2026653 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

のぽねこミステリ館

のぽねこミステリ館

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

Profile

のぽねこ

のぽねこ

Calendar

2013.07.13
XML
  • C:\fakepath\死者と生きる中世.jpg

パトリック・ギアリ(杉崎泰一郎訳)『死者と生きる中世―ヨーロッパ封建社会における死生観の変遷―』
(Patirck J. Geary, Living with the Dead in the Middle Ages, Cornell University, 1994)
~白水社、1999年~


 訳者あとがきによれば、著者のパトリック・ギアリは1948年、アメリカはミシシッピ州生まれ。西洋中世史の研究者で、本書とも密接に関連するテーマを扱った著作に、『聖なる盗み―盛期中世における聖遺物泥棒―』(Furta Sacra : Thefts of Relics in the Central Middle Ages, 1978)があります。
 本書は、邦訳の副題にあるように、中世ヨーロッパの死生観の変遷を通史的に追うというよりは(たとえばフィリップ・アリエスが死に対する態度の段階を論じたように)、中世における生者と死者の関係を、特に聖人(聖遺物)の扱いに重点を置きつつ、いくつかのテーマで具体的に考察していく、という構成になっています。
 本書の構成は次のとおりです。

ーーー


第一部 過去を読む
 第一章 聖人伝研究の現在
 第二章 考古学資料の活用
第二部 死者と表象
 第三章 カール大帝の幻視
 第四章 死者との贈与交換
第三部 死者との交渉
 第五章 聖人を辱める儀式
 第六章 聖人に対する恫喝
 第七章 紛争に満ちた中世フランス社会
第四部 聖人の再生産
 第八章 聖人の礼拝所と巡礼
 第九章 聖遺物の取引
 第十章 商品としての聖遺物
第五部 生者が求めたもの
 第十一章 アティラの聖女ヘレナとトロワのカテドラル
 第十二章 東方三博士とミラノ

訳者あとがき
原注
索引
ーーー

 興味深かった章について、簡単にメモをしておきます。

 第一部からは、第一章。ここでは、聖人伝を研究するにあたり、それが収められた写本が、聖人伝と他のどんなテクストをあわせて作られているか、という観点が重要だと指摘されます。なにぶん、いろいろ不勉強で、中世に写本がどのように使われたか、ということをもっと勉強しないといけないと感じた次第です。

 第二部では、第三章での、幻視物語に描かれた夢についての解釈も面白いですが、生者と死者の関係を「贈与」という観点から読み解く第四章も興味深いです。生前に、土地を贈与する。こうした贈与によって、構成員のあいだの連帯が生まれ、親族集団が明確になるという側面も面白いですし、贈与を受けた生者は、死者のために祈りを捧げるという関係が生まれるという点も面白いです。また、教会や修道院は、生者と死者をとりもつ役割を強めていったということです。

 第三部は、本書の山場だと思います。聖遺物(聖人の遺体、骨など)を、教会や修道院が大切に保管し、崇敬するのはもちろんですが、教会や修道院が争いに巻き込まれたりした場合には、その共同体を守るべき聖人がはたらかないせいだ、ということで、聖遺物を辱め、恫喝するという儀式が行われたというのです。たとえば、ある貴族がある修道院の土地を、自分のものだと主張し、両者のあいだで争いが起こると、修道院は聖遺物を辱めるという儀式を行うことで、いま起こっている事態を広く知らしめるのですね。つまり、訴訟の宣伝手段としての役割を儀式が担っていたということで、結果、貴族との和解につなげることを目的としていたと指摘されます。第七章は、第五章・第六章をふまえ、中世における紛争の意義を論じます。

 第四部も、聖遺物の話が中心です。聖遺物は、盗まれたり、取引されたりすることもありました。第九章で、「商品」の流通という観点から、聖遺物の取引のあり方、聖遺物と「商品」との違いを論じているのは、特に興味深かったです。

 第五部では、第十一章は、カテドラル再建の費用を得るため、あたらしく聖人崇敬を強めていったという興味深い事例が紹介されます。第十二章も、自分メモで「これは面白い!!」と書いた論考です。キリスト生誕の際に東方からやってきたという三博士の遺体が、ミラノに移され、巨大な棺に保管された。ドイツ皇帝フリードリヒ・バルバロッサがミラノを降伏させた際、聖遺物を略奪し、東方三博士の聖遺物もケルンに移葬された…。この伝説は、実はケルンにいろんな聖遺物が持ってこられたときに、その中に東方三博士がいたということがケルンででっち上げられた後に創作された、もともとミラノに東方三博士の聖遺物はなかったのだ、ということをギアリは論証します。さらに、この伝説が創作されてから、ミラノで東方三博士の崇敬が広まったのだ、という指摘も、とても興味深いです。

 訳文も読みやすく、興味深い指摘に満ちた論集です。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2013.07.13 13:49:30
コメント(0) | コメントを書く
[西洋史関連(日本語書籍)] カテゴリの最新記事


Keyword Search

▼キーワード検索

Favorite Blog

My favorites♪ torezuさん
姫君~家族 初月1467さん
偏った書評ブログ mnmn131313mnmnさん
海砂のつらつら日記 kaisa21さん

Comments

 のぽねこ@ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
 シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
 のぽねこ@ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

© Rakuten Group, Inc.