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2019.06.15
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松本宣郎『ガリラヤからローマへ―地中海世界をかえたキリスト教徒―』

~山川出版社、1994年~

 

 著者の松本宣郎先生は東北大学名誉教授。初期キリスト教史がご専門で、本書のほかに『キリスト教大迫害の研究』(南窓社、1991年)や『キリスト教の歴史(1) 初期キリスト教~宗教改革』(山川出版社、2009年)などの著作があります。

 本書の構成は次のとおりです。

 

―――

第一章 キリスト教徒の誕生

第二章 迫害の心性

第三章 ローマ都市のパフォーマンス

第四章 性の革命

第五章 魔術師としてのイエス

 

古代地中海世界の終焉とキリスト教

あとがき

 

索引/文献案内/年表/地図/図版出典一覧

―――

 

 本書は、初期キリスト教の諸相を通史的にみるだけではなく、それを同時代の社会状況(時にローマ帝国の中の社会、心性の状況)の中に位置づけながら見ることで、ローマ帝国にキリスト教がいかに見られていたかという点を示しつつ、また両者の類似点や相違点を浮き彫りにする論述となっており、全体的に興味深く読みました。

 第一章では、まず、イエスの活動が、戸外で呼びかける点は地中海世界で市民に呼びかける人々のとる共通の方式であったという同時代の状況との類似点を示し、一方で社会的弱者(貧者や女性など)に呼びかけることなどは「前例のない新しさ」だという同時代との相違点を指摘します。その上で、イエスの死後に成立する原始教団を、特に多くの地域に宣教を行ったパウロの活動を中心に見ていきます。


 第二章は、先行研究の迫害原因論を検討し、キリスト教徒たる「名そのもの」に付されたマイナスのイメージが迫害の原因となったという説を評価する立場を示します。そのイメージとして、無神論(ローマの神々の像を崇拝しない)、カニバリズムや熱狂性などが挙げられます。ただ、本書で一貫しているのは、先行研究などによりイメージされるほど迫害はローマ帝国全体で継続的に起こったということはほぼなく、基本的には局地的、一過性のものであった、という主張です。


 第三章では、ローマ帝国の人々の貧富観や富裕者による共同体への奉仕といった構造、奴隷の問題などをみていきます。ここでは、キリスト教は富を否定するというイメージがありますが、一方では(全体の流れとしては)「個人の財産権を否定せず、能力に応じて献金することを求めた」(139)、「富の肯定と教会への献金はやはり密接に結びつけられれている」(137)という

指摘を興味深く読みました。


 第四章では、キリスト教の禁欲性を見る前に、ギリシャ・ローマでの性の観念をみていきます。面白いのは、いずれでも、男性は男性も女性も愛することができるとされたこと、特にギリシャでは、男性は成人に達すると少年を一人選び彼と関係を結び、それだけでなく「男子市民たるにふさわしい倫理道徳をも教えこんだ」(193)という、ある種制度的なものがあったという点は面白かったです。一方、女性の同性愛は断罪されていたとか。キリスト教との関連では、宗教的接吻についての議論や、自ら去勢したオリゲネスという極端な人物がいますが、彼は正統教会からは排除され、「325年のニカイア会議で、去勢した男性が聖職につくことを禁止した」(240)といった指摘などが興味深いです。


 第五章は、キリスト教が広まる以前から、ローマでは魔術の存在が当然とされていたことが示されます。特に興味深かったのは、多くの為政者が占星術師を側近におき、判断を仰いでいたということ。元首政期に占星術が浸透した理由として、以前の共和政では公の場で決定が行われたことから、将来のことの判断についてはオープンだったことに対して、元首政では、元首一人が全責任を負うことになったこと、その際になにか権威ある保証を欲したこと、占星術は魔術ではなくストア派の哲学者も信奉する科学であったことから皇帝が公の場でそれに頼ってもさしつかえはなかった、というのですね(264-265)。ですからキリスト教の批判者は、奇蹟をおこすイエスを「魔術師」と呼んで非難こそすれ、奇蹟自体を否定するようなことはなかった、といった指摘も興味深いです。

 

 15年ぶりくらいの再読になるかと思いますが、あらためて良い読書体験になりました。

 なお本書は2017年に講談社学術文庫としても刊行されています。

 

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Last updated  2019.06.15 22:16:10
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