京極夏彦『前巷説百物語』
~角川書店、2007年~
「巷説百物語」シリーズ第4弾。
百介さんが仕掛けにかかわる前、さらにいえば又市さんが御行の又市になる前に、損料屋で請負をしていた頃を描く物語です。
損を埋めるゑんま屋のお甲さんからの依頼で、又市さんは、なんでも作れる長耳の仲蔵、大坂にいた頃から一緒に仕掛けをしていた削掛の林蔵さん、鳥見の山崎さん、学識のある久瀬棠庵さんたちとともに、ゑんま屋に持ち込まれた様々な相談を解決するための仕掛けを施していきます。
また、奉行所の志方さん、志方さんの手下の万三さんも活躍します。
それでは、簡単にそれぞれの内容紹介と感想を。
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「寝肥」四度身請けされたお葉は、身請けされるたびに相手が死ぬという噂がたっていた。その裏を探り始めた矢先、お葉に人殺しの疑いがかかり…。
「周防大蟆」依頼人の侍、岩見は、自分の兄を殺したという相手への仇討ちをしなければならない状況にあった。しかし、岩見を相手は無罪であり、本当の犯人は別にいるが、真犯人の差し金で自分には9人の助太刀が付き、不本意ながら相手を殺してしまう状況に追い込まれているという。
「二口女」旗本の妻からもたらされた依頼。昨年亡くなった夫と前妻の間の長男は、表向きは病死ということだったが、自分が折檻したことによる餓死だったという。誰も気付いていない中、奥方がしたことが明るみに出るとかえって家にとっては損になるが、奥方の気持ちをどのように埋めるべきか。
「かみなり」好色・強欲で有名な立木藩の江戸居留守役が、夜這いに失敗した後切腹した。ゑんま屋の仕掛けの結果の思わぬ人死に、しかも藩の中では留守役のことをたたえる声もあった。そんな中、ゑんま屋の女将と角助が何者かにかどわかされて…。
「山地乳」名前を書くとその人物が死ぬという黒絵馬の噂がたった。実際に黒絵馬に自分が名前を書いた人物が死んでしまったと、名乗り出る人たちも出る始末。黒絵馬騒ぎを収束させるため、又市たちが仕掛けを考えていた最中、奉行所の志方が黒絵馬に自分の名前を書いたという情報が入り…。
「旧鼠」黒絵馬事件で存在を知った祇右衛門が、ゑんま屋に総攻撃を仕掛けてくる。又市は棠庵の言葉を受け、自分自身が人を使い仕掛けをかけていく決意を固めていくこととなる。
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冒頭にも書きましたが、ゑんま屋で仕事を請け負う立場であった又市さんが、御行の又市となるきっかけとなる物語です。またそれは、『続巷説百物語』所収「狐者異」の背景となる事件でもあります。
初期から、とにかく人死にの出る仕掛けを避けるべきと訴え、仕掛けの原案をさらに改良していく又市さんですが、やがて自分自身が仕掛けを描く立場に変わっていくという、その成長を描く物語でもあり、感慨深いです。
2007年6月に記事を書いていますから、18年ぶりの再読ですが、このたびあらためて『巷説百物語』から読み返して、さらに味わい深く楽しめました。
特に「旧鼠」では悲しさやらなんやらで感情も揺さぶられます。
良い読書体験でした。
(2025.04.02再読)
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