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2021.10.27
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アローン・Ya・グレーヴィチ(中沢敦夫訳)『同時代人の見た中世ヨーロッパ―13世紀の例話―』
~平凡社、1995年~


 著者のグレーヴィチ(1924-2006。没年はWikipedia参照)は、中世の民衆文化などの研究で著名な歴史家です。
 本書は、「例話」という史料を中心に、中世ヨーロッパの文化、ものの考え方などを論じます。
 本書の構成は次のとおりです。

―――

第1章 例話―文学ジャンルと思考様式
第2章 生者の世界と死者の世界
第3章 「大きな」終末と「小さな終末」
第4章 オータンのサン・ラザール大聖堂の西側扉口と中世意識のパラドックス
第5章 「煉獄の誕生」
第6章 「罪の宗教」
第7章 魂と肉体
第8章 説教と社会批判
第9章 女性、家族、性、あるいは男性の文化
10章 敵―異端者と異教徒

11章 リアリズムか
12章 心理学的概説、あるいはむすびにかえて

訳者あとがき
原注
―――

 例話の定義は、ジャック・ル・ゴフによる次の定義がほぼ定説となっています。「実話としてあたえられ、聴衆を救済するための教訓を垂れることを目的として、説教などの際に話される短い物語」(本書30頁の引用による)。古代の伝記や聖人伝などを題材にした話、イソップ寓話などの寓話や、動物寓話集などから引かれた話など、読んでいて抜群に面白い史料類型で、私もかれこれ20年近く例話や説教について(細々と)勉強を続けています。とまれ、例話には、「作者」が実際に見たり聞いたりしたという話もあり、本書で引用される例話は主にこの類型となっています。
 例話には、様々な物語がありますが、グレーヴィチは特に、その中でも悪魔や天使が登場したり、死者が煉獄や地獄から帰ってきたりするような、この世と異なる世界との「ふたつの世界の対立」が繰り広げられる点を強調します。
 例話の中では、聖者やキリストも怒ったりしますし、逆に悪魔も両義的です。たとえば、ある悪霊が人間にとりついて、聖書の内容を語った、という例話があります。なぜかと問われた悪霊は、「聴衆を害するためにやっておるのだ。というのも、真理を耳にしても、これらをちゃんと実行しない者は、それ以前より悪しき者になるのだから」(53)

 面白い例話がありすぎて、挙げればきりがないので、あとは要点だけメモしておきます。
 第1章は、こうした様々な例話の紹介(農民の風習を描くものなど、とにかく面白い事例が豊富です)。
 第2章は、主に死者が登場する例話から、生者のとりなしの重要性などを示します。
 第3章・第4章では、最後の審判はずっと未来のはずなのに、死後すぐに人間が天国、地獄、あるいは煉獄に行ったりすることを取り上げ、いわば死後すぐに審判がなされているのではないか、という矛盾を分析します(これをグレーヴィチは「大きな終末」と「小さな終末」と呼びます)。当時の学者たちも、見解がやや混乱していたことが、具体的な例話の分析から示されます。
 第5章は12世紀頃に「誕生」したとされる煉獄にまつわる例話の分析。
 第6章は、告解の重要性を説く物語などを分析します。
 第7章はとばして、第8章は様々な社会階層が登場する例話の分析。騎士、富者、農民、高利貸し、聖職者など、あらゆる社会階層が批判の的となっていたことを示します。
 第9章は標題通り女性や家族を扱う例話の分析を行います。
 第10章は、ムスリム、ユダヤ人、異端者が登場する例話の分析。彼らが悪とだけ描かれるわけではなく、時にだらしないキリスト教徒への批判を際立たせる存在としても描かれている点が、かねてより興味深く思っています。
 第11章は、例話には具体的な風習などが描かれていますが、どこまで「リアリズム」か、という問題を論じ、第12章は個性、信仰などの問題を論じたのち、全体の総括を行います。
 個人的には、卒論のテーマを決めるのに決定的な役割を果たした、思い入れの深い1冊です。
 上にも何度か書きましたが、とにかく例話がそれだけで抜群に面白い史料ですので、例話を豊富に引用しながら分析を進める本書もまた、とにかく読んでいて面白いです。
 また、注に掲載されている文献についても、(本書刊行当時)邦訳があるものについては当該邦訳書の情報も補足してくれていたり、ロシア語の研究については邦訳で意味を示してくれたりと、訳書として非常に丁寧なつくりですし、訳文もとても読みやすいです。
(あえてないものねだりをすれば、索引があればもっと助かります。)
 久々に全体を通読しましたが、あらためて勉強になりました。

(2021.08.07読了)

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Last updated  2021.10.27 23:01:23
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