のぽねこミステリ館

2024/05/04(土)13:47

青崎有吾『早朝始発の殺風景』

本の感想(あ行の作家)(207)

​​ 青崎有吾『早朝始発の殺風景』 ~集英社文庫、2022年~  青崎有吾さんによるノンシリーズの短編集。  同じまちが舞台で、エピローグでは各物語のその後の様子も描かれますが、基本的には独立した5編の短編が収録されています。  それでは、簡単に内容紹介と感想を。 ――― 「早朝始発の殺風景」早朝始発の電車に乗ると、普段離さないクラスメイトの殺風景が座っていた。僕―加藤木と殺風景は、お互いが早朝始発に乗る理由を推理し始めることになる。 「メロンソーダ・ファクトリー」仲よし三人組でいつものファミレスでしゃべっていた私たち。学園祭のクラスTシャツのデザインを選ぶ中、私の提案に対して、いつもなら受け入れてくれるはずの詩子は別のクラスメイトのデザインを選び…。微妙な空気になる中、詩子の選択の理由をノギちゃんが推理する。 「夢の国には観覧車がない」フォークソング部3年生の引退記念でテーマパークにやってきた俺は、あまり話したことのない後輩とペアになり、観覧車に一緒に乗ることに…。果たして後輩が俺を観覧車に誘った意図とは…。 「捨て猫と兄妹喧嘩」公園で捨て猫を拾ったあたしは、両親の離婚により別々に暮らしている兄に連絡を取る。アパートに連れて帰れないため、兄に引き取りをお願いするが、兄の言葉にはどこか違和感があり…。 「三月四日、午後二時半の密室」クラスに最後までなじめた様子のなかったクラスメイトが、体調不良で卒業式を欠席。そんな彼女のもとに卒業アルバムを届けたわたしは、なんとなく帰りそびれて、少しずつ彼女と話をするが、急に違和感に気づき…。 ―――  これは面白かったです。  車両、ファミレス、観覧車、レストハウス、級友の家の部屋という5つの場所で、2~3人が話す中で生まれる違和感や疑問を解き明かしていくというスタイルの物語。決して派手な動きはないのに、物語にぐいぐい引き込まれます。  特に好みだったのは「メロンソーダ・ファクトリー」。主人公の最後の「修正」に心を打たれます。  また、「夢の国には観覧車がない」も良かったです。読後、このタイトルをあらためて、あらためてその深さを感じました。 「三月四日、午後二時半の密室」も、タイトルが素敵なのはもちろん、何も謎がなさそうでいて途中からミステリの雰囲気が高まっていくというつくりも素敵でした。とりわけ、クラスメイトの煤木戸さんが語る、勉強する理由が印象的でした。  池上冬樹氏による解説も分かりやすく秀逸です。  あらためて、これは面白かったです。良い読書体験でした。(2024.01.27読了)​・あ行の作家一覧へ

続きを読む

このブログでよく読まれている記事

もっと見る

総合記事ランキング

もっと見る