コナン・ドイル(阿部知二訳)『シャーロック・ホームズの生還』
~創元推理文庫、1971年(新版)~
(Arthur Conan Doyle, The Return of Sherlock Holmes, 1905)
シャーロック・ホームズシリーズの短編第3弾。13編の短編が収録されています。
前回の短編集『回想のシャーロック・ホームズ』の最終話「最後の事件」でモリアーティ教授と戦い失踪していたシャーロック・ホームズの「生還」から、物語はスタートします。
それでは、簡単にそれぞれの内容紹介と感想を。
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「空家事件」密室状況の中、敵のないのんびりした青年貴族が殺された。生還を果たしたホームズが見張るのは、しかしその現場ではなく…。
「ノーウッドの建築業者」ノーウッドの建築業者宅で火災が起き、当の建築業者は失踪。彼の財産管理を任されることになっていた法律事務所の男に殺人の嫌疑がかけられるが…。
「踊る人形」過去を話したがらない妻が、子どもの落書きのような人形の絵を見てから、様子がおかしくなっていったと紳士がホームズのもとを訪れる。メッセージが重ねられる中、事件は最悪の事態に向かってしまい…。
「あやしい自転車乗り」住み込みで音楽の教師を務めるようになった娘が週に一度母の家に帰るため、駅まで自転車で走っていると、ずっと等間隔でついてくる自転車乗りがいるという。果たして男の目的は。
「プライオリ・スクール」プライオリ・スクールに通う重臣の子供が行方不明になった。同時に、一人の教師も失踪していたという。
「ブラック・ピーター」日常は厳格でありながら、酒を飲むと家族に暴力をふるっていた船長、ブラック・ピーターが、「船室」と名付けていた小屋の中で殺された。担当のホプキンズ警部はホームズのもとに相談に訪れる。
「恐喝王ミルヴァートン」稀代の恐喝王から、依頼人の手紙を取り戻すためホームズたちが奮闘する。
「六つのナポレオン胸像」押し入り強盗が狙ったのは、ナポレオンの石膏像だった。犯人は石膏像を破壊し、現場を去っていた。同様の事件が繰り返される中、ついに殺人事件にまで発展してしまい…。
「三人の学生」寮に住む3人の学生のうち、テスト問題を事前に見ていたのは誰なのか。
「金ぶちの鼻眼鏡」ひじょうな学者と評判の高い博士の家で、秘書をつとめていた青年が殺された。現場には、鼻眼鏡が残されていたほか、邸宅に通じる道には足跡も残されていた。現場からの逃走は困難と思われる状況の中、犯人はどのように逃げたのか。
「スリー・クォーター失踪事件」ラグビー・チームの主力の男が失踪し、主将の青年が男を探してほしいとホームズのもとを訪れる。失踪した男の唯一の親類は事情を知っていてそうでいながら、厳しい態度ばかりを見せる。
「僧房荘園」荘園の邸宅の主が殺された。現場に居合わせた妻の証言からも、強盗団の仕業と思われたが…。
「第二の血痕」ヨーロッパでの戦争を引き起こしかねない重大機密の手紙が紛失した。大臣からの依頼を受け、心当たりの人物を当たろうとした矢先、そのうちの1人が殺されたことが発覚する。現場の敷物の異変からたどり着いた真相は。
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「踊る人形」は子供の頃に読んでずっと印象に残っている作品。詳細までは覚えていませんでしたが、あらためて楽しめました。
「空家事件」はホームズ生還の感動があり、「ノーウッドの建築業者」も謎解きと駆け引きの妙が秀逸で面白かったです。
今回面白く読んだのは、「金ぶちの鼻眼鏡」のこんなエピソード。警察から相談を受けるまで、羊皮紙の解読に没頭していたホームズが、警察から新聞記事を読んだかと問われ、「きょうは、15世紀以降のことはなにも見ていない」と答えます(322頁)。このセリフがたまりません。
(2022.04.16読了)
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