カテゴリ:本の感想(な行の作家)
西澤保彦『必然という名の偶然』 ~実業之日本社文庫、2013年~ 文庫版解説の法月綸太郎さんの言葉をお借りすれば、「《腕貫探偵》シリーズの番外編」、あるいは既に紹介した『モラトリアム・シアター』の予告編として位置づけられる、櫃洗市を舞台にした短編集です。 「予告編」というのは、文庫版は『モラトリアム・シアター』→本書という順で刊行されていますが、本書の初出は文庫書き下ろしの『モラトリアム・シアター』の前だったという事情です。私は文庫刊行順に読んだので、どちらかといえば「《腕貫探偵》シリーズの番外編」として本書を読みました。 と、前置きが長くなりましたが、簡単にそれぞれの紹介と、感想を。 ――― 「エスケープ・ブライダル」結婚の機会は何度かあったのに、直前に、あるいは式の最中に花嫁に逃げられてきた同級生が、また結婚式を挙げる。はたして今回の式は無事に済むのかと祈るおれだが…。 「偸盗の家」同名同姓の人物の家で、夫が死んでいた。明らかに他殺と思われたが、現場には遺書も遺されていた。妻のアナウンサーに明らかにされる真相は…。 「必然という名の偶然」久しぶりに同級生から電話がかかってきた。同級生は、新聞などで報じられた事件の被害者が、ある一定の法則に従って、卒業アルバムの中から選ばれているのではないか、という仮説を披露するのだが…。 「突然、嵐の如く」とつぜんの嵐で、自宅と勤め先の学校の間が通行止めになった。いたずら心から、自宅近くにいながら、妻からの電話に、家に帰れなくなったと伝えた夫が帰宅すると、いるはずの妻は不在。そして、妻が勤め先の学校で死んでいるとの電話が警察からかかってきて、男は混乱に襲われる。 「鍵」元々住んでいたアパートの鍵を持っていた男が、ある日、出来心から部屋に侵入すると、奇妙な人形が置かれていた。するとそこに、女が入ってきて…。 「エスケープ・リユニオン」櫃洗市に久々に帰ってきた俳優の男が、同級生を呼び集める。集まったのは、大富豪探偵の月夜見ひろゑら、わずか4名。なんとなく早々にお開きになった後、事件が起こる…。 ――― 最初と最後の作品には、文庫刊行順でいえば前作の『モラトリアム・シアター』に登場する大富豪探偵、月夜見ひろゑさんが登場します。冒頭の作品の解決の劇的さは爽快です。 その他の短編には、《腕貫探偵》シリーズでも活躍している氷見刑事さんなど、シリーズの人物が出るものの、同じ櫃洗市が舞台のノンシリーズ短編としても読むことができます(少なくとも、決まった探偵は登場しません)。語り口が巧みで、どの物語もぐいぐい引きつけられました。 特に印象的だったのは「鍵」です。主人公が落ちていく過程が丹念に描写されていて、救いもないですが、その分印象に残ります。 法月綸太郎さんによる解説も面白いです。 ・な行の作家一覧へ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2017.03.22 22:58:35
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