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2020.01.22
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G・K・チェスタトン(中村保男訳)『ブラウン神父の秘密』

~創元推理文庫、1982(新版2017)

 

 ブラウン神父シリーズ第4弾。文字が大きく読みやすくなった新版を入手しました。(元々の初版は1982年刊行。)

 8編の短編を、冒頭と末尾の書き下ろし短編がはさみ、全体で連作短編集としての一貫性があります。これは今までの3作にも、最終刊である第5弾にもない趣向で、私は大好きです。

 それでは、簡単にそれぞれの内容紹介と感想を。

 

―――

「ブラウン神父の秘密」隠居したフランボウの元を訪れたブラウン神父は、近所に滞在しているアメリカ人観光者から、その独自の探偵理論を尋ねられる。神父は自身の方法を話した上で、具体的な事件を回想する…。

「大法律家の鏡」グィン判事が邸宅の庭で何者かに殺されていた。家の中には争ったような後があり、庭の展望台のような場所には、詩人が立っていた。詩人は、なぜ彼は逃げずに袋小路のような場所にじっとしていたのか。

「顎髭の二つある男」犯罪の動機分類を行う博士に対して、ブラウン神父は、自身が解決した、犯人と利害関係もなく、財産の横領もなく、政治的な理由もない、風変わりな理由での殺人事件について語る。

「飛び魚の歌」スマート氏は、黄金の金魚を誰にでも見せびらかしていた。ある夜、彼が出かけているとき、秘書と事務主任は金魚の番を任された。ボイル氏が起きると、怪しい男が外におり、気づいたときには金魚は奪われていた。

「俳優とアリバイ」劇場で俳優たちが稽古をしているとき、支配人室に一人でいたはずの劇場支配人が殺された。その部屋にはカギがかかっており、また俳優たちにはアリバイがあった。

「ヴォードリーの失踪」地主のヴォードリー卿が、小さな村を歩いていた姿が目撃された後、忽然と姿を消した。彼の家には、秘書と、卿が後見していた娘、そしてその婚約者がいたが、秘書には卿が失踪する理由に心当たりがあるという。ブラウン神父が見抜く真相とは。

「世の中で一番重い罪」大尉は、弁護士に、父が死亡したら全てを相続して返済するからと、借金を申し込んでいた。大尉の素行に疑問もあった弁護士は、ブラウン神父とともに大尉の父のもとを訪れる。男は、子には相続するが、世の中で一番重い罪を犯したため、人としては認めない、と告げる。果たして大尉が犯した罪とは。

「メルーの赤い月」占い師を信じる貴婦人と、紳士的な政治家、そして占いに懐疑的な男の3人組に、骨相学者がつきまとう。その後、貴婦人の大切な宝石を、占い師の手が盗むような光景が目撃されるも、気づけば宝石は元に返されていた。

「マーン城の喪主」従兄弟を高く評価していた男が、従兄弟の死後、海外を放浪し、そして城に引きこもってしまった。カトリックの修道士がそそのかしたから引きこもっているという説もささやかれる中、話を聞いたブラウン神父は、意外な真相を明らかにする。

「フランボウの秘密」ブラウン神父が回想を終え、フランボウもアメリカ人観光者にある秘密を告白する。

―――

 

 これは面白かったです。冒頭にも書いたように、元々雑誌に掲載されていた短編が、書き下ろしの「ブラウン神父の秘密」と「フランボウの秘密」にはさみこまれ、全体として一貫性を持っているのが1点。そして「フランボウの秘密」では、いくつかの事件(の犯人や真相)について神父の感想も表明されているのも興味深い点です。


 各短編も好みの作品が多かったです。「大法律家の鏡」のなぜ詩人は殺人現場敷地内の袋小路でじっとして、逃げなかったのかという謎も魅力的ですし、「顎髭の二つある男」の動機分類とそれに当てはまらない斬新な動機の提示も面白いです。


 また、謎解きが優れているのはもちろん、どことなく怖い作品も多いです。「俳優とアリバイ」では、アリバイ崩しがメインになりますが、神父が激しい感情を示すのも興味深いです。なかなか怖い真相です。「ヴォードリーの失踪」「世の中で一番重い罪」も、意外であり、また怖さが余韻を引きます。


 本書の中で最も印象的だったのは「マーン城の喪主」です。一見、よくあるうわさ話から、その裏にある事件にたどり着く神父。そして、その真相にはさらに裏があるという、とことん楽しめました。また本作はメッセージ性も強いように思いました。印象的だった部分を引用します。(以下反転)

「しかし神父さん、あなたはああいう陋劣な所業がわれわれに許せるとでもお思いなのですか?」

「思いません」神父が言った。「しかし、我々司祭はそれを許すことができなくてはならぬのです」(中略)「あなた方の人情がこの人たちを見放すとき、それを絶望から救うのはわたしたちだけなのです。あなた方は、ご自身の趣味に合った悪徳を許したり、体裁のいい犯罪を大目に見たりしながら、桜草の咲きこぼれる歓楽の道をずんずんお歩きになるがよい。我々を夜の吸血鬼のように闇のなかに置きざりになさるが良い。そうすれば我々は本当に慰めを必要とする人たちを慰めます」(ここまで)(274)

 このやりとりまでの物語の深さが、さらにこのブラウン神父の思いを引き立てています。

 色んなニュースに対する意見や気持ちが流されがちだからこそ、こういう見方をどこかに持っていたいとあらためて思いました。(私は司祭ではありませんが、とかく一方的なものの見方になりがちなのは気をつけねばと思っています。)

 というんで、あらためて、とても楽しめた一冊です。

 

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Last updated  2020.01.22 23:24:05
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