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2025.02.16
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佐藤彰一『ヨーロッパ中世をめぐる問い―過去を理解するとは何か―』
~山川出版社、2024年~


 著者の佐藤彰一先生は名古屋大学名誉教授で、主に初期中世史をご専門とされています。
 本ブログでは、次の著作を紹介したことがあります。
・​佐藤彰一『中世世界とは何か(ヨーロッパの中世1)』岩波書店、2008
・​佐藤彰一『禁欲のヨーロッパ―修道院の起源―』中公新書、2014
・​佐藤彰一『贖罪のヨーロッパ―中世修道院の祈りと書物―』中公新書、2016
・​佐藤彰一『剣と清貧のヨーロッパ―中世の騎士修道会と托鉢修道会―』中公新書、2017
・​佐藤彰一『宣教のヨーロッパ―大航海時代のイエズス会と托鉢修道会―』中公新書、2018
・​佐藤彰一『歴史探究のヨーロッパ―修道制を駆逐する啓蒙主義―』中公新書、2019
 さて、本書は、2001年以降に佐藤先生がなさった講演や学会などでの報告に加え、コラムとして博士号取得論文出版時の寄稿文を収録した、いわば講演集です。
 本書の構成は次のとおりです(参考として、講演・報告年を併記)

―――
はじめに
第1章 5~7世紀のシリア人商人問題[2011]
第2章 西洋中世史の解決すべきいくつかの大きな問題[2009]
第3章 メロヴィング国家論[2008]
第4章 メロヴィング王朝の婚姻戦略[2003]
コラム トゥールの会計文書
第5章 西欧中世初期国家における「フィスクス」とその変遷[2006]
第6章 メロヴィング朝文書の刑罰条項とその意味[2009]
第7章 西ゴート期スレート文書の歴史的コンテクスト[2003]
第8章 ヨーロッパ中世の封建制と国家[2008]
第9章 12世紀ルネサンス論再考[2008]
10章 学知とその社会的還元[2009]
11章 19世紀フランスの歴史学と歴史教育[2009]
12章 日本における西洋中世史研究の展開[2005]
13章 戦間期日本において西洋中世史家であること―鈴木成高の場合[2001]
おわりに

参考文献
―――

 第1章は、4世紀から西欧に進出し、7世紀には史料から言及が消えるシリア人について、西欧への進出理由と6世紀から居留区の衰退が顕著となっていく原因について、シリア地方の研究を参照しつつ明らかにする興味深い報告。
 第2章は最終講義をもとにした文章で、(1)ヨーロッパ草原地帯の定住と国家形成、(2)バルカン半島の歴史、(3)古代から初期中世への移行問題、(4)中世における古代ギリシア思想の伝播問題にまつわる現状の研究動向と今後明らかにすべき課題を提示します。
 第3章は、近代的国家観を中世に当てはめるのではなく、ゲッツが提唱するように「それぞれの時代に固有の秩序に基づく、時代に特有の公権力の存在幼体を手がかりに構想」(35)することで、中世に独自の国家概念を構築する試みで、メロヴィング国家の特徴を指摘します。
 第4章は第3章で提示した論点のうち、婚姻戦略(族外婚から、それが困難になると下層出自の女性との部内婚へ)について詳細に論じ、社会情勢に応じて国家としての自己維持に努めていたことを指摘する興味深い論考。
 コラムは大著『修道院と農民』刊行時の寄稿文で、新史料の発見とその意義を語ります。
 第5章・第6章は、中世初期国家の財政機構「フィスクス」の概要と、その関連で刑罰条項の意味を明らかにします。
 第7章は、スペインにまとまって残っている、西ゴート期の粘板岩(スレート)に刻まれた文書に関する考察。
 第8章は、スーザン・レイノルズによる封建制批判の紹介と、封建制概念をめぐる諸研究の動向を論じます。何度かこのブログでふれていますが、レイノルズの極端な主張については、​森本芳樹『比較史の道―ヨーロッパ中世から広い世界へ―』創文社、2004​、第10章「封建制概念の現在―第2回日英歴史家会議に向けて―」も参考になります。
 第9章は、イデオロギー的な叙述から物議をかもしたシルヴァン・グーゲネム『モン・サン・ミシェルのアリストテレス』を詳細に紹介した上でし、イデオロギー的な叙述には批判を加えつつも、西欧において古代ギリシア思想が受け継がれていたという論点など、評価すべき点は評価しています。この問題は、第2章で提示された、今後解明が望まれる論点でもあります。
 第9章までが、中世史の様々な論点についての議論であったのに対して、第10章以後は、歴史学の営みについての議論です。
 第10章は、履修する学生をもたず、一般聴講者に講義を行うコレージュ・ド・フランスについて、その成立の歴史、教育内容、組織などの概要を紹介している興味深い章でした。とりわけ、末尾における、日本のカルチャー・センターでは「高い学術的内容を盛り込むことを、企画する側から制約される」(169)傾向があるのに対して、コレージュ・ド・フランスでは特殊な概念や言葉遣いを制約せず、高度な議論をそのまま用いているという、両者の聴衆のあり方の違いにまで話が及んでいて、こちらも大変興味深いです。
 第11章は、章題どおり19世紀フランスの歴史学のあり方について、後にアナール学派に批判される「方法学派」の意義を再考します。
 第12章・第13章は、戦間期までの日本の西洋中世史家に焦点を当てます。第12章は、明治維新以後の第3世代頃の歴史家までの概観、第13章はフランスでの講演を基にしており、佐藤先生の師でいらっしゃる鈴木成高先生の業績を論じます。両章で面白かったのは、初期帝国大学では外国人教授がそのまま外国語で講義を行っていたため、学生の語学力も現在より高かったであろうという指摘です。あらためて、自身の語学力のなさを反省する次第でした。

 以上、講演・報告をもとにしているため、「です・ます体」で書かれていることもあり読みやすく、また内容も勉強になり、大変興味深い講演集でした。

(2025.02.13読了)

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Last updated  2025.02.16 10:16:01
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