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のぽねこミステリ館

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本の感想(や・ら・わ行の作家)

2021.06.01
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横溝正史『金田一耕助のモノローグ』
~角川文庫、1993年~

​ 横溝正史さんによる、昭和20年4月~昭和23年7月の、岡山県での疎開生活を回想するエッセイ集です。もともと、徳間書店『別冊問題小説』1976年夏季号~1977年冬季号に連載されたエッセイの文庫化です。
 構成は次のとおり。(連番は便宜的にのぽねこが付しました。)

―――
[
第1部]疎開3年6カ月―楽しかりし桜の日々
 [01]義姉光枝の奨めで疎開を決意すること 途中姉富重の栄耀栄華の跡を偲ぶこと
 [02]桜部落で松根運びを手伝うこと ササゲを雉に食われて泣き笑いのこと
 [03]敗戦で青酸加里と手が切れること 探偵小説のトリックの鬼になること
[
第2部]田舎太平記―続楽しかりし桜の日々
 [04]兎の雑煮で終戦後の正月を寿ぐこと 頼まれもせぬ原稿76枚を書くこと
 [05]城昌幸君の手紙で俄然ハリキルこと いろんな思惑が絡み思い悩むこと
 [06]探偵小説を二本平行に書くこと 鬼と化して田圃の畦道を彷徨すること
[
第3部] 農村交友録―続々楽しかりし桜の日々
 [07]アガサ・クリスティに刺激されること 公職追放令に恐れおののくこと
 [08]澎湃として興る農村芝居のこと 昌あちゃんのお婿さんのこと
 [09]「本陣」と「蝶々」映画化のこと 桜部落のヒューマニズムのこと
 [10]倅亮一早稲田大学に入学のこと 8月1日に東京入りを覘うこと
―――

 面白かった記述、印象に残ったエピソードなどをメモしておきます。
 [01]では、「エラリー・クイーンのごときは、私が「探偵小説」という雑誌を編集しているころ、はじめて日本に紹介した作家である」(10)とのこと。別の個所でも書いていますが、早川書房さんが海外ミステリの翻訳を次々と刊行するまでは、横溝さんは自ら原著で海外ミステリを読み研究されていたそうです。
 [02]は、​「本陣殺人事件」​​『八つ墓村』​​『獄門島』​の誕生に不可欠であった、加藤一さんという人物との出会いが語られます。また、後のエッセイについてもふれますが、横溝さんの戦争観も印象的です。「​​​​これはもうだれでも知っていることだろうが、敵が機関銃をもって向かってきたら、竹槍をもって闘えというのはまだしもとして、女は快く敵に強 姦させろ。そしてその最中に、相手の睾 丸を握りつぶせというには沙汰の限りであった。これはもう軍のエゴイズムとしか思えなかった。​​​​(31-32)
 [03]の青酸加里については、[07]にこのように書かれています。「私はどんな意味でも戦争協力を強いられるようなことがあった場合、一家五人無理心中をやってのけようと、家人にも絶対秘密である薬物を用意していた」(95)[03]では、終戦のことをラジオで聞いて、「青酸加里と手が切れたことをハッキリ自覚した」(37)と書かれています。ここも、横溝さんの戦争観を端的に示していて、印象的でした。同時に[03]では、これで探偵小説が書けるようになる、という思いに燃え、外国雑誌を引っ張り出して読んだり、原稿用紙の準備をしたり、「トリックの鬼」となったことも書かれています。

 [04]以降は、昭和21年3月から書いている日記ももとに当時を振り返っています。[04]では、昭和21年1月から2月末までの仕事集計というメモが紹介されますが、それによれば9作の原稿を2カ月で書かれています。うち、標題の頼まれていない原稿というのが「探偵小説」(​『刺青された男』​所収)です。
 [05]では、「本陣殺人事件」執筆の経緯を振り返っています。
 [06]は、「本陣殺人事件」と『蝶々殺人事件』を並行して書くこととなったいきさつ。
 [07]では、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』(の原著)を読み、『獄門島』の構想を練り上げるきっかけとなったと語られます。
 [08]では、農村芝居のために台本を書いたことや、芝居に感心したことなどの思い出が語られます。また、桜で芝居の主役をつとめた昌あちゃんのお婿さんが、将棋の大山七段(当時)とわかったこと、別の雑誌に寄稿した短文でそのことを書いたのがきっかけで、大山さんとも交流が生まれたことも書かれていて、こちらも興味深かったです。
 そして終章、[09]では、岡山を離れ東京に戻る経緯が語られます。ラスト、加藤さんとの別れのシーンは涙です。

 と、自分の覚えの意味もこめてやや詳しいメモとなってしまいましたが、とにかく横溝さんの語り口がやさしく、ユーモアもあり、あらためて横溝さんの作品を読むとほっとするのを認識しました。とにかく大好きです。

2021.01.02読了)

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Last updated  2021.06.01 22:32:23
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2021.05.01

アンソロジー『誘拐』
~角川文庫、1997年~

 誘拐をテーマにしたアンソロジー。8編の作品が収録されています。
 収録作品と概要は次のとおりです。

―――
有栖川有栖「二十世紀的誘拐」織田・望月のゼミの教師の家から、その親族の絵が盗まれた。その絵の身代金は、千円。メンバーたちが犯人の指示のままに行動すると、絵は無事だった。盗んだ時の犯人は手ぶらだったはずなのに、折り目すらない状態で…。
五十嵐均「セコい誘拐」1歳の娘が誘拐された男は、「セコい」方法で乗り切ろうとするが…。
折原一「二重誘拐」覆面作家の西木香が一人の女性に捕らわれの身になってしまった。女は、自分の登場する作品をかけという。一方、女の外出中に確認すると、電話には誘拐のやり取りが録音されていて…。
加納諒一「知らすべからず」ひき逃げ事件の被害者のかばんには、大量の札束が。そして、誘拐犯からの指示書も持っていた。誘拐事件の可能性があるため、慎重に捜査を進める刑事たちだが…。
霞流一「スイカの脅迫状」葬儀にかける直前、お通夜の間に、遺体が「誘拐」された。棺の底には、脅迫状とともにスイカが置かれていた。また同時期、「被害者」の知人が首を吊って死んでいるのが発見される。
法月綸太郎「トランスミッション」ある朝かかってきた間違い電話―それは、誘拐を知らせるものだった。完全に人違いのまま用件を喋り終えた犯人にかわり、僕は本当に子供を誘拐された人物のもとへ連絡をとる。それが、奇妙な事件の始まりだった。
山口雅也「さらわれた幽霊」20年前に息子が失踪し、脅迫状が届いた女優のもとに、霊と話せるという男が現れる。直後、息子を名乗る人物から電話があり、20年前と全く同様の脅迫状が届けられる。果たして、幽霊が誘拐されたのか。
吉村達也「誰の眉?」公園で遊んでいて男の子が誘拐された。誘拐した人物は特徴的な眉毛をしており、「ダリノマユ?」と男の子に聞いていたという。父親は、状況から、疎遠となっている祖父が犯人とわかっているが、祖父はかたくなに否定する。精神分析医の氷室想介がたどり着く祖父の思いとは。
―――

 有栖川有栖「二十世紀的誘拐」は、​有栖川有栖『江神二郎の洞察』(東京創元社、2012年)​に再録(内容紹介は同記事から再録)。
 法月綸太郎「トランスミッション」は、​法月綸太郎『パズル崩壊』(講談社ノベルス、1998年)​に再録(内容紹介は同記事から再録)。ノベルスタイトルには「WHODUNIT SURVIVAL 1992-95」との副題がありますが、本作は結局真相が割り切れないところがあります。
 その他、折原作品はかつて目を通したことがありますが、あらためて楽しめました。(西木さんの性格は苦手です。)
 五十嵐均「セコい誘拐」は、結局??こういうことかな、と思うところはありますが、すっきり割り切れない部分も残りました。
 「スイカの脅迫状」「さらわれた幽霊」は、誘拐される対象が斬新で、解決も楽しく読みました。
 「誰の眉?」は​有栖川有栖『ダリの繭』​をもじった作品で、作中にも有栖川公園が出てきたりと、面白かったです。吉村さんの作品はブログ開設前に数冊ほど読んだことがありますが(それもブログ開設前に手放してしまっています)、氷室さんシリーズの作品は今回初だったので、アプローチの在り方など、興味深く読みました。
 真相がすっきりしない作品もありますが、「誘拐」一つとってもこんなにバリエーション豊かな物語ができるのかと、全体的に楽しめました。

2020.12.04読了)

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Last updated  2021.05.01 15:24:25
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2021.04.29

アンソロジー『金田一耕助の新たな挑戦』
~角川文庫、1997年~

 金田一耕助へのオマージュ作品のアンソロジー。
 収録作品と概要は次のとおりです。

―――
亜木冬彦「笑う生首」軽井沢の別荘で、夫婦が殺されていた。二人とも、首を切断されていた。残されたマネキン人形の意味するものとは。
姉小路祐「生きていた死者」大阪駅で、女性が男性を突き飛ばし、男性が電車に轢かれるという事件が発生した。男は死の間際に住所などを口にするが、名前は偽名だった。しかし、男の顔を知っているという僧侶が口にした名は、担当刑事が知っている名前だったが、彼は戦時中に死亡しているはずだった。
五十嵐均「金田一耕助帰還す」アメリカから東京行きの飛行機の中で、殺人事件が発生。たまたま居合わせた金田一耕助が事件の捜査に当たるが、被害者は、特定の席を示すダイイングメッセージを残していた。
霞流一「本人殺人事件」金田一耕助の功績を称えるため準備されていた「金魂館」の製作発表パーティーの後、関係者の一人が離れで殺されていた。それは、まるで「本陣殺人事件」のような状況の現場だった。
斎藤澪「萩狂乱」若き記者が金田一耕助に取材に訪れた日、事件が発生。数日前から行方不明だった女性が死体となって発見された。現場に落ちていた萩が意味するものとは。
柴田よしき「金田一耕助最後の事件」金田一耕助は、アメリカに渡る直前に、獄門島の了沢の訪問を受ける。早苗の息子の婚約者が、殺人事件の容疑者となっており、真犯人を明らかにしてほしいというのだった。
服部まゆみ「髑髏指南」金田一耕助に何かを手渡した外国人女性。中身は、髑髏だった。また同時期に、ダイヤの盗難事件も発生。果たして髑髏の正体は。
羽場博行「私が暴いた殺人」金田一耕助がアメリカで手掛けた事件。
藤村耕造「陪審法廷異聞―消失した死体」昭和13年。前年の「本陣殺人事件」で有名になっていた金田一耕助は、陪審法廷に証人として出廷し、屋敷から死体が消えてしまったという事件の真相を明かす。
―――

 特に印象に残ったのは「笑う生首」「生きていた死者」。いずれも、タイトルも事件の性質も本家にありそうで、楽しめました。また、「陪審法廷異聞」は、タイトルこそ本家とはやや異質な感じですが、内容は本当にありそうで、こちらも時代背景も含めて興味深く読みました。
 このブログでは何度も書いていますが、私がこれだけミステリを読むようになったきっかけは横溝正史さんの作品(とりわけ​『本陣殺人事件』​)との出会いなので、他の作家さんによる金田一耕助ものを読むのにはなんとなく抵抗があったのですが、結果、杞憂でした。うまくあの世界観が描かれた作品が多く収録されていて、安心して楽しめた一冊です。

2020.12.03読了)

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Last updated  2021.04.29 12:56:04
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2021.04.24


アンソロジー『密室』
~角川文庫、1997年~

 密室をテーマにしたアンソロジー。8編の作品が収録されています。
 収録作品と概要は次のとおりです。

―――
姉小路祐「消えた背番号11番」人気選手がインタビュー後に練習している間に、ユニフォームが消えてしまった。密室状況の中、ユニフォームはいかに持ち去られたのか。
有栖川有栖「開かずの間の怪」怪談話がささやかれる病院跡地で、怪談の謎に迫る推理小説研究会のメンバーたち。アリスたちが見た人形は、いかに開かずの間に消えたのか。
岩崎正吾「うば捨て伝説」うば捨て伝説のある土地で、谷を挟んだ集落にはやまんば伝説が残っていた。「密室状況」のうば捨ての場と、やまんば伝説の関係とは。
折原一「傾いた密室」傾いた家で、依頼者の父と叔父が口論をしていた後、父が死体で発見される。事故として処理されそうになるが、依頼者は叔父による犯行と考え、覆面作家に解明を依頼する。
二階堂黎人「密室のユリ」推理作家がマンションの一室で殺された。ドア、窓ともに施錠された、完全な密室状況にように思われた。
法月綸太郎「ロス・マクドナルドは黄色い部屋の夢を見るか?」内容紹介省略。
山口雅也「靴の中の死体」母と子供たちの折り合いの悪い一家で、クリスマスパーティーのため家族が集まった翌朝、事件が発覚する。靴の形をした離れで、母親が殺されていた。雪には一つの足跡しかなく、雪の密室状況にあった。
若竹七海「声たち」貿易会社の会長が殺された。しかし、彼に恨みをもつ容疑者たちは、離れた場所で語り合っており(録音テープも残されており)、いわば容疑者たちが密室にいる状況での、それは事件だった。果たして犯人は。
―――

 すでに本ブログで紹介したことがあるのは次の3作品。
 有栖川有栖「開かずの間の怪」は、​有栖川有栖『江神二郎の洞察』(東京創元社、2012年)​に再録された短編です。(内容紹介はその記事からそのまま引用。)再読ですが、あらためて楽しめました。
 二階堂黎人「密室のユリ」は、​二階堂黎人『ユリ迷宮』(講談社ノベルス、1995年)​に再録。(内容紹介は同記事から引用。)
 法月綸太郎「ロス・マクドナルドは黄色い部屋の夢を見るか?」は、​法月綸太郎『パズル崩壊』(講談社ノベルス、1998年)
に再録。同記事でも、内容紹介は割愛しましたが、とにかくインパクトが強烈です。

 その他、折原一さんの短編も、おそらくブログを公開する前に『ファンレター』に収録されたものを読んでいるはずですが、同書は手元に置いていないので、記事としては初のはずです。
 今回はじめて読んだ作品で特に面白かったのは「消えた背番号11番」と「うば捨て伝説」。前者は多くの関係者の中から犯人が導かれる過程が鮮やか。後者は民俗学的な趣もあり大変興味深く読みました。

2020.11.29読了)

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Last updated  2021.04.24 22:31:09
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2021.04.19


アンソロジー『現場不在証明』
~角川文庫、1995年~

 タイトルどおり、アリバイものを集めたアンソロジー。ミステリのアンソロジーを読むのは今回がほぼ初のような気がします。
 収録作品と簡単な内容紹介は次のとおり。

―――
赤川次郎「二つの顔」有名芸能人・有沢とそっくりなことから、たまに身代わりをお願いされるようになった西崎だが、ある日、有沢が自分の恋人と過ごしているのではと疑うようになる。そんな中、身代わり中に、恋人が殺されてしまい…。
姉小路祐「ダブルライン」キャバクラで知り合った女性と付き合いながら、出世のために別の女性と近づき始めた多田は、同期入社の男から交換殺人を持ち掛けられる。綿密な計画を聞き、多田は話に乗るが、途中から思わぬ事態になり…。
有栖川有栖「ローカル線とシンデレラ」山伏地蔵坊が語る物語。単線のローカル線で、人が殺された。動機がありえる人々は、被害者が乗っていたのとは別方向の電車に乗っており、アリバイがあった。
今邑彩「黒白の反転」過去の有名女優のもとに、5人の映画研究会というサークルの学生たちが訪れた。オセロゲームなどをして過ごした後、メンバーの二人の婚約宣言から、一気に険悪な事態に。翌朝、婚約発言をした女性が殺されているのが見つかった。
黒川博行「飛び降りた男」青年が深夜に暴漢に襲われたという事件に、妻の知り合いが関係者であったため、つてをたどり情報を得始めた私だが、同期が追っている窃盗事件と事件がリンクし、容疑者も浮上。しかし、男はアリバイを主張し、暴行事件への関与を否定する。
高橋克彦「百物語の殺人」有能プロデューサー・宇部が北斎の百物語をモチーフにした舞台を企画し、共通の友人でミステリ作家の長山を通じて、絵師研究者の塔馬に監修の依頼に訪れた。結果的に興味をもった塔馬は、宇部の企画した舞台稽古兼パーティーに出席するが、そこで宇部が殺害される。動機のある人物たちにはアリバイがあった。また、有能なはずの宇部がやらかした様々な矛盾の意味するものとは。
深谷忠記「凶悪な炎」別荘で男女の焼死体が発見された。女への動機を持つ男にアプローチしたところ、男は女が火をつけたという。しかし、それらしい女には、アリバイがあった。
―――

 今回のアンソロジーで初めて作品を読む作家さんも何人かいらっしゃいました。不勉強さを痛感するとともに、いろんな作家さんの作品が読めるアンソロジーも面白いと思った次第でした。
 有栖川さんの「ローカル線とシンデレラ」は、同​『山伏地蔵坊の放浪』​(東京創元社、1996年)に収録されているものをすでに読んでいますが、例によって内容を覚えていなかったので、あらためて楽しめました。
 その他、姉小路さんの作品は綿密なアリバイトリックが先に提示されながら、意外な結末に至るという面白い構成ですが、ややホラーというか、後味は悪いです。
 特に面白かったのは「飛び降りた男」と「百物語の殺人」。前者は、主人公たちの会話も軽妙で、また真相も意外で楽しめました。後者は学者が感じた様々な違和感から真相にたどり着く過程が秀逸と思いました。
 もう25年も前に刊行されたアンソロジーですが、「アリバイ」ものの奥深さが味わえる作品集です。

2020.11.27読了)

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Last updated  2021.04.19 22:11:42
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2020.12.24


米澤穂信『いまさら翼といわれても』
~角川文庫、2019年~

 折木奉太郎さんの所属する古典部のメンバーが活躍する、古典部シリーズ第6弾。今回は、折木さんの過去のエピソードなどが語られる短編集です。6編の短編が収録されています。
 それでは、簡単にそれぞれの内容紹介と、感想を。

―――
「箱の中の欠落」福部里志が手伝った生徒会長の選挙後、各クラスから集まった票は、在校生の人数分よりも多かった。どうしてそんなことが起こったのか、里志は折木を散歩に誘い、相談をもちかける。
「鏡には映らない」旧友に出会った伊原摩耶花は、中学生の頃の嫌な記憶を思い出す。卒業制作で作った鏡のフレームで、折木の班は完全にデザインを無視した、手抜きのようなパーツを提出した。彼(の班)は、なぜ手抜きをしたのか。
「連峰は晴れているか」中学生の頃の先生がヘリコプターが好きだと言っていたエピソードを語る折木に、伊原と福部はそれを否定するエピソードを語る。先生がヘリコプター好きと言っていた理由とは。
「わたしたちの伝説の一冊」伊原が掛け持ちで入っている漫画研究部は、読むだけ派と描く派で対立していた。描く派の友人が、伊原に同人誌への参加をもちかける。しかし、同人誌のための漫画を準備している中で、伊原は何者かにノートを盗まれてしまい…。
「長い休日」千反田えるに、「やらなくていいことならやらない」のモットーはいつから言っているのか聞かれた折木は、小学生の頃のエピソードを披露する。
「いまさら翼といわれても」合唱祭に出るはずの千反田えるが、会場の待合室からいなくなってしまった。手伝いに行っていた伊原から連絡を受けた折木は、彼女がどこに行ってしまったのか、推理を進めるが…。
―――

 これは面白かったです。特に印象に残ったのは「鏡には映らない」。伊原さんの一人称で語られるのも新鮮で、また真相も辛さとともに折木さんのかっこよさが感じられる作品です。
 同じく「長い休日」も、折木さんの過去のエピソードを描きます。珍しく折木さんが自分のことを多く語ります。
 文庫背表紙の紹介のとおり、古典部の「メンバーの新たな一面に出会」える短編集です。

2020.07.23読了)

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Last updated  2020.12.24 23:15:45
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2020.09.20


米澤穂信『巴里マカロンの謎』

~創元推理文庫、2020年~

 

 <小市民>を目指す小鳩常悟郎さんと小佐内ゆきさんが活躍するシリーズ第4弾。今回は短編集です。

 それでは、簡単に内容紹介と感想を。

 

―――

「巴里[パリ]マカロンの謎」1年生の2学期。ぼくは、小佐内さんに誘われ、有名パティシエ古城正臣が故郷名古屋に新たにオープンした店を訪れる。そこの名物マカロンを頼んだ2人だが、小佐内さんのお皿には、セットの定数の3つではなく、4つのマカロンが載っていた。そして、1つのマカロンの中には、指輪が入っていて…。

 

「紐育[ニューヨーク]チーズケーキの謎」10月。ぼくは小佐内さんに誘われ、マカロン事件で知り合った古城秋桜が通う中学校の学園祭に訪れた。秋桜さんのいる出店でニューヨークチーズケーキを食べたあと、小佐内さんたちと別行動をとることになったぼくは、小佐内さんと秋桜さんが一緒に、校庭のボンファイヤー(キャンプファイヤーみたいな)に近づいていくのを見ていた。そこで事件が発生。一人の男子が猛ダッシュで二人に近づき、小佐内さんと激突、マカロンが飛び散った。あとから追ってきた数人の男子は、男子生徒が持っていたというCDを探していたが、現場付近にはCDが見あたらず、小佐内さんと連れて行ってしまう。

 

「伯林[ベルリン]あげぱんの謎」年末頃。新聞部を訪れたぼくは、堂島健吾に相談を持ちかけられる。新聞部の1年生で、ベルリンのあげぱんを食べた。ロシアンルーレットのように、1つだけマスタードが入っているあげぱんをまぜ、誰にあたるかを遊ぶゲームがあるということで、そのゲームに挑戦したという。しかし、参加していた全員が、誰もマスタード入りは当たらなかったと言い、企画者と反対者のあいだで険悪なムードが起きているという。

 

「花府[フィレンツェ]シュークリームの謎」年明け。ぼくは、小佐内さんに誘われ、甘味を食べていた。そこに、古城秋桜さんから小佐内さんに電話があり、すぐに助けてほしいとのこと。彼女のもとを訪れると、同級生が飲酒を伴うパーティーに参加して停学させられたが、自分は参加していないのに参加したことにされ、秋桜さんも停学させられたという。誰が、なぜ秋桜さんが会場にいたと言い、さらには偽の証拠まで作り上げたのか。

―――

 

 どれも面白かったですが、特に印象に残っているのは「紐育チーズケーキの謎」と「伯林あげぱんの謎」です。前者はキャンプファイヤーや小佐内さんがぶつかられたり連れ去られたりと、印象的なシーンが多く、また真相やその後のやりとりも興味深かったです。後者は、ほぼ小佐内さんが登場せず、小鳩さんが活躍しますが、真相解明にあたって色々実験したりと、こちらも面白かったです。

(2020.06.12読了)

 

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Last updated  2020.09.20 22:58:46
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2020.09.12


米澤穂信『秋期限定栗きんとん事件(上・下)』

~創元推理文庫、2009年~

 

 <小市民>を目指す小鳩常悟郎さんと小佐内ゆきさんが活躍するシリーズ第3弾。今回は上下巻にわたる、シリーズ最長の作品です。

 それでは、簡単に内容紹介と感想を。

 

―――

 小佐内さんとの互恵関係を解消した僕は、何者かに手紙で呼び出された。相手は、クラスメートだが、名前は把握していなかった。そんな彼女は、僕と小佐内さんの関係解消を知っていて、僕と付き合って欲しいという。そこでつきあいが始まり、小市民的な充実を目指すことになるが、どうしても謎解きをしてしまう。たとえば、彼女のお兄さんが留守のときに、何者かが部屋に侵入したが、盗まれたものは何もなかった、という話を聞かされ、うっかり真相にたどりついてしまう。

   *

 新聞部の一年生、瓜野は、学内新聞に学外のネタも載せ、もっと多くの生徒に読んで欲しいと思っていた。夏休みにあった生徒拉致事件をネタにしようとするが、小佐内さんが部長と関わり、そのネタはだめだという。しかし、最近起こり始めた連続放火事件の発端が、学校に関わる場所だったことを知り、連続放火事件を追いかけることを決意する。友人の助言も受けながら、事件の法則性を見いだした瓜野は、新聞で次の事件の予告を試みる。予告が的中すると、学内新聞の人気がどんどん高くなっていった。そして瓜野はついに、犯人をつかまえることを目標とし始める。

 またその頃、瓜野は、ふとした小佐内さんの表情から彼女のことを気にし始め、ある出来事をきっかけに付き合うことになる。

―――

 

 というんで、二つの恋(?)と連続放火事件などの謎解きを軸に、物語は進みます。

 前作で、小佐内さんが怖かったという印象は覚えていましたが、やっぱり本作でも小佐内さんは怖いです。

 小鳩さんも、小市民として振る舞おうとしますが、どうもうまくいきません。

 とまれ、小鳩さんと小佐内さん、それぞれの思惑が交錯しながら、犯人を明らかにするあたりは圧巻です。

 辻真先さんの解説にもありますが、(放火事件はあるとはいえ)どちらかといえば「日常の謎」をテーマにした作品でありながら、上下巻の長編というのはたしかに珍しく、それでいてとても楽しめる作品でした。

2020.06.04読了)

 

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Last updated  2020.09.12 23:21:52
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2019.11.14


横溝正史『風船魔人・黄金魔人』

~角川文庫、1985年~

 

 横溝さんのジュヴナイル作品集。表題にある二編の中編が収録されています。

 それでは、簡単に内容紹介と感想を。

 

―――

「風船魔人」サーカスの催しの際、人気の馬が空中に浮いていった。馬は、風船がつけられていた。後日、風船魔人と名乗る人物が新聞広告を出し、空に注意していろという。広告に書かれた日に、すごいスピードで飛行する人間のようなものが見られた。三津木たちは、風船魔人の正体をとらえようと奮闘する。果たして、風船魔人の意図とは…。

「黄金魔人」16歳の少女たちが、全身金色の怪人―黄金魔人に狙われていた。はたして、少女たちに共通する条件とは。そして黄金魔人の目的とは。

―――

 

 どちらも、怪人の正体は比較的分かりやすいですが、斬新な設定の怪人で面白いです。挿絵があるのも良いですね。

 さて本書には、​『姿なき怪人』​収録の座談会の続きと、山村正夫さん監修による横溝さんのジュヴナイル作品目録が付されていて、資料的にも貴重な一冊となっています。

 特に興味深かったのは座談会です。今回は、岡山の疎開先での横溝さんの様子などが語られます。また、家族にとってはとにかくひどい印象が強かったようですが、一方で作家はそういうところがあっても仕方ないという思いも持たれていたことがうかがえます。江戸川乱歩さんを尊敬しつつライバル視していたことも語られて、横溝さんのいろんな面を知ることのできる内容です。

 
※表紙画像は、横溝正史エンサイクロペディアさまからいただきました。

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Last updated  2019.11.14 23:02:47
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2019.11.10


横溝正史『姿なき怪人』

~角川文庫、1984年~

 

 横溝さんによるジュヴナイル作品集。連作短編集のおもむきのある表題作のほか、短編1編が収録されています。

 それでは、簡単に内容紹介と感想を。

 

―――

「姿なき怪人」

 「第1話 救いを求める電話」法医学の権威、板垣博士を訪れた三津木俊助と御子柴進だったが、博士の部屋で言い争う声が聞こえた。博士の娘、早苗との結婚を反対された木塚は、博士に復讐を誓う捨て台詞を残してその場をあとにする。その直後、早苗から助けを求めるような電話が研究室にかかってくる。急いで現場に向かう三津木たちだが、すでに早苗は殺されていた。木塚には鉄壁のアリバイがあったが…。

 「第2話 怪屋の怪」進は、板垣博士からのお願いで太田垣家を訪ねた。呼びかけても返事がなく、家に入ってみると、男が殺されていた。あわてて警察を呼びに行くが、現場に戻ると、死体もなくなり、流れ出ていた血の跡もきれいになくなっていた。見間違いと指摘されるが…。

 「第3話 ふたごの運命」板垣博士が後見人をつとめる双子が外国から日本にやってきた。しかし、双子は空港で何者かに連れ去られてしまう。後日、片方と思われる少女の遺体が発見されるが、解剖を前にした日、その遺体も持ち去られてしまう。

 「第4話 黒衣の女」黒衣の女と名乗る女性から、新日報社に電話がかかってきた。対応した進に対して、あるホテルを訪れ、荷物をもって公園にきてほしいという。進がホテルに訪れると、そこでは男が殺されていた。

 

「あかずの間」家が貧しく、おじの家に引き取られた由紀子だが、おじとおばの様子に不自然なところがあった。毎日、おばは納戸まで食料を運んでいた。蛇神に供えるというが、けがをしたおばのかわりに納戸を訪れると、中から人のすすり泣きが聞こえてきて…。

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 ジュヴナイル長編を続けて読んできて、今回は連作短編集のおもむきでしたが、少なくともジュヴナイル作品については短編の方が自分の好みということに気づきました。博士に復讐を誓う男からはじまり、アリバイトリック、遺体消失トリックなどなど、面白いトリックも盛りだくさんです。双子の事件で、遺体が奪われたのはなぜかというのも魅力的な謎でした。

 さて、本作は角川文庫(緑版)の、横溝作品の最後から二番目の作品。ということもあってか、横溝さんの夫人(孝子さん)と息子さんの亮一さん、そして本書の編集・構成を手がけた山村正夫さんの座談会(その1)が収録されています。横溝さんは家族には偏屈で気むずかしいところがあったようで、奥さんがたえられず神頼みに行ったときに、怒り狂って二階の窓から布団やテーブルを投げ出したということもあったそうです。そうかと思えば、血を見るのが大の苦手だったり。

 また、野球観戦が大好きで、お子さんといっしょに観戦に行かれていたこと、お子さんのために童話集のたぐいを一気にどんと買われていたことなど、興味深いエピソードが満載です。

 優しい作風でありながら気むずかしかったこと、血みどろの作品を書きながら血がきらいといったことなど、ギャップも興味深いです。

 

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Last updated  2019.11.10 22:22:39
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