カテゴリ:西洋史関連(日本語書籍)
多田哲『ヨーロッパ中世の民衆教化と聖人崇敬―カロリング時代のオルレアンとリエージュ―』 ~創文社、2014年~ 著者の多田哲先生は、中京大学国際教養学部教授です。本書は、先生の博士論文を元にした一冊です。 手元にある先生の論考として、 多田哲「キリスト教化と西欧世界の形成」堀越宏一/甚野尚志編『15のテーマで学ぶ中世ヨーロッパ史』ミネルヴァ書房、2013年、15-37頁 があります。 さて、本書の構成は次のとおりです。 ――― 序 第一章 先行研究の状況と本書の立場 第二章 『一般訓令』(一)―文書的性格・構成・内容・目的 第三章 『一般訓令』(二)―成立事情 第四章 司教区への民衆教化プログラムの普及 第五章 民衆の宗教生活に関するオルレアン司教およびリエージュ司教の把握 第六章 オルレアン司教区およびリエージュ司教区における民衆教化プログラムの展開 第七章 オルレアン司教区およびリエージュ司教区における私有教会 第八章 オルレアン司教区およびリエージュ司教区における聖人崇敬の概要 第九章 オルレアン司教区の聖人崇敬(一)―司教座都市における聖十字架崇敬 第十章 オルレアン司教区の聖人崇敬(二)―司教座都市における聖アニアヌス崇敬 第十一章 オルレアン司教区の聖人崇敬(三)―農村部における聖マクシミヌス崇敬 第十二章 リエージュ司教区の聖人崇敬―農村部における聖フベルトゥス崇敬 結論 補論 「民衆教化」とは何か あとがき 初出一覧 注 史料・文献目録 略語一覧 索引 地図 ――― 本書の中心は、オルレアンとリエージュという二つの司教区で民衆教化がいかに進められたかを明らかにするケーススタディです。前提として、先行研究を整理して本書の立場を明確にした上で、王国全体に発せられたシャルルマーニュによる『一般訓令』の背景・内容を分析し、また両司教区の概要を論じています。 先行研究整理では、民衆教化に関する総合的な研究から、カピトゥラリア(条項に分かれた法令)、説教、民衆教化の担い手といった個別的研究まで、カロリング期を中心としてどのような研究が行われてきたたが幅広く紹介されており有益です。 『一般訓令』に関する分析では、起草者として誰が携わっていたかという議論が興味深いです。また、『一般訓令』を受けて、民衆教化に関して各地の教会会議でどのような決議がなされたかもふれられ、その影響も示されます。 個人的に最も興味深かったのは、第四章から第六章までの概要的な部分です。『一般訓令』を中心とした王国の民衆教化理念が、教会会議や国王巡察使といった制度により普及していきます。また、両司教区で、民衆教化に関する課題は何だと捉えられていて、また具体的にどのような点を強調しながら民衆教化プログラムが進められたかを論じます。特に興味深いのは、民衆に最も近い立場である教区司祭が、何を尊重し、どのような内容を説教すべきとされたか、また彼らを監督する立場である司教はそのためにいかなる手法をとっていたか、という分析です。 聖人崇敬を利用した民衆教化については、比較的無名の聖人を、有名な聖人を引き合いに出しながらその功徳を強調するという手法、たとえ元々無名の存在でも、遠くに遺体のある有名な聖人よりも、身近に遺体のある聖人の方が民衆の崇敬を集めやすかったといった点が指摘されます。 カロリング期にいかなる手法で民衆教化が進められていたかを明らかにする良書だと思います。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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