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2012.04.07
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池上俊一『パスタでたどるイタリア史』
~岩波ジュニア新書、2011年~

 西洋中世史に関する著作を多数刊行していらっしゃる池上俊一先生の、最近の著作です。
 これまでにも、一般向けに分かりやすい著作を多く発表していらっしゃいますが、今回はなんとジュニア新書です。
 まずは、本書の構成を掲げておきます。

ーーー
はじめに 日本のパスタ事情

第1章 麺が水と出会うまで
第2章 文明交流とパスタのソース
第3章 貧者の夢とエリートの洗練
第4章 地方の名物パスタと国家形成
第5章 母と子の思い
第6章 パスタの敵対者たち

おわりに 歴史の中のパスタ

あとがき
イタリア年表
ーーー

 第1章は麺の素材に着目し、また、その歴史を、古代ギリシアの時代から、ざっと辿ります。
 古代ローマでは、小麦粉を水といっしょに練り粉にして延ばし、大きなシートにしたような食材があったそうです。ただ、ゆでたり蒸したり、という調理法ではないので、現在いうようなパスタとは異なっていました。
 ところが、ゲルマン人の侵入により古代ローマ帝国が滅びた後、ゲルマン人たちのあいだで、そのような小麦粉を材料にした食材が食べられることはなくなっていきます(パンは別ですが…)。
 11~12世紀頃からは、現在風のパスタが食されるようになったそうです。なお、北イタリアは生パスタ、南イタリアは乾燥パスタという風に、南北イタリアのあいだの違いも指摘されています。

 第2章はパスタのソースの材料に着目します。なお、いまパスタのソースといえばトマトは欠かせませんが、当然これはアメリカ大陸原産。アメリカから輸入されるまで、もちろん使われませんが、しかしチーズをたっぷりかけて食べる習慣は、 11世紀ころから既にあったそうです。
 この章で驚きだったのは、やはり大航海時代から大量に入手できるようになった砂糖も、パスタに用いられたということです。 13世紀の神聖ローマ帝国皇帝フリードリヒ2世は、砂糖をつかった「甘いマッケローニ」が大好物だったとか。そして、そのような甘いマッケローニ(マカロニ)が、フランスのお菓子「マカロン」の語源になったそうです。

 第3章は、パスタを作り、食べていた人―特にその階層―に着目します。民衆の伝統とエリートによる洗練が、こんにちのパスタにつながっていることが示されます。
 また、民衆にとって、パスタをたらふく食べることが夢だったということも、いろんな史料を紹介しながら指摘されていて、興味深かったです。

 第4章は、イタリア各地の名物パスタ、そしてイタリア料理の成立を紹介します。
 面白いのは、いろんな地方で多様な名物パスタが生まれますが、その前提として、イタリア料理の成立があったということです。ここでは、イタリア料理の父といわれるアルトゥージ(1820年生まれ)の業績が紹介されます。
 また、形状などがほとんど同じパスタでも、地方ごとにそれを示す呼び名が様々であるという指摘も、興味深いです。

 第5章は、パスタの歴史(そしてイタリアの歴史)のなかでの、女性の役割に着目します。
 結婚の条件として、料理上手であることが求められたこと、パスタのもつ母の味というイメージ、そして家庭の母という女性のイメージのもつ裏の要素などが指摘されます。

 第6章は、誰からも愛されるイメージのパスタに、敵対者がいたことが示されます。
 敵対者は3つあり、(1)アメリカとの関係、(2)未来派の運動、(3)食のスタイルの変化による危機、です。
 私が特に面白かったのは、20世紀初頭に起こった前衛的な芸術運動である未来派についてです。機械文明を礼賛するこの運動の主導者であるマリネッティは、ある文章の中で、パスタのことをこきおろします。 …が、その宣言を出した後、パスタを美味しそうにほおばるマリネッティの姿が目撃されたとか…。
 未来派については学生時分にレポートを書いたので印象に残っているのですが、こんなエピソードもあったのかと、興味深かったです。

 以上、それぞれの章ごとに、簡単に面白かった点をまとめてみました。
 パスタという身近な食材の歴史を、イタリアの古代から現代までの歴史の流れと見事にからませながら見ていく本書はとても面白いです。

 あとがきによれば、池上先生は『幻想の食卓』という、食の歴史については自身最後の著作を構想していらっしゃるそうで、そちらも楽しみです。





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Last updated  2012.04.07 14:02:41
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