O・ヘンリー(小川高義訳)『賢者の贈りもの―O・ヘンリー傑作選I―』
~新潮文庫、2014年~
あまりにも有名なO・ヘンリー(O. Henry, 1862-1910)の短編を表題作とする、傑作選の第1弾です。
O・ヘンリーの本名はウィリアム・シドニー・ポーター。牧場生活、不動産会社、銀行などで働きますが、横領の嫌疑で服役。服役中から新聞雑誌に原稿を送るようになり、以後、O・ヘンリーの筆名で活躍されますが、過度の飲酒から健康を害し、47歳の若さで亡くなったとのことです(以上、訳者あとがき、261-263頁参照)。
本作には、16編の短編が収録されています。
貧しい暮らしの中、美しい髪を切り売って夫のためのクリスマスプレゼントを買った妻と、夫からのプレゼントを描く「賢者の贈りもの」。
恋人からの連絡を待ちわびるタイプライターに訪れる出来事を描く「春はアラカルト」。
間借り先で一緒の少佐そっくりに舞台で演じた俳優と少佐のその後を描く「ハーグレーヴスの一人二役」。
20年前に意気投合した二人が再開の約束を果たそうとする「二十年後」。
高級ホテルに滞在する上品な女をめぐる「理想郷の短期滞在客」。
逮捕されてあたたかく冬を越したいのに、何をしても逮捕されない男の行く末を描く「巡査と讃美歌」。
娘が行方不明になってから水車小屋を教会に改装した男と、過去を失った女との出会いを描く「水車のある教会」。
価値観の相容れない姉妹の行く末を描く「手入れのよいランプ」。
千ドルという半端な遺産を相続した男の使い道を描く「千ドル」。
おぞましい所業で名高い「黒鷲」がとつぜん姿を消すことになった顛末を描く「黒鷲の通過」。
自分だけ「緑のドア」という謎のチラシを配られた男の冒険を描く「緑のドア」。
新しい速記係の採用を指示したことさえも忘れるくらい忙しいブローカーの恋を描く「いそがしいブローカーのロマンス」。
身代金目的で誘拐した少年のとんでもない所業に振り回される男たちを描く「赤い酋長の身代金」。
喪に服して真っ黒なドレスを着ているという女と、その話を聞いた男のその後を描く「伯爵と婚礼の客」。
強盗に入った家で起こった出来事を描く「この世は相身互い」。
公園で本を読む女と、彼女に声をかけた男を描いた「車を待たせて」。
訳者あとがきにもありますが、私は表題作を「子供向けに書き換えられたものだけで読んだつもりになってしま」(260頁)っていたので、邦訳とはいえ、いろいろ読んでみたいと思い、このたび手にとりましたが、どれも好みの話でした。こちらも訳者あとがきに触れられていますが、巧みなどんでん返しが味わい深いです。
なんとなく落ちが分かりながらも「水車のある教会」は感動的ですし、なぜか自分にだけ他の通行人とは違うチラシが配られるという、「世にも奇妙な物語」にも描かれそうな「緑のドア」は展開も落ちも好みでした。
「赤い酋長の身代金」「この世は相身互い」など、ユーモラスな作品も多く、とても楽しめる1冊でした。
(2025.07.16読了)
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