西洋中世学会『西洋中世研究』9
~知泉書館、2017年~
西洋中世学会が毎年刊行する雑誌『西洋中世研究』のバックナンバーの紹介です。
第9号の構成は次の通りです。
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【特集】托鉢修道会―中世後期の信仰世界
<序文>
赤江雄一「托鉢修道会―中世後期の信仰世界」
<論文>
阿部善彦「貧しさは所有の放棄か―エックハルトの「ドイツ語説教74」を手がかりに―」
木村容子「中世末期の説教実践―無名フランシスコ会説教師の日誌―」
鈴木喜晴「14世紀におけるカルメル会の正統性と普遍的戒律観―ヒルデスハイムのヨハネス『擁護者と誹謗者の対話』をめぐって―」
荒木文果「瞑想するドミニコ会士―ローマ、サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ修道院の失われた第一廻廊装飾壁画―」
【論文】
波多野瞭「教会観とアリストテレス―秘跡の霊印を巡るボナヴェントゥラと初期トマス・アクィナスの対抗―」
永井裕子「ピントリッキオによる授乳の聖母の図像―中世の板絵からの図像利用―」
【講演】
アンナ・サピア・アブラフィア(小澤実訳)「争われる種/起源としてのアブラハム」、132-148頁
【研究動向】
櫻井康人「十字軍研究動向―「十字軍・十字軍国家学会」刊『十字軍』の統計より―」
【新刊紹介】
【彙報】
図師宣忠「西洋中世学会第9回大会シンポジウム報告「映像化される中世―語り継がれる史実とフィクション」」
佐々井真知・岡本広毅「2016年度若手セミナー「《西洋中世学会版》リサーチ・ショーケース」報告」
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今回の特集は13世紀初頭に成立した托鉢修道会に焦点を当て、信仰世界の諸相を描きます。
赤江先生による序文は、托鉢修道会誕生の背景と先行研究を簡潔に整理した後、特集の諸論考を概観します。
阿部論文はドミニコ会士エックハルトの説教を主要史料として、清貧を掲げたアッシジのフランチェスコの思想との対比を通じて、エックハルトの「貧しさとは一切を有すること」という思想を説得的に明らかにします。ここでは、ライバル関係であったフランシスコ会の創始者フランチェスコの記念日をドミニコ会でも祝っていたという指摘が興味深かったです。
托鉢修道会士は都市を中心に説教を展開していました。説教をつくるための補助手引きや「範例説教集」については多くの先行研究がありますが、木村論文は、無名の托鉢修道会士が残した、説教の実践を詳細に記した「日誌」という稀有な、そして抜群に興味深い史料をもとに、彼の説教実践を再構成します。日誌を残した人物はおそらくフランシスコ会士ですが、ドミニコ会などでも説教を行ったほか、死について説教を行った際に、「髑髏を見せたが、あまり盛り上がらなかった」と自身の失敗についても率直な反省を書き残しているなど、興味深い指摘が盛りだくさんです。
鈴木論文は、後発の托鉢修道会の1つ、カルメル会が、自らの修道会をいかに擁護したかを、他者からの批判とそれへの応答という形式で書かれた論考を主要史料として分析します。カルメル会は預言者エリヤにさかのぼると主張したり、縞模様の修道服を採用したり(参照:ミシェル・パストゥロー『悪魔の布』)した点について、他修道会などから批判を浴びていました。対象史料は、その批判に答える中で、会の正統性を揺るがしかねないラディカルな主張にまで展開してしまっており、その意義を興味深く論じています。
荒木論文は、ドミニコ会の、ある壁面装飾と当該装飾のもととなった文書史料に関する分析。フランシスコ会への競合意識なども明らかにされます。
波多野論文は、霊印を論じるにあたり、ボナヴェントゥラと初期トマス・アクィナスがどのようにアリストテレスに立脚し、お互いに対立しているかを明らかにします。
永井論文は、授乳の聖母と謙譲の聖母という2つのモチーフが用いられたルネサンス期の絵画作品に着目し、中世の作例の影響を明らかにします。
講演は、「アブラハム宗教」をキーワードに、キリスト教、ユダヤ教、イスラームの「展開と相克」を論じます。
櫻井論文は、2002年度から刊行が始まった『十字軍』という雑誌の掲載論文の統計的分析を通じて、多岐にわたる十字軍研究の現状を見通します。
新刊紹介は34の欧語文献の紹介。とりわけ、「中世史家のアトリエ」シリーズ第14巻の『西欧中世におけるイメージ』についての木俣先生による紹介を興味深く読みました。私の力不足でなかなか洋書が読めませんが、このシリーズは色々読んでいきたいです。
彙報は2本。個人的な話になりますが、第9回大会には参加できなかったので、シンポジウムの概要に触れられてありがたいです。また、英語での発表・質疑応答が行われた若手セミナー報告も興味深く読みました。
(2025.12.06再読)
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