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2018.07.14
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岡地稔『あだ名で読む中世史―ヨーロッパ王侯貴族の名づけと家門意識をさかのぼる―』

~八坂書房、2018年~

 

 著者の岡地先生は南山大学外国語学部教授。初期中世史を専門にされています。

 私は、本書の出発点になったという論文「ピピンはいつから短躯王と呼ばれたか:ヨーロッパ中世における「渾名文化」の始まり―プリュム修道院所領明細帳カエサリウス写本・挿画の構想年代について―」『アカデミア(人文・社会科学編)』842007年、197-262頁を拝読しており、興味をもっていましたので、その後の論文の成果もまとめた上で一般向けに整理された本書が刊行されたことを嬉しく思います。

 本書の構成は次のとおりです。

 

―――

ごくごく短い序章 ヨーロッパ中世の人びとの名前をめぐる疑問

第I章 ヨーロッパ中世はあだ名の宝庫

II章 「カール・マルテル」の謎―「あだ名文化」の諸相(一)

III章 ピピンはいつから短躯王と呼ばれたか―「あだ名文化」の諸相(二)

IV章 姓の誕生―ヨーロッパの「家名」をさかのぼる

第V章 中世の命名方法とその背後にあるもの―「あだ名文化」の背景を探る(一)

VI章 中世貴族の家門意識はいかにして形成されたか―「あだ名文化」の背景を探る(二)

VII章 混迷の「ユーグ・カペー」―「あだ名文化」の諸相(三)

 

あとがき

索引

史料・文献

掲載図版出典

付録―中世ヨーロッパ王侯《あだ名》リスト

―――

 

 2ページだけの序章は、ヨーロッパの王侯にはなぜ多くのあだ名が付けられているのか(あだ名を聞けばある特定の人物を想起できるのか)、なぜルイ○世のように同じ名前がつけられるのか、といった問題提起です。

 第1章は、いくつかのあだ名の由来が紹介、5世紀後半から15世紀後半の1000年間の間に見られるあだ名の年代別分布状況の提示(37頁の表1。これは重要です)、こんにち了解されるあだ名が最初から特定の人物に付されていたわけではないことの指摘などを行います。表1では9世紀後半~10世紀前半にあだ名が増えていくことが明確に示されています。


 第2章は、カール・マルテル(741年没)に焦点を当てます。「鉄槌」を意味する「マルテル」というあだ名はなぜ付されたのかを、多くの史料から検討し、トゥール・ポワティエ間の戦いでの勝利から付されたという従来の説を退けます。また、叔父の名前に由来するのでは、という先行研究の説を詳細に検討し、その叔父の存在自体が確認できないという結論を引き出す議論は、やや複雑ですが知的興奮に満ちた叙述です。


 第3章は、ピピン短躯王(小ピピン。ここでいう「小」は彼の祖先のピピンと区分するためで短躯の「小」ではない。)を取り上げ、彼の祖父中ピピンを「短躯」と呼ぶ史料もあること、小ピピンにあだ名を付す最初期の作品は彼を「敬虔な」と形容していることを指摘します。関連して、その後のカロリング朝の王たちのあだ名を検討し、「メロヴィング朝末期~カロリング期朝前期の人びとをあだ名で呼んだのは、その彼らの同時代人ではな」く、「カロリング朝後期以降の九世紀末~十世紀初の人びとが」彼らをや自分たちの同時代人に対してあだ名を付した(129)のだということを指摘します。


 第4章は、中世初期のヨーロッパには個人名しかなかったこと、最初期の姓は「~城の」から始まっていること、次第に姓が増加していくこと、などを示します。


 第5章は、序章で提示した「なぜルイ○世のように同じ名前がつけられるのか」という問いへの回答となります。極論すれば、姓がない時代、ある特定の名前を有することが、その親族集団への帰属を示した、ということになります。ここでは、ある親族集団の中で特に頻繁に使用される名前が、「主導名」と名づけられています。


 第6章は、ある一族をもとに、主導名の分析を通じて、その親族集団意識・家門意識を分析します。数世代ごとに帰属意識は異なっており、こんにちの研究者が示す生物学的な親族集団と、同時代人がもつ親族集団意識は必ずしも一致しないという指摘が興味深いです。


 第7章は、カペー朝の創始者ユーグ・カペーを取り上げます。ここで面白いのは、ユーグ・カペーと呼ばれた人物が、実は3人いたということ。ユーグ・カペーの父である大ユーグがユーグ・カペーと呼ばれていたことなど、第3章同様、ある特定の人物に特定のあだ名が定着するのは、同時代よりも後になってからということがあらためて示されます。


 付録として、先行研究をベースに岡地先生が作成された王侯あだ名リストがあり、眺めるだけでも、あだ名の多さやユニークさを楽しめます。


 以上、簡単なメモになってしまいましたが、本書でも紹介されている宮松浩憲先生による人名研究に関心を持っていたこともあり、たいへん興味深く読んだ1冊です。

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Last updated  2018.07.14 13:36:04
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