伝説の指輪
 二 中世の指輪物語
 三 ボッカッチョとレッシングの指輪物語
 四 グリムのメールヒェンと指輪
 五 『ニーベルングの指輪』
終章 ヨーロッパと日本の指輪文化の比較

あとがき
参考文献
図版出典一覧
ーーー

 指輪という一つのモノを通して、いろんな領域にわたる人間の歴史が見えてくる、興味深い一冊です。
 まず、序章での掴みが良かったです。日本では、縄文時代から古墳時代まで、指輪の出土例もあり、指輪文化があったことが確認されます。ところが、奈良時代以降、江戸時代まで、「1100年以上もの長きにわたって、耳飾り、ネックレスはいうまでもなく、指輪などの装身具が使用されたことはほとんどない」(9-10頁) というのです。興味深い謎にわくわくします。
 本書は、この魅惑的な謎の提示がなされた後、本論ではヨーロッパの指輪文化の歴史をたどり、終章でこの謎へのひとつの解答がなされる、という構造になっています。

 さて、第1章はそのタイトルどおり、様々な指輪の紹介となっています。古代エジプトなどで用いられた印章指輪に始まり、毒入り指輪や鍵付き指輪などなど、どれも興味深いです。
 第2章は、現在も行われる婚約指輪・結婚指輪の使用の歴史などが、第3章では指輪の権威との関連が紹介されます。
 第4章の、指輪のシンボルの問題も興味深かったです。マンフレート・ルルカーの研究も援用されていて、あらためてルルカーの研究を読んでみたいと思います(本書では言及されていませんが、ルルカーの『シンボルのメッセージ』を10年ほど前に読んだとき、それは知的興奮に満ちためくるめく読書体験で、忘れられない思い出です)。
 第5章3節も、第1章とは異なりモードの関連からですが、多様な指輪が紹介され、また節の標題どおり図版も多数掲載されていて、面白かったです。
 第6章には十二宮と指輪や惑星との関連をまとめた図表があり、便利です。
 第7章は、指輪にまつわる様々な物語を紹介しています。個人的に面白かったのは、今年1月に読んでいた『フランス中世滑稽譚』の一編が紹介されていたことです。この話、とある下ネタなのですが、ここでは司教指輪が精神を鎮めるという本来の言い伝えを茶化したものだという解釈もなされていて、興味深かったです。

 終章で提示される解答については、ここでは伏せておくことにしましょう。しかし本論での議論も交えた解釈に、本書の構成のうまさを感じました。

 一方、満足のいく解答が示されていない点もありました。特に、ローマ時代に用いられた鍵付き指輪が、ローマ時代以降用いられなくなるという事実の解釈についてそう感じました。これは文字通り、鍵の付いた指輪なので、指輪の突起が日常生活で邪魔になったのではないか、という指摘があります。しかし、日常生活で邪魔なのはローマ時代でも同じことだったでしょう。ローマ時代、鍵付き指輪は主婦権のシンボルであったという興味深い指摘があるので、この点については、一案ですが、ローマ時代の鍵付き指輪の具体的な数、使用者などの状況や意義をより深く研究し、さらに後代の状況との比較研究により、さらに説得力のある解答が導き出せるのではないか、と想像します。

 もっとも、本書は指輪にまつわる多様な側面に言及している興味深い一冊です。著者によれば、これまで指輪に焦点をあてた十分な研究は発表されていないということですので、本書はまさにパイオニア的な性格をもつといえるでしょう。先のような細部の解釈については、逆に本書以降のさらなる研究を促すと思います。

 良い読書体験でした。

(2010/10/08読了)





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Last updated  2010.10.26 07:05:54
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