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2020.05.23
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西洋中世学会『西洋中世研究』11

~知泉書館、2019年~

 

 2009年創刊の『西洋中世研究』の第11号です。

 1~10号までは表紙、背表紙が赤文字でしたが、今号から青地にリニューアルされています。

 10号までも読んできていながら感想を書いておりませんでしたが、せっかく目を通しているので、本誌についても記事を書こうと思った次第です。(時間を見つけて、1~10号も記事が書けたら良いのですが。)

 今号の構成は次の通りです。

 

―――

【特集】教皇庁と女性―崇敬と蔑視の構造―

<序文>

加藤磨珠枝「教皇庁と女性―崇敬と蔑視の構造―」

<論文>

加藤磨珠枝「中世初期ローマ教会における女性の職務とその表象について」

藤崎衛「母、教師、花嫁としての中世ローマ教会」

谷古宇尚「ナポリ・アンジュー家の王妃たちと教皇―ハンガリーのマリアの造営活動を中心として―」

三浦麻美「聖性から聖年へ―敬虔な女性たちから見た中世後期教皇像の権威教化―」

久木田直江「教皇庁の混迷を越えて―大陸(出身)の女性神秘家が導くイングランドの教会改革―」

寒野康太「ローマ・カトリック教導権における女性理解―中世研究にもとづく現代の神学―」

 

【論文】

アダム・タカハシ「アリストテレス主義における<神的摂理>と「1272年の禁令」」

小林亜沙美「13世紀ローマ教皇文書発給の実態―ルッカ伝来文書からの考察―」

 

【史料紹介】

菊地智「『マイスター・エックハルトと無名の信徒の対話』―作品の成立背景と主題―」

 

【新刊紹介】

 

【彙報】

佐々木博光「西洋中世学会第11回大会シンポジウム報告」

大貫俊夫「2018年度若手セミナー「エミリア・ヤムロズィアク氏講演会―国際中世学会への参加とグローバルな成果アウトプットへ向けて―」報告記」

神崎忠昭「第10回日韓西洋中世史研究集会―その回顧とともに―」

岩波敦子「パトリック・ギアリ教授退職記念国際会議参加記」

―――

 

 特集が大変興味深く、また関心もあるテーマなのが嬉しいです。

 まず、加藤論文は、現在では禁じられている女性聖職者の叙階が、中世初期にはあったのではないか、ということを各種史料や図像から指摘する興味深い論考。一番面白かったのは、「パウロの『ローマの信徒への手紙』で「使徒」とされた「ユニア」という人物を巡っても、ギリシア語原文ではユニアという名は男性の名前でもあり得るため……教皇庁の歴史解釈にあたかも辻褄をあわせるかのように、13世紀以降は「ユニアス」という男性であったと一般化され……新共同訳聖書でも「ユニアス」と男性名で記され、男性扱いがなされている。」しかし、あるギリシア教父は、ユニアは女性だったとはっきり記している史料もあり、「近年の研究者の間では、女性であったという解釈が一般的である」、という指摘です(10-11)。なお、女性の叙階に関する日本語の研究として、本論ではふれられていませんが、赤坂俊一「女性に対する叙階反対論を検討する」『関学西洋史論集』352012年、29-44頁という論文があり、こちらも史料的に正確な研究は女性助祭職は存在したという論調だということを示しています。

 藤崎論文はタイトルどおり、母、教師、花嫁として語られるローマ教会の分析を通じて、教皇がローマの優位性を示そうとしたことなどを指摘します。

 谷古宇論文もタイトルどおり、王妃たちと教皇の関係を分析する論考ですが、面白かったのは、「フランシスコ会においても各地を巡って聖堂の建造に専門的に携わる修道士がいた」(50)という指摘です。

 三浦論文は男性聖職者がみた女性と教皇庁の関係づけと、女性たちが描く教皇庁(13世紀末の史料と16世紀初頭の史料)の分析を通じて、列聖手続きへの意図から聖年の贖宥への関心へと重点が移ることを指摘します。

 久木田論文は4人の聖女とイングランドの関係を描きます。

 特集最後の寒野論文は、加藤論文と同様、女性が司祭職に就けないという神学上の論点を取り上げ、教皇庁の女性理解がどう変遷してきたのか、また中世ではどうだったのか、ということを分析しており、こちらも興味深く読みました。20世紀のある教皇文書の記載を、大胆にも「虚偽」と評しつつ、しかし教皇庁の見解も社会にあわせて対応してきたという点も示しながら、単に批判に終わらない問題提起となっています。

 

 タカハシ論文、小林論文はいずれも重厚。前者は、1277年に禁令で批判されたアリストテレス主義がなぜ批判されたのか、アラビア等ではアリストテレス主義がどう捉えられていたのかを丹念に論じて、新たな見解を示します。小林論文は、13世紀教皇の発給文書数を、各種の史料から推定し、説得力ある仮説を示すとともに、先行研究の知見を深化・発展させています。

 

 史料紹介も、先行研究を踏まえながら、登場人物の位置づけや著者・想定された読者など作品の背景を論じたのち、史料の主要トピックスを描く興味深い論考です。

 

 新刊紹介では27の欧語文献が紹介されます。スペイン史の文献が多く紹介されているのが目を引きます。今号で特に面白そうだと思ったのは、田邉めぐみ先生が紹介する、紋章学に関する1冊でした。

 

 4編の彙報も、いずれも興味深く読みました。

 

 関心のあるテーマの論考が多かったこともあり、全体的に興味深く、良い読書体験でした。

2020.02.24読了)

 

・西洋史関連(日本語文献)一覧へ







Last updated  2020.05.23 22:16:27
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 Re:西洋中世学会『西洋中世研究』11(05/23)   シモン さん
コロナ禍で、投稿がご無沙汰になってしまいました。
blogの記事は拝読しつつも、コメントを残すための気力も少し減退していたように思えます。
でも視点を変えれば、中世の黒死病の流行を、半ばリアルに体験している現況は、今を生きている、のぽねこさんや私を含む日本人にとって、貴重な「歴史体験」なのでは、と思えます。

さて本稿は、のぽねこさんの関心であるテーマだったことに加えて、私のような市井の理系サラリーマンにとっても興味深い論稿集だったと思います。
女性聖職者を美しく描いた芥川龍之介の短編「奉教人の死」のバックグラウンドが、実はカソリックの本場にも存在したのかも知れないと想像をめぐらせました。 (2020.05.26 13:58:47)

 シモンさんへ   のぽねこ さん
コメントありがとうございます。

記事にも書きましたが、特集のテーマがとても興味深い問題提起で、勉強になる論文集でした。

不勉強ながら、「奉教人の死」は未読ですので、また挑戦したいと思います。 (2020.05.30 22:36:54)

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 のぽねこ@ シモンさんへ コメントありがとうございます。 記事に…
 シモン@ Re:西洋中世学会『西洋中世研究』11(05/23) コロナ禍で、投稿がご無沙汰になってしま…

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