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2022.03.19
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菊地暁『民俗学入門』
~岩波新書、2022年~


 著者の菊池先生は京都大学人文科学研究所助教。本書は、先生による民俗学講義をもとにした入門書です。
 本書の構成は次のとおりです。

―――
はじめに―「せつなさ」と「しょうもなさ」を解きほぐす

序章 民俗学というガクモンが伝えたいこと
第1章 暮らしのアナトミー
 きる【衣】
 たべる【食】
 すむ【住】
第2章 なりわいのストラテジー
 はたらく【生産・生業】
 はこぶ【交通・運輸】
 とりかえる【交換・交易】
第3章 つながりのデザイン
 つどう1 血縁
 つどう2 地縁
 つどう3 社縁
終章 私(たち)が資料である―民俗学の目的と方法

あとがき―「墓穴」としての入門書、あるいは、本書を書いてしまった理由
図版出典一覧
―――

 構成には省略しましたが、各章の末尾にはコラムも掲載されています。
 各章は3節からなり、それぞれテーマの概論、前近代の状況、近代の状況、現代の状況を順に論じたのち、講義の中で学生さんから寄せられたコメントと節に関する主要な文献案内を紹介する、という構成になっています。
 「はじめに」と序章は、民俗学がどのようなガクモン(ここではあえてカタカナにされています)かを概観します(より学問的な説明は終章に譲られます)。
 第1章から第3章までで民俗学の具体的な実践をテーマをしぼって論じるのですが、いわゆる民俗学でよくある(という印象の)戦前戦後くらいのムラの暮らしや習俗の紹介とは全く異なり、「はたらく」では著者自身の学生時代の皿洗いのアルバイトが取り上げられたり、「とりかえる」ではオンラインショップも題材にされたりと、「日々の暮らしがなぜ現在の姿に至ったのか、その来歴を解明する」(231)という民俗学の実践が身近な事例で紹介されます。
 語り口も平易で、各論も抜群に面白いのですが、ここでは印象に残った点を簡単にメモしておきます。
 「社会そして歴史の本体は、「普通の人々」の「日々の暮らし」の無限の連なりであり、その本体を軽視して社会や歴史が理解できるはずがない」(3-4)という言葉は、心性史や日常生活史に関心を持っている私にはあらためて心強い言葉でした。
 事実・用語としては、
・「社会的事実」=フランスの社会学者エミール・デュルケム(1858-1917)が提唱した概念(31-32)

・スローフードの提唱者=カルロ・ペトリーニ(1949-)(51)
・「身体技法」=マルセル・モース(1872-1950)が提唱した概念。技能獲得における「他者」の重要性(98)
・4つの原理的な交換パターン=「贈与」「分配」「再分配」「市場」(130-132)
・家族が必要とされる普遍的理由=「社会」と「個人」、「自然」と「文化」の媒介(155-156)
・賃金がなく不可視化される家事=「シャドウワーク」…オーストリアの思想家イヴァン・イリイチ(1926-2002)による命名(162)
・「棲み分け」=生態学者・今西錦司(1902-1992)が、カゲロウが流速の異なる水域に分かれて生息していることを確認したことから命名(174)
・「サードプレイス」=アメリカの社会学者レイ・オルデンバーグがその役割を重視する、自宅でも職場でもない居場所(210)
 などなど、基本的事項について勉強になります。「棲み分け」など当たり前にイメージできる言葉ですが、上に紹介したような背景があったことは大変勉強になりました。

 民俗学の文献は過去に何冊か読みましたが、このようなわかりやすい入門書が刊行されたことに感謝です。
 良い読書体験でした。

(2022.02.26読了)

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Last updated  2022.03.21 09:25:37
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 Re:菊地暁『民俗学入門』(03/19)   シモン さん
こんにちは。

今回は、中世ヨーロッパ史やミステリといったいつもの?のぽねこさんのジャンルを離れて、民俗学の書籍の紹介ですね。

民俗学といえば柳田國男が真っ先に頭に浮かびます。「日本人とは何か」を探求するために、フィールドワークを実施した多分日本で最初の人だったと思います。その手法は、文化人類学者の梅棹忠夫先生とか山口昌男先生にも引き継がれ、おそらく現代にも脈々と受け継がれているのではと創造します。

菊池先生は、やや強引に柳田國男を20世紀の代表とすれば21世紀民俗学的な捉え方をされていますね。アルバイトの体験や、オンラインショップといった題材が、ちょっと古い「近代」の民俗学を「現代」のものにしてくれていますね。

菊池先生の所属する京大人文研といえば、左京区北白川小倉町、学生時代にその至近で過ごした私にとっては(理系でしたが)懐かしい場所です。近くには大川橋蔵邸もあり、湯川秀樹先生の弟である小川環樹先生の姿も時々拝見する「昭和」な場所でしたが、日々進化する令和の人文研の空気が感じられる一冊のようですね。是非手に取ってみようと思います。

今回も、良書のご紹介ありがとうございました。 (2022.04.01 15:59:44)

 シモンさんへ   のぽねこ さん
コメントありがとうございます。
久々に民俗学に関する書籍を読みましたが、中世ヨーロッパ史以外の本を読むのもいろいろと刺激があり、大変勉強になりました。(最近だと言語学も面白かったです。)

もちろん、本書でも柳田國男には言及があり、そうした伝統を踏まえたうえでの新しい民俗学の提示のように思えました。

文化人類学に関する文献はほとんど読んだことがありませんが、またいずれ挑戦してみたいと思っています。

あらためて、あたたかいコメントをありがとうございました。 (2022.04.02 22:25:59)

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