カテゴリ:本の感想(さ行の作家)
島田荘司『改訂完全版 漱石と倫敦ミイラ殺人事件』 (島田荘司『島田荘司全集II』南雲堂、2006年、603-771頁) 島田荘司さんによる初期のノンシリーズ作品です(といっても、最近、島田荘司さんによるホームズもの第2弾が刊行されました)。 以下、集英社文庫版で読んだときの記事をほぼ再録しますと…。 本作の舞台は、20世紀初頭のロンドンです。主人公は、当時ロンドンに留学していた夏目漱石と、シャーロック・ホームズという、島田荘司さんの作品の中では異色作ですね。ジャンルはユーモア・ミステリでありながら、事件は魅力的な謎に包まれています。 それでは、いつものように内容紹介と感想を。 ーーー 留学先で、無愛想な女主人のいる家に下宿していた漱石は、就寝時、奇妙な音に悩まされるようになった。やがて、「この家を出て行け」という声が聞こえるようになり…。 シェイクスピア研究の個人指導を受けていたクレイグ先生にこのことを相談すると、先生はシャーロック・ホームズという奇人を紹介してくれた。話を聞くだに不気味な人物だと思ったが、その夜も「幽霊の声」が聞こえたこと、ホームズへの相談が無料ということで、漱石は彼のもとに趣く。 ホームズとその兄は、自分について無茶苦茶な推理を展開した。誤りを訂正すれば、ピストルをぶっ放す始末。漱石は、ワトソン博士の助言で、ホームズの言葉を訂正しないように気をつける。相談事については、「幽霊はもう出ないよ」との助言。実際、それから幽霊の声は聞こえなくなった。 * 東洋からナツミという依頼者がきた日、ホームズのもとに新しい依頼人がやってきた。その女性は、自分の弟の奇行について相談した。弟は、東洋の呪いにより、ミイラになって死んでしまうといって、怯えているという。 翌日、レストレイド警部から連絡が入る。現場は、あの依頼人の家。依頼人の弟が内側から釘で打ちつけた密室状態の部屋で、弟が死んだ。その遺体は、ミイラ化していたというのだった。 私とホームズは、「東洋の呪い」の関わる事件であるため、ナツミのもとへ知恵を借りに行く。 ーーー 夏目漱石の幻の原稿と、ワトソン博士による未発表の原稿が交互に並べられるという構成です。 上の内容紹介にもちょっと書きましたが、漱石視点から見たホームズのエキセントリックぶりは、ホームズのイメージを覆すほどにユーモアが強くて、面白かったです。いや実際、そんなこともあっただろうなと思わされました。 一方で、ワトソンの描くホームズは、あのホームズなんですよね。このギャップもまた面白いです。 それでいて、事件の謎は、その朝まで生きていた人物が、密室状態の部屋の中で、ミイラ化して死んでいたという、なんとも魅力的な謎です。 解決も鮮やか(?)で、面白かったです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2016.11.05 13:49:09
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