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2019.09.25
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芝紘子『歴史人名学序説―中世から現在までのイベリア半島を中心に―』

~名古屋大学出版会、2018年~

 

 著者の芝先生は、スペイン社会史・家族史の研究者です。

私の手元には、本書の出発点となる論文「スペインにおける姓名システム―その由来に関する一考察」『西洋史学』1781995年、1-17頁があります。

 本書は、その後も継続的に発表された論考も元にされた研究書ということで、大変興味深く読みました。

 本書の構成は次のとおりです。

 

―――

地図

凡例

 

序章

第1章 「命名革命」の初期現象

第2章 新しい姓名システムの登場

第3章 単一命名から二要素命名へ

第4章 近世における命名の推移

第5章 現行法定姓の誕生

第6章 なぜスペインの姓は少ないのか

終章

 

あとがき

文献一覧

図表一覧

索引

―――

 

 序章は、姓名システム・人名研究に関する先行研究を概観するとともに、「近代姓名システムの誕生から現在までの展開を…辿りつつ、それらが映し出すその時々の社会の諸次章がもつ意味合い・関係性をあきらかにしようとする」(4)という本書の目的を提示します。

 第1章は、初期中世から13世紀頃までの、スペインにおける人名(いわゆるファーストネーム)の特徴を明らかにします。とりわけ特徴的なのは、名前のストックが縮減し、少数の名前に集中していくという点です。また、主に男性の名前が中心に論じられますが、女性の名前についても目配りされています。


 第2章は、姓の登場について論じます。まず、アラブの影響から、「Aの息子B B filius A」という補足命名が行われるようになり、次いで父の名前自体を補足名とする「父称」も登場したことが指摘されます(ロペスやフェルナンデスも父称)。特に「父称」については、地域差や使用頻度など、様々な観点から詳細に論じられます。もともとAの息子Bは「Aの息子B」と名乗り、その息子Cは「Bの息子C」と名乗るように、「世代父称」でしたが、やがてある人物の父称が固定化(本書では「化石化」という用語が用いられます)し、姓になっていくといいます。本書では父称だけでなく母称にもふれるほか、地名、あだ名、職名による姓についてもふれますが、職姓が他の西欧諸国に比べて圧倒的に少ないことなど、適宜他地域との比較を行いながらスペインの独自性が明らかにされます。


 第3章は、第1章で論じた個人名の縮減と第2章で論じた二要素命名の関係性を論じます。ここではまた女性の姓についても詳細に論じられます。


 第4章は、主に最頻名の地域差や、代表的な名前の推移と背景を論じます。後者については、アントニオ、ヨセフ(スペイン語ではホセさん)、マヌエルの3つの名前が、それぞれの聖人崇敬の背景とあわせて具体的に論じられます。


 第5章は、現行のスペインの複合姓の起源を明らかにする試みです。スペイン人の姓は、父方姓と母方姓からなり、1903年の王令ではそれぞれ順番に「第一、第二姓と呼ばれている」とありますが、姓の選択における性差別撤廃の機運から、1999年、「夫婦の合意のもとで、[子どもに]受け継がせるそれぞれの第一姓の順序の変更を登録まえに決定できる」とされました。このような複姓のあり方について、中世から近世までの状況をたどります。


 第6章は、スペイン人の姓が他国に比べ圧倒的に少ない理由を論じます。それは、土地の分割相続のあり方など、社会的背景の状況に求められ、スペインでは近親婚が多かったことが指摘されます。

 終章は全体の議論のあらためて整理してくれます。


 以上、簡単に本書の概要を紹介しましたが、何点か気になる点もありました。


1.文献一覧、邦語文献も著者名のアルファベット順で並んでいるので、探しにくいように思いました(例:Kenny、木村、木村、Kints)。欧語文献と邦語文献を分けても良かったのではと思います。


2.既に1991年に「中世盛期西フランス人の渾名から何が見えるか―ブルジュワ像の復元に向けて―」『産業経済研究』32-11991年、21-68頁という論文を発表され、その後も​『金持ちの誕生』刀水書房、2004​で人名研究の重要性を指摘し、さらに2005年から「「セーヌ川を飲み干す」―中世フランスの人名と心思―」『産業経済研究』(46-22005年、125-161頁;48-12007年、47-93頁)という論考を発表していらっしゃる宮松浩憲先生の研究に一切言及がないのが気になりました。本書でもあだ名や職姓に言及はありますが、我が国の研究状況にもふれていただきたかったです。(余談ですが、2006年のある論文で、『「セーヌ川を飲み干す」』は出版が予定されているとの記載もあり、刊行が楽しみです。)


3.第4章で論じられるマヌエルという名は、イエスの名である「エマヌエル」からきていますが、この名前はヨセフなどに比べると浸透するのが遅かったといいます。その理由として著者は、「イエス信仰の促進政策がヨセフの政策より遅れて始まった」(163)ことなどを挙げています。一方、第1章では、中世にはイエスという名が見あたらず、聖職者が救世主を意味するサルヴァドールの名を決して名乗らなかったことを指摘する際に、「人びとが神を直接呼ぶことになるのを避けた、ないしはある種の畏れ」(24)があったことを示します。なので、第4章で、この「畏れ」に関する観点に触れられていない点が気になりました。畏れ多いため名前に採用されるのが遅れたのか、直接「イエス」という名前ではないからイエス信仰の促進によって徐々に広まったのか、心性の変化があったのか、論証可能かは分かりませんが、議論の余地があるように感じました。

 些細な指摘ですが、以上の点が気になりました。


 最後に、上でもふれましたが、我が国では宮松先生の一連の研究や、2018年には​岡地稔『あだ名で読む中世史』​も刊行されており、少しずつ歴史学者による人名研究が進んできています。その中で気づいたのは、それぞれのアプローチの違い=「歴史人名学」の幅の広さです。


 宮松先生は、主に「金持ち」などのあだ名を対象とし、そのあだ名のついた人物の経歴を丹念にたどったり、そのあだ名のもつ社会的意味や人々の心性の変化などを明らかにしたりされてきています。


 岡地先生の2018年単著は、主にフランス王や貴族層のあだ名分析を行い、家門意識などを明らかにする研究です。


 一方、本書は、膨大な人名を統計的に分析し、地域差を明らかにするとともに、その地域差の原因を社会的背景の分析を行いながら指摘するという点に特徴があるように思いました。

 第6章で出て来る係数やグラフなど、正直十分には理解できない部分もありましたが、大変興味深く読みました。

 

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Last updated  2019.09.25 21:49:48
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