谷崎潤一郎『痴人の愛』
~新潮文庫、1985年改版~
あまりにも有名な谷崎潤一郎(1886-1965)の長編小説。
電機会社の技師、河合譲治が28歳のとき、カフェにつとめる15歳のナオミを気に入り、女中としての人手も欲しかったので、声をかけ、一緒に暮らすようになります。英語と音楽を習わせ、自分の理想のハイカラな女性に育てようとしながら、やがて二人は結婚します。しかしその年齢差から、夫婦とはみえないように外では振る舞いながら暮らし、またナオミのために多くの服を買ってやっているうちに、やがてナオミの奔放さが目につき始め…。
こうした奇妙な夫婦の生活を、河合譲治が告白する形式で物語は進みます。
家のことを手伝ってもらうつもりもあったのに、ナオミはやがて料理も片づけもしなくなっていき、服もあまりに欲しがるため、主人公はしっかりあった貯金も底が尽きるまでになってしまいます。……読みながら、どっちもどっちのように思わずにいられませんでした……。
もとは大正13年~14年に連載された作品。ナオミズムという流行語もできたそうです。
磯田光一氏による解説「谷崎潤一郎 人と文学」(318-326頁)、野口武彦氏による解説「『痴人の愛』について」、いずれも興味深く読みました。先日紹介した北村紗衣先生の『批評の教室』で、どこかに焦点を当てて批評するという技術が紹介されていましたが、野口氏が作品における「白」に着目して議論を展開しているあたり、なるほどこういうことか、と勉強になった次第です。
(2021.11.19読了)
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