のぽねこミステリ館

ロバート・ルイス・ウィルケン（大谷哲・小坂俊介・津田拓郎・青柳寛俊訳）『キリスト教一千年史　地域とテーマで読む（下）』
～白水社、2016年～
(Robert Louis Wilken, The First Thousand Years: A Global History of Christianity, Yale University Press, 2012)

　以前に上巻を紹介（記事はこちらです）しましたが、今回は下巻を紹介します。
　本書の構成は次のとおりです。

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第20章　キリストをめぐる一大論争
第21章　エジプトとコプト、ヌビア
第22章　アフリカのシオン――エチオピア
第23章　シリア語を話すキリスト教徒――東方教会
第24章　アルメニアとグルジア
第25章　中央アジア、中国、インド
第26章　キリスト教帝国――ユスティニアヌス
第27章　西方での新たなはじまり
第28章　ラテン・キリスト教の北への広がり
第29章　エルサレム略奪、さらなるキリスト論論争
第30章　唯一神の他に神はなし――イスラームの勃興
第31章　聖画像とビザンティウムの構造
第32章　アラビア語を話すキリスト教徒
第33章　イスラーム支配下のキリスト教徒――エジプトと北アフリカ
第34章　イスラーム支配下のキリスト教徒――スペイン
第35章　西の皇帝――シャルルマーニュ
第36章　スラヴ人の間のキリスト教
終章

地図
年表
謝辞
訳者あとがき

本書で参照した翻訳史料
読書案内
索引
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　上巻が主に西方を中心とした、時系列的な叙述＋テーマ別の叙述とすれば、下巻は構成からも分かるとおり、地域別の叙述となっています。

　西方の状況はキリスト教史の通史などでふれてきたつもりでいますが、比較的初期の時代から世界中にキリスト教が展開していたことにあらためて気づかされました。キリスト教というテーマから見た世界史の叙述としてもたいへん興味深い一冊だと思います。

　特に興味深かった点をいくつかメモしておきます。

　第25章から、「シルクロードは理念、文化、そして宗教も運んだ。このルート全体を旅するキャラバンのなかでも、キリスト教徒商人は積極的だった。」（75頁）。著者はキャラバンのキリスト教徒商人あるいはキャラバンについていった修道士や聖職者の果たした役割は、「ラテン語を話す伝道者たちが西方で、あるいはギリシア語を話す伝道者たちが東方で到達したよりも、はるかに遠くの土地まで福音を運んだ」と指摘しています。

　第32章では、ムスリムとキリスト教徒の論争が紹介されています。ムスリムは「神は女性と結婚して息子をもうけたなどとなぜ言うのか」と聞きます。キリスト教徒は、そんなことを言うキリスト教徒はいないと答えますが、ムスリムは「おまえはキリストは神の子だと言ったではないか」と応じます。それに対してキリスト教徒は、たしかにそのとおりだが、これは我々の理解を超えたことであり、我々は類推でしか語れない、と、反論を続けます。異なる宗教は分かり合えないのかと感じさせられるエピソードです。

　その他、言語に関する点を興味深く読みました。異国の地でキリスト教の教えを広めるためには、その地の言葉が必要ですし、その地の言葉で書くことも求められます。しかし、キリスト教が到達した時点で、文字が存在しない場合もありました。第24章では、アルメニア語の文字を編み出し聖書を翻訳したマシュトツという人物が紹介されます。また、第36章では、スラヴ語を記述するためのアルファベットを生み出すために努力した人物たちが紹介されます。（それは後に、キュリロスという人物の名をとって、キリル文字と呼ばれる文字につながっていきます。）

　内容が多岐にわたるため、全体の紹介は難しいですが、このように興味深いエピソードが満載です。

　巻末には、邦訳のために参照された邦訳史料の紹介もあり、また文献一覧には邦訳がある文献については邦訳の情報も示されていて、とても丁寧な作りとなっています。

　上巻の紹介でも書きましたが、訳文もとても読みやすいです。

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