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2017.04.19
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Beverly Mayne Kienzle, Edith Wilks Dolnikowski, Rosemary Drage Hale, Darleen Pryds and Anne T. Thayer (eds.), Models of Holiness in Medieval Sermons, Louvain-la-Neuve, 1996

今回は、西洋中世の説教から聖人や聖性を分析する論文集、ビヴァリー・メーヌ・キエンズル他編『中世説教における聖性の模範』を紹介します。
本書の構成は次のとおりです(タイトル拙訳。連番はのぽねこ補足)。

―――
まえがき(L. Carruthers)
序論(B. M. Kienzle)

[01]トマス・ベケット―中世から宗教改革までの一人の聖人の構築と破壊 (P. B. Roberts)
[02]初期中世説教と聖性(Th. L. Amos)
[03]再び模範とされる聖性―古英語聖書講話における主題と技術(M. Swan)
[04]中世英語聖書講話An Bispelにおける法モチーフの目録(L. T. Martin – Th. N. Hall)
[05]セルのペトルスによるマグダラのマリアの祝日のための説教における修道院的信心の模範(C. M. Kudera)
[06]13世紀女性たちのための聖性の模範(C. Muessig)
[07]後期中世の聖人たちに関する説教文学(G. Ferzoco)
[08]神聖化の手段としての中世説教活動における聖性のイメージ(J. Hamesse)
[09]君主、法律家、聖人―聖性に関する法的説教活動(D. Pryds)
[10]1281年トレドにおける悔悛と改革に関する説教活動(M. Saperstein)
[11]14世紀ユダヤ人説教活動における修辞的現実と聖性への熱望(C. Horowitz)
[12]ウィクリフのラテン語説教における教会批判としての俗人説教活動の助長(E. W. Dolnikowski)
[13]修道院の外での聖性を求めて―『聖霊の修道院The Abbey of Holy Ghost』における心の宗教(L. Carruthers)
[14]BL MS Harley 2268における中世英語説教の説教師による«hallowyng of pe tabernalyll of oqre sawle»(V. M. O’Mara)
[15]«Fle from the love of thinges create»―『道徳化された被造物の対話Dialoges of Creatures Moralysed』における聖性の諸類型(E. Moores)
[16]教皇庁アヴィニョンからの説教における法律家、法、聖性(B. Beattie)
[17]中世ドイツ語説教における聖なる人物と神秘的体験(D. L. Stoudt)
[18]Dormi Secure―怠惰な説教師によるその群衆への聖性の模範(J. W. Dahmus)
[19]Quilibet Christianus―アウグスティノ会隠修士会クヴェードリンブルクのヨルダヌスの説教における社会の中の聖人たち(E. L. Saak)
[20]仲裁者、模範、報酬―代表的な後期中世説教集の悔悛主題における聖人の役割(A. T. Thayer)
[21]ルネサンス期フィレンツェにおける説教師と聖性(P. Howard)
[22]ラウンドテーブルとその他の会議における議論の要約(E. W. Dolnikowski)
―――

 読んだ論考について、メモしておきます。

 まえがきでは、本書にも論考を寄せるロバーツの研究の重要性が指摘されます。また、中世説教に関する研究機関を紹介している部分も興味深いです。
 キエンズルによる序論は、本書収録論考の的確な要点整理となっています。

[01]は、殺害後聖人とされ一気に信仰が広まったトマス・ベケットについて、中世から近世にかけてのその変容を描きます。王権対立の象徴とされたベケットが、近世になってその信仰が禁じられていくという過程が興味深いです。一方、信仰が禁じられていく中で、民衆はどのようにそれを感じていたのか、草の根的な信仰は続いたのか、といったあたりが気になりました。

[02]は、初期中世の説教の中で、聖人が模倣すべき模範とされていたことを、多くの具体的な事例を紹介しながら明らかにする論考です。

[05]は、ベネディクト会系の修道士セルのペトルスによるマグダラのマリアの祝日への説教を詳細に分析します。マリアの模範から、人間の霊的形成において悔悛が占める重要性をペトルスが強調していることなどが指摘されます。

[06]は、ジャック・ド・ヴィトリの説教集の中でも比較的研究の少ない『聖人祝日説教集』を中心に分析し、彼が女性の美徳として貞潔を強調していたことを示します。

[07]は、ある人物が聖人として列聖される際に、説教が果たした役割を示すとともに、そうした手続きのために用いられた説教の類型を提示する、たいへん興味深い論考です。たとえば、列聖に関する教皇の勅書の短さや論理的な性格は、説教の素材としても用いられることなどが指摘されます。

[08]は、主に説教の中のsanctus[聖人],beatus[福者]などの語彙の分析を丹念に行います。同時代人の用語法に即して、類義語の違いを明らかにしていく論述が興味深いです。

[12]は、個人的には本書の中で[07]に並んで興味深かった論文です。有名な聖職者ウィクリフが、いわばいい加減な聖職者よりも俗人の方がマシである、という思想を持っていたことを、その説教から丹念に描きます。ウィクリフによれば、聖書に基づく説教が最も重要で神聖な行いでした。彼による良い説教の3つの基準として、(1)聖書に基づくこと、(2)寓話などの文学的な装飾を用いないこと、(3)説教は公的な崇敬の第一級の場となるべきこと、が指摘されます。また、説教を中心に行う托鉢修道会への辛辣な批判など、興味深い事例が多く紹介されます。

[18]は、あるフランシスコ会士によるDormi secureという史料から、俗人への助言を読み解きます。そこに、多様な社会的身分への配慮が見られる点が興味深いです。

[19]は、ヨルダヌスという人物の史料から、彼がいわばプロテスタントの先駆的な思想を有していたことを指摘します。特定の人物のみが聖人となるという旧来の「模範的聖性exemplary sanctity」、聖性は全ての信者にありうるとするプロテスタントの「革命的聖性revilutionary sancitity」に対して、著者はヨルダヌスの思想を「移行的聖性transformational sanctity」と名付けます。こちらも興味深い論文です。

[20]は、中世後期の主要な説教集から、聖人の三つの役割を抽出する試みです。第一に、聖人はその祈りによって人の悔悛を手助けする、いわば仲裁的な役割を持ちます。興味深いのは、人の悔悛という文脈では、聖人による奇跡が言及されるのは稀であるという指摘です。第二に、聖人は悔悛の模範となります。代表的なのはマグダラのマリアです。第三に、悔悛により救われると、人は聖人とともにいられるという、報酬としての聖人です。

 気になっていた論集なので、今回入手し、通読することができて良かったです。

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Last updated  2017.04.19 23:07:47
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