カテゴリ:本の感想(や・ら・わ行の作家)
横溝正史『死仮面』 ~角川文庫、1984年~ 金田一耕助シリーズの中編「死仮面」と、ノンシリーズ作品「上海氏の蒐集品」の2作が収録された1冊です。 表題作「死仮面」は、一部横溝さん自身の原稿が未発見の頃に収録されていて、その部分(2節分)は、かわりに中島河太郎さんによって書かれています。後に刊行され、発見された幻の原稿も踏まえた春陽文庫版『死仮面』で感想を書きましたので、今回は併録された「上海氏の蒐集品」についてのみ、簡単に感想を書いておきます。 記憶を失った上海氏は、台地の上の草原を散歩するのが日課でした。しかし、そこには団地が建ちはじめ、居心地の良い場所は少なくなっていきます。そんななか、上海氏は、台地の下の家に住む、一人の少女に出会います。台地の下の家々は、土地を売るかわりに、大金を手に入れ、それは少女の家も同じはずが、少女の家だけは昔のままに残されています。未亡人のその母親が、お金をためこんでいるというのですが…。そして、母娘の状況はさらに怪しくなっていき、上海氏は嫌な予感に襲われることとなります。 戦後の復興の中で起きた、後味の悪い事件を描く一編です。表題作「死仮面」も重たい物語ですから、なかなか暗めの作品集といえます(杉本一文さんによる表紙は、表題作もさることながら、本書全体の雰囲気にぴったりです)。 「上海氏の蒐集品」は、不可解な謎に論理的な解答が明快に与えられる、という作品ではありません。なんとなく、真相(?)も予想できます。ですが、ぐいぐい物語に引き込まれ、暗めにもかかわらずその独特の雰囲気に飲み込まれてしまうのは、やはり横溝作品の魅力だと思います。 ※表紙画像は、横溝正史エンサイクロペディアさまからいただきました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2015.01.17 16:36:44
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