島田荘司『愛しいチグサ』
~講談社、2026年~
島田荘司さんによるノンシリーズの中編作品です。
2020年にロンドンからOne Love Chigusaのタイトルで英訳が先行刊行されていた作品で、本書はその原作です。
それでは、簡単に内容紹介と感想を。
―――
舞台は2091年、北京。
謝荷魚(シェ・ホーユー)は、大事故にあい、頭部と内臓の入った胴体だけが原形をとどめ、頸部もちぎれた状態となったが、救急隊により生命維持装置につながれたことで、一命をとりとめた。医師とエンジニアによる最先端の治療で、身体や脳の欠損を機械でカバーすることで、ホーユーは日常に戻ることとなる。
しかし、街行く人々の顔は真っ赤で、怒ったような顔つきで、彼らの体は機械で、おそらく金額を示すシンジケーターが表示されるように見えるようになっていた。
イラストを描くのを仕事としていたホーユーだが、久々に出勤して描いた絵をボスは却下し、ホーユーはしばらく休むこととなる。
死もよぎりながら、毎朝通った喫茶店から、はじめて美しい顔の女性を見つけたその日から、ホーユーは彼女だけを生きる希望にし、喫茶店に通い詰めた。そして、彼女―チグサと、ついに言葉を交わすことになるが…。
―――
まず、本編200頁弱の中編で、最近の島田荘司さんの作品の中では分量が少ないこともあって、元々読みやすい作風ですが、さらに読みやすかったように思います。
帯には「落涙の純愛ミステリ」とありますが、本格ミステリを想像して読むと印象が違います。あとがきにもあるように、ミステリ要素もあるSFと感じながら読み進めました。
なんとなく、オチというか真相には気付いてしまいましたが、それで物足りないどころか、読後もしばらく(数日)余韻を感じられる読書体験でした。味わい深い物語です。
巻末には、30頁弱の、「『愛しいチグサ』と、十代の頃の自分」と題するあとがき(エッセイ)が収録されています。小学生の頃、給食の時間に物語を作っては聞かせていたこと、寝る前に弟さんに物語を聞かせていたこと、広島県福山市から東京に引っ越したこと、その東京の家の思い出……と、印象的なエピソードが満載です。
あらためて、印象的な1冊です。良い読書体験でした。
(2026.02.01読了)
・さ行の作家一覧へ