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西洋史関連(日本語書籍)

2020.06.20
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池上俊一『ヨーロッパ中世の想像界』

~名古屋大学出版会、2020年~

 

 池上先生が初期の著作から追究されていた中世のイマジネールに関する、集大成とも言える一冊。およそ950頁(うち70頁が参考文献目録!)という、膨大な史料・研究に裏付けられた、重厚な研究です。

 本書の構成は次のとおりです。

 

―――

序 章 想像界の歴史学

 

第I部 植物・動物・人間

1 薬効の在処―植物から人体へ

2 庭園の変容

3 鸚鵡と梟

4 動物観と動物イメージの変遷

5 魂の姿

 

II部 四大から宇宙へ

1 地―母なる大地

2 水―水浴と温泉のイマジネール

3 火―神秘と怪異の光

4 風―翼に乗って

5 宇宙と世界の形

 

III部 聖と魔

1 天使の訪れ

2 聖心崇拝

3 魔術師ウェルギリウス

4 魔女の先駆け

5 魔女のダンスとサバトの成立

 

IV部 仲間と他者、現世と異界

1 権力と権威のイメージ

2 友愛の印

3 ユダヤ人人相書

4 糸巻き棒論

5 「地上の楽園」と「煉獄」

 

終章 想像界の構造とその変容

 

あとがき

参考文献

図版一覧

索引

―――

 

 本書は、大きく4部構成で各部に5章ずつの合計20章+序章と終章からなります。

 本書の扱うテーマの広さは上に掲げた構成からもうかがえるとおりで、またそれぞれのテーマについて(冒頭記載のとおり)膨大な史料・先行研究に裏付けされた興味深い議論が展開されています。

 全てについてはとても紹介できないので、興味深かった点のみメモしておきます。

 

 序章は、イマジネールをめぐる理論的な話はややとっつきにくい部分もありましたが、イマジネールに関する幅広い先行研究を紹介する節は特に勉強になりました。もちろん、池上先生が師事したジャック・ル・ゴフの業績をはじめ、本ブログでもよく紹介しているミシェル・パストゥローについても紹介されています。あらためて思ったのは、中世の幽霊や怪物について研究しているクロード・ルクトゥという研究者がいるのですが、彼の業績がまだほとんど邦訳されていないんだな、ということです。(私は原著も全て未読ですが、名前は目にしていました。)原書房さんから、『北欧とゲルマンの神話事典:伝承・民話・魔術』という訳書は刊行されているようですね。

 

 第I部では、動物観に関する部分を特に興味深く読みました。

 第II部は、四大それぞれのテーマもさることながら、地面は評価が低い=地面を這う動物は評価が低い、空は評価が高い=空を飛ぶ鳥は評価が高いという、第I部の議論とのリンクもあり、いずれも興味深く読みました。(もちろん、評価は一面的なものではなく、たとえば翼にも良いイメージも悪いイメージもありました。)また、第5章では、社会や教会の中の諸身分のイメージについても考察されており、こちらも勉強になりました。


 第III部は、古代ローマの詩人が、魔術師としてのイメージを与えられたという興味深いテーマを扱う第3章のほか、よくあるサバトのどろどろした情景を通俗的に描くのとは対照的に、ダンスという観点から魔女のサバトを捉え直す第5章を特に興味深く読みました。

 第IV部も、いずれも興味深く読みました。特に、イマジネール(想像界)という言葉から連想しやすい地上の楽園と煉獄を扱った第5章では、ジャック・ル・ゴフの『煉獄の誕生』の意義と、この著作に対する様々な批判もバランスよく紹介しており、研究動向も分かりやすかったです。


 終章では、「A 異教とキリスト教」「B 超自然界と聖性・魔性」「C 自然・宇宙と身体」「D 空間と時間」「E 社会の外と内」「F 想像界のダイナミズム」という6つの観点から、本書全体が総括され、4つの部で論じられてきた様々なテーマがいかに関連し合っているかが示されます。ただ、終章には全く注がなく、また本論の中で参照すべき箇所も示されていなかったのは、ないものねだりと承知していますが少し残念でした。また、たとえば第I部第3章の「鸚鵡と梟」についての議論は、あまり紹介されてきていないテーマとして本論で扱われたものの、終章の議論をふくらませることにはあまり寄与していないようにも思われました。(もちろん、議論自体は大変面白いのですが。)

 そして、膨大な注は、これまた膨大な参考文献目録を参照するつくりになっているのですが、注で言及される文献が参考文献目録に見あたらず、根拠にたどりつきにくいものがいくつかあるように思われます。あまりに膨大な文献リストなので、私の見落としがあるかもしれませんが…。

 

 と、軽微な点もかきましたが、、とにかくどの章も興味深いテーマで、また全体的に関連をもった構成となっており、まさに池上先生によるイマジネール論の集大成です。

 近年、社会史やイマジネールへの歴史が下火になっていることを嘆いていらっしゃるあとがきも興味深いです。

2020.05.30読了)

 

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Last updated  2020.06.20 22:29:52
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2020.05.23


西洋中世学会『西洋中世研究』11

~知泉書館、2019年~

 

 2009年創刊の『西洋中世研究』の第11号です。

 1~10号までは表紙、背表紙が赤文字でしたが、今号から青地にリニューアルされています。

 10号までも読んできていながら感想を書いておりませんでしたが、せっかく目を通しているので、本誌についても記事を書こうと思った次第です。(時間を見つけて、1~10号も記事が書けたら良いのですが。)

 今号の構成は次の通りです。

 

―――

【特集】教皇庁と女性―崇敬と蔑視の構造―

<序文>

加藤磨珠枝「教皇庁と女性―崇敬と蔑視の構造―」

<論文>

加藤磨珠枝「中世初期ローマ教会における女性の職務とその表象について」

藤崎衛「母、教師、花嫁としての中世ローマ教会」

谷古宇尚「ナポリ・アンジュー家の王妃たちと教皇―ハンガリーのマリアの造営活動を中心として―」

三浦麻美「聖性から聖年へ―敬虔な女性たちから見た中世後期教皇像の権威教化―」

久木田直江「教皇庁の混迷を越えて―大陸(出身)の女性神秘家が導くイングランドの教会改革―」

寒野康太「ローマ・カトリック教導権における女性理解―中世研究にもとづく現代の神学―」

 

【論文】

アダム・タカハシ「アリストテレス主義における<神的摂理>と「1272年の禁令」」

小林亜沙美「13世紀ローマ教皇文書発給の実態―ルッカ伝来文書からの考察―」

 

【史料紹介】

菊地智「『マイスター・エックハルトと無名の信徒の対話』―作品の成立背景と主題―」

 

【新刊紹介】

 

【彙報】

佐々木博光「西洋中世学会第11回大会シンポジウム報告」

大貫俊夫「2018年度若手セミナー「エミリア・ヤムロズィアク氏講演会―国際中世学会への参加とグローバルな成果アウトプットへ向けて―」報告記」

神崎忠昭「第10回日韓西洋中世史研究集会―その回顧とともに―」

岩波敦子「パトリック・ギアリ教授退職記念国際会議参加記」

―――

 

 特集が大変興味深く、また関心もあるテーマなのが嬉しいです。

 まず、加藤論文は、現在では禁じられている女性聖職者の叙階が、中世初期にはあったのではないか、ということを各種史料や図像から指摘する興味深い論考。一番面白かったのは、「パウロの『ローマの信徒への手紙』で「使徒」とされた「ユニア」という人物を巡っても、ギリシア語原文ではユニアという名は男性の名前でもあり得るため……教皇庁の歴史解釈にあたかも辻褄をあわせるかのように、13世紀以降は「ユニアス」という男性であったと一般化され……新共同訳聖書でも「ユニアス」と男性名で記され、男性扱いがなされている。」しかし、あるギリシア教父は、ユニアは女性だったとはっきり記している史料もあり、「近年の研究者の間では、女性であったという解釈が一般的である」、という指摘です(10-11)。なお、女性の叙階に関する日本語の研究として、本論ではふれられていませんが、赤坂俊一「女性に対する叙階反対論を検討する」『関学西洋史論集』352012年、29-44頁という論文があり、こちらも史料的に正確な研究は女性助祭職は存在したという論調だということを示しています。

 藤崎論文はタイトルどおり、母、教師、花嫁として語られるローマ教会の分析を通じて、教皇がローマの優位性を示そうとしたことなどを指摘します。

 谷古宇論文もタイトルどおり、王妃たちと教皇の関係を分析する論考ですが、面白かったのは、「フランシスコ会においても各地を巡って聖堂の建造に専門的に携わる修道士がいた」(50)という指摘です。

 三浦論文は男性聖職者がみた女性と教皇庁の関係づけと、女性たちが描く教皇庁(13世紀末の史料と16世紀初頭の史料)の分析を通じて、列聖手続きへの意図から聖年の贖宥への関心へと重点が移ることを指摘します。

 久木田論文は4人の聖女とイングランドの関係を描きます。

 特集最後の寒野論文は、加藤論文と同様、女性が司祭職に就けないという神学上の論点を取り上げ、教皇庁の女性理解がどう変遷してきたのか、また中世ではどうだったのか、ということを分析しており、こちらも興味深く読みました。20世紀のある教皇文書の記載を、大胆にも「虚偽」と評しつつ、しかし教皇庁の見解も社会にあわせて対応してきたという点も示しながら、単に批判に終わらない問題提起となっています。

 

 タカハシ論文、小林論文はいずれも重厚。前者は、1277年に禁令で批判されたアリストテレス主義がなぜ批判されたのか、アラビア等ではアリストテレス主義がどう捉えられていたのかを丹念に論じて、新たな見解を示します。小林論文は、13世紀教皇の発給文書数を、各種の史料から推定し、説得力ある仮説を示すとともに、先行研究の知見を深化・発展させています。

 

 史料紹介も、先行研究を踏まえながら、登場人物の位置づけや著者・想定された読者など作品の背景を論じたのち、史料の主要トピックスを描く興味深い論考です。

 

 新刊紹介では27の欧語文献が紹介されます。スペイン史の文献が多く紹介されているのが目を引きます。今号で特に面白そうだと思ったのは、田邉めぐみ先生が紹介する、紋章学に関する1冊でした。

 

 4編の彙報も、いずれも興味深く読みました。

 

 関心のあるテーマの論考が多かったこともあり、全体的に興味深く、良い読書体験でした。

2020.02.24読了)

 

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Last updated  2020.05.23 22:16:27
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2020.05.10


池上俊一『公共善の彼方に―後期中世シエナの世界―』

~名古屋大学出版会、2014年~

 

 池上先生の博士論文です。

 シエナについては、既に新書が刊行されています(​池上俊一『シエナ―夢見るゴシック都市』中公新書、2001年)が、本書は膨大な研究文献はもちろん、刊行史料や未刊行史料も駆使した重厚な著作となっています。

 本書の構成は次のとおりです。

 

―――

序 章

第1章 行政上の地理区分と市民

第2章 さまざまな仲間団体

第3章 噂と評判の世界―裁判記録から

第4章 社会関係の結節点

第5章 イメージの媒介力

終 章 新たな公共善へ―後期中世都市の世界

 

あとがき

文献目録

シエナ市街図

図版一覧

索引

―――

 

 全体で約600頁、中世後期シエナについて多角的に論じた重厚な研究書です。テーマも多岐に渡るため、簡単にメモしておきます。

 序章は、シエナ市庁舎内にあるアンブロージョ・ロレンツェッティという画家による有名な絵「善政と悪政の寓意と効果」の解読を行うとともに、中世後期シエナの政治史の動向、ソシアビリテ(社会的結合関係)の考察の方法論について論じます。


 第1章は、都市条例を中心とする史料について紹介した上で、シエナ内の行政上の地理区分と市民の概要を描きます。マルジノー(周縁人)として娼婦、奴隷、ユダヤ人を挙げて紹介している部分について、興味深く読みました。


 第2章は、本論が約170頁に及ぶ、本書の中心となる章です。家族・親族組織、職業団体、遊興集団、霊的な絆で結ばれた人々の4つの節からなります。職業団体では規約の丹念な分析を、霊的な絆で結ばれた人々ではサンタ・マリア・デッラ・スカラ施療院についての詳細な叙述などを、特に興味深く読みました。


 第3章は最も面白く読んだ章です。シエナにおける犯罪の傾向などの概論ののち、具体的な一つの裁判を例にとり、噂が持っていた重要性を浮き彫りにします。ここでは、色々な罵詈雑言が紹介されているのも面白いです。


 第4章は、第1章で論じた場所や、第2章で論じた様々な人間関係をリンクされる論述となっています。中心にあるカンポ広場を挟んで、市庁舎と商館があることの意味、市門や泉が果たした役割など、興味深いテーマが満載です。


 第5章も、第3章同様に興味深く読んだ章です。シエナを象徴する、水と血、聖母マリア、狼の3つの観点から、中世後期シエナの人々が抱いたイメージについて分析します。

 

 私はイタリア史を専門にしていませんが、一つの都市について徹底的に多面的に分析する本書の方法論からは、学ぶところ大でした。


 なお、本書については、大黒俊二先生による書評(『史学雑誌』128-22019年、84-90頁)があります。

(2020.01.25読了)

 

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Last updated  2020.05.10 22:32:41
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2020.03.13


杉崎泰一郎『沈黙すればするほど人は豊かになる―ラ・グランド・シャルトルーズ修道院の奇跡―』

~幻冬舎新書、2016年~

 

 著者の杉崎先生は中央大学文学部教授で、修道院の歴史を専門にされています。

 先生の著作として、手元には次の文献があります。

・杉崎泰一郎『12世紀の修道院と社会』原書房、1999
・​杉崎泰一郎『欧州百鬼夜行抄 「幻想」と「理性」のはざまの中世ヨーロッパ』原書房、2002

・​杉崎泰一郎『修道院の歴史―聖アントニオスからイエズス会まで―』創元社、2015

 本書は、900年前の創立時とほぼ変わらずに厳しい修行を行っているラ・グランド・シャルトルーズ修道院が、はじめて撮影を許可して実現した、フィリップ・グレーニング監督の『大いなる沈黙へ』という映画をふまえながら、その修道院の創設時の背景や現在までの生活を、平易な語り口で描きます。

 本書の構成は次のとおりです。

 

―――

はじめに

第一章 修道院とはどのようなところか

第二章 ヨーロッパの修道院の歴史

第三章 ラ・グランド・シャルトルーズ修道院のあゆみ

第四章 孤独と沈黙の生活

第五章 共同生活と修道院の管理運営

 

主要参考文献

―――

 

 第一章と第二章は、そもそも修道院とはどういうところか、どういう歴史をもっているのかの概説です。第一章では、日本にある有名なトラピスト修道院や、修道院を舞台にした有名な映画や小説が紹介され、イメージがわきやすくなるよう(また関心を深められるよう)配慮されています。

 第二章は、3世紀後半にはじまる初期の修道生活から現在までの修道院をめぐる歴史を簡潔に描きます。


 第三章から、本題になります。まず第三章は、創立者ケルンのブルノの略歴から、現在までのラ・グランド・シャルトルーズ修道院の歴史を描きます。


 第四章は、修道士個人の生活に焦点をあて、第五章は集団生活の面に焦点をあてます。

 修道士たちは、個室で祈りや労働を行いながら生活します。たまにミサなどで集まることもありますが、沈黙が原則とされます。なお、毎年4050人が修道院に入る応募をするそうですが、実際に受け入れられるのは10人ほど、しかも2年たって仮誓願を行い、さらに5年たって正式な誓願を行うことで、一人前の修道士として迎えられるということで、受け入れられるのは非常に厳しいそうです。孤独での生活に耐えられず、最速10分で逃げ出した方もいるとか。(106-109頁参照。)

 一方で、たまに集団で山に散歩したりする際には、談笑することもあるようで、雪山ですべって遊んでは笑いあっているシーンも映画にはあります。

 私は、2019年1月11日に岡山大学で開催された公開講演会「ラ・グランド・シャルトルーズ修道院を訪ねて~静寂と祈りの生活に現代へのメッセージを探る~」に参加し、杉崎先生の講演を拝聴する機会がありました。その際、映画『大いなる沈黙へ』の主要な場面も見ることができましたが、叙述の雪山のシーンは印象的でした。

 この映画は日本でもDVDになっていますので、またいつか挑戦できればと思っています。

 

 とまれ、本書は新書ということもあり、たいへん平易な語り口で、ラ・グランド・シャルトルーズ修道院の歴史と生活を描いている良書です。

2019.11.14読了)

 

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Last updated  2020.03.13 23:52:24
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2020.01.29

ロバート・S・ロペス(宮松浩憲訳)『中世の商業革命 ヨーロッパ950-1350

(Robert S. Ropez, The Commercial Revolution of the Middle Ages, 950-1350, Cambridge University Press, 1976)

~法政大学出版局、2007年~ 

 著者のロペス(1910-1986)はジェノヴァ生まれ、ミラノ大学で学び講師を務めた後、アメリカに移住し、博士号を取得し直しコロンビア大学勤務を経て、イェール大学で中世史講座の発展に尽力した研究者です。その経歴と主著は本書の訳者あとがきに詳細に示されています。

 訳者の宮松先生については、既に何冊か本ブログでも紹介したことがあります。

 商業革命は、辞典などで「15世紀末の新大陸、新航路の発見によってひき起こされたヨーロッパ商業体系、ひいてはその経済構造における一大変革」(京大西洋史辞典編纂会編『新編 西洋史辞典 改訂増補』東京創元社、1993年)を指すものと使われてきましたが、本書はそれが中世に起きていたとする見解を示します。

 本書の構成は次のとおりです。

 

―――

凡例

序文

 

第一章 先行する古代ローマと蛮族の時代

第二章 自給自足農業の発達

第三章 商業革命の離陸

第四章 商業化の不均等発展

第五章 手工業と機械工業のあいだで

第六章 農業社会の対応

 

訳者あとがき

読書案内

索引

―――

 

 中世の状況を論じる前段階として、第一章は先行するローマ時代の状況を描きます。

 第二章で、商業革命の前提となる農業の状況を描き、第三章・第四章が本題となります。第五章は工業について論じます。第六章は、商業革命が農業(社会)に与えた影響を論じることで、第二章と対をなしています。

 特に興味深く感じたのは、ユダヤ人とイタリア人が商業革命に重要な役割を果たしたという指摘(第三章第二節、第三節)と、産業革命ほどの進展はなかったものの、中世においては「前産業革命的発展」があったとする議論です(第五章)。

 不本意ながら多忙のため、寝る前に少しずつしか読み進めることができなかったため、簡単なメモのみとしておきます。

 

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Last updated  2020.01.29 22:06:58
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2019.12.28


田中久美子『世界でもっとも美しい装飾写本』

~エムディエヌコーポレーション、2019年~

 

 著者の田中先生は文星芸術大学教授で、ご専門は中近世フランスの美術史です。

 本書は、フルカラーで、最初期から終焉期までの写本の挿絵を、いくつかのテーマに分けて紹介してくれる、眺めるだけでも楽しい一冊です。

 本書の構成は次のとおりです。

 

―――

序章 写本のはじまり

第1章 ケルト装飾写本の世界

第2章 黙示録の世界

第3章 パリの装飾写本

第4章 時禱書の世界

第5章 写本の中の動植物

第6章 イニシアルの世界

第7章 写本の終焉

―――

 

 序章は、現存する古代の写本として最古の『ウェルギリウス・ウァティカヌス』(5c)、そして6世紀の『ウィーン創世記』を中心に紹介します。

 第1章は、渦巻き文様を特徴とするケルトの装飾写本の紹介。


 第2章は、黙示録を描く写本の中でも特に重要なベアトゥス写本群を中心に紹介。


 第3章は『教訓聖書』や『聖ルイの詩編』などのパリの写本を紹介。


 第4章は本書の中でも最もページ数が多く、有名なベリー公の『いとも豪華なる時禱書』をはじめとする時禱書の紹介です。個人的な祈りのために作られた時禱書ですが、余白に狩りの様子が描かれているものもあれば、お菓子やら魚や貝やらが描かれていたりと、祈りにあまり関係のなさそうなものが描かれている写本もあり、興味深く眺めました。


 第5章は写本に描かれた動植物に焦点を当てます。動物については、ミシェル・パストゥローの著作などで触れていましたが、割と写実的に描かれた植物についてはあまり見たことがなかったので、こちらも興味深く見ました。


 第6章は、装飾イニシアルを紹介します。4世紀には、すでに一番最初の文字だけを大きく書いて目立たせるという写本もありましたが、イニシアルが装飾される最初期の例は6世紀のもののようです。動物や人間が文字をかたちづくる形象文字といわれるタイプや、巨大な文字の中に物語が描かれる「物語付き装飾文字」といわれるタイプがあります。


 第7章は、印刷技術により写本が作られなくなる前夜の時代を扱います。すでにテキストよりも挿絵の方が中心的となってきたり、絵画とテキストの関係が疎遠になってきたりした状況があり、これを著者は「装飾写本の内部において解体が始まり、自ら終焉へ向かっていった」(278)と評しています。この時代、テキストを中心にして、挿絵との関係も密だった写本(いわば伝統的な写本)がどの程度あったのか、そうした数字的なデータも示されていれば、著者の指摘がより説得力をもったのでは、と感じました。


 その他、適宜コラムが挿入されています。個人的には写本の制作過程の絵が紹介されているところが面白かったです。羊皮紙を準備し、羽根ペンを削り、羊皮紙を裁断し、テキストを筆写し……と過程が続くのですが、「写本の完成」の絵で、できた写本を指さしている人物が描かれていて、印象的でした。

 割と大判で、300頁近くありながら、ソフトカバーであるためか値段は税抜き2900円と優しい設定で、書店で見つけて即買いました。記事冒頭にも書きましたが、眺めるだけでも楽しく、これは良い買い物だったと思います。

 

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Last updated  2019.12.28 21:58:41
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2019.12.19


ミシェル・パストゥロー(蔵持不三也訳)『図説 ヨーロッパから見た狼の文化史』

~原書房、2019年~

(Michel Pastoureau, Le loup. Une histoire culturelle, Paris, Édition de Seuil, 2018)

 

 ミシェル・パストゥローによる動物の歴史のモノグラフです。原著が2018年ですから、わずか1年後に訳書が刊行されたことになります。原著の購入をどうしようかと思っていたので、訳者と出版社に感謝です。

 著者については、​こちらの記事​をご覧下さい。著者は紋章や色彩、動植物の歴史の研究で有名で、このブログでも、牛の歴史、豚の歴史についての著者の論文や、熊の歴史についての単著(英訳版と邦訳版)を紹介したことがあります。

 本書は、狼に焦点を当てた一冊。注はありませんが、序論で、「[熊、狼、猪、鹿、狐、カラス、鷲、白鳥などの]20種あまりの動物がヨーロッパの文化史で重要な役割を演じてきたのである。本書を嚆矢とする一連のモノグラフはこの歴史に捧げられている」という記述があり(9)、色の歴史のようにシリーズ化されるのでしょうか。今後が楽しみです。

 さて、前置きが長くなりましたが、本書の構成は次のとおりです。

 

―――

序文

第1章 古代の神話体系

第2章 ローマの狼

第3章 野獣より強い聖人

第4章 動物誌のなかの狼

第5章 イザングラン―笑いのための狼

第6章 人狼と魔女

第7章 呼称とエンブレム

第8章 寓話と童話

第9章 農村部の野獣

10章 ジェヴォーダンの「獣」

11章 近代の信仰と迷信

12章 現代の狼

 

原典・参考文献

訳者あとがき

―――

 

 著者は中世史が専門ですが、膨大な文献を駆使して、先史時代から現在までの狼の文化史を平易に描いているのは、いつもながら見事です。

 12-13世紀に成立した『狐物語』(参考:『狐物語』原野昇他訳、岩波文庫、2002年)では、狼のイザングランは狐のルナールにさんざん辱められる、「愚かで滑稽な存在」(64)となっています。その背景として著者は、「感情的なはけ口というより、むしろなんらかの現実を反映したものだった」(68)と述べ、この時代には狼への恐怖心は薄れており、それが再発するのは中世末だったといいます。ですが、なぜこの時代に狼への恐怖心が薄れていたのか、という点に言及されておらず、物足りなく感じました(軽微な点かもしれませんが)。

 ただ、気になったのはその点だけで、ことわざや、赤頭巾ちゃんの解釈などなど、面白いテーマが満載で、興味深く読みました。

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Last updated  2019.12.19 22:37:59
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2019.12.08


池上俊一『情熱でたどるスペイン史』

~岩波ジュニア新書、2019年~

 

『パスタでたどるイタリア史』​に始まる「たどる」ヨーロッパ史シリーズの、第5巻にして、シリーズ最終巻です。

本書の構成は次のとおりです。

 

―――

はじめに

第1章 ローマ属州から西ゴート支配へ―先史時代~中世初期

第2章 国土回復運動の時代―8世紀~15世紀

第3章 スペイン黄金世紀―16・17世紀前後

第4章 ブルボン朝の時代―18世紀前後

第5章 社会分裂と領袖政治―19世紀前後

第6章 内戦・自治州・EU―20世紀以降

あとがき

スペイン史年表

―――

 

 第2作の​『お菓子でたどるフランス史』​などでは、まだ、章ごとにその時代の特徴的なお菓子の話があったりして、「○○でたどる」という感じがありましたが、本作では、あまり「情熱」が叙述の軸になっているように感じられませんでした。(忙しい時期にぼちぼち読んでいたので、私の読みが浅いのかもしれませんが。)

 むしろ、その時代の特徴的な文化をまじえながらたどっていくスペインの通史、という印象です。もちろん、『ドン・キホーテ』や闘牛など、「情熱」の感じられる文化も紹介されます。しかし、第3章で、神秘主義を情熱の観点から論じるのはややこじつけのように感じずにいられませんでした。これでいけば、池上先生御自身も『ヨーロッパ中世の宗教運動』で論じている「鞭打ち苦行団」や「ベギン」運動も、情熱の観点から論じられるのでは、と思います。


 直接関心のあるテーマではなかったこともあり、今回は流し読みで終わってしまいました。


 「たどる史」シリーズでは、やはり第1巻の『パスタでたどるイタリア史』が一番面白かったように思います。

※著者略歴に、池上先生が西洋史を勉強することになるきっかけ(お父様が現代中国政治の研究者で中国漬けだったため、その反動だとか)が書かれていて、面白い!と思ったのですが、すでに​『王様でたどるイギリス史』​にこのエピソードは書かれていました。

 

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Last updated  2019.12.08 22:15:09
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2019.11.21


エマニュエル・ル=ロワ=ラデュリ(稲垣文雄訳)『気候と人間の歴史I―猛暑と氷河 13世紀から18世紀』

~藤原書店、2019年~

(Emmanuel Le Roy Ladurie, Histoire humaine et comparee du climat. Canicules et glaciers XIIIè-XVIIIè siècles, Libraire Artheme Fayard, 2004)

 

 ​『気候の歴史』​(稲垣文雄訳、藤原書店、2000年。原著初版は1967年で、この訳は1989年版)の原著初版から約40年を経て刊行された、三巻本の大著の第一巻です。

 この三巻本は第1巻が2004年、第2巻が2006年、第3巻が2009年に刊行されています。その間、2007年に、気候の歴史のエッセンスをインタビュー形式でまとめた著作​『気候と人間の歴史・入門【中世から現代まで】』​(稲垣文雄、藤原書店、2009年)も刊行されています(こちらには、三巻本全体の目次も掲載されています)。

 まず、本書の構成は次のとおりです。

 

―――

まえがき

第1章 中世温暖期、おもに13世紀について

第2章 1303年頃から1380年頃 最初の超小氷期

第3章 クワットロチェント――夏の気温低下、引き続いて冷涼化

第4章 好天の16世紀(1500年から1560年まで)

第5章 1560年以降――天候は悪化している、生きる努力をしなければならない――

第6章 世紀末の寒気と涼気――1590年代

第7章 小氷期その他(1600年から1644年まで)

第8章 フロンドの乱の謎

第9章 マウンダー極小期

10章 若きルイ15世時代の穏やかさと不安定さ

11章 1740年――寒く湿潤なヨーロッパの試練

結論

 

あとがき

訳者あとがき

原注

参考文献

付録

地名索引

人名索引

―――

 

『気候の歴史』では、著者は気候の歴史それ自体を明らかにすることを目的としており、本書は、『気候の歴史』でいう研究の第二段階、つまり過去の気候と人間の歴史を結びつけることを目的としています。

 本書では、主にワインや小麦の生産量や値段、収穫時期、飢饉、疫病などの状況と、当時の気候の状況とをリンクさせながら、通史的に各時代の気候状況を論じていきます。とにかく、小麦の値段などのデータ的な情報が膨大に詰め込まれており(著者の専門であるフランスに限らず各地域の状況にも目配りされています)、通読するにはややつらいものがありましたので、ほぼ流し読みで終わってしまった部分もあります。逆に言えば、そういった膨大なデータが得られる著作といえます。


 私自身が関心があるのは12-13世紀で、本書で言えば第1章が中世温暖期を論じています。が、そのページ数は他の章に比べて格段に短く、個人的にはやや物足りませんでした。


 上述のとおり、人間の歴史との関係に関心が向けられながらも、本書の大部分は小麦やワインの価格・生産量などのデータによる当時の気候の状況の裏付けにあてられている印象で、いくつか日記や書簡などの史料も分析されていますが、人間の反応や対応といった側面はあまり描かれていないように思われ、こちらも少し物足りませんでした。ただ、第6章で、超小氷期と魔女狩りの関連性の有無について論じた節は興味深く読みました。


 なお、中世の気候や、気候と魔女との関連について、井上正美先生がいくつか論文を発表されているので、紹介しておきます。

・井上正美「魔女と悪魔と空模様」『立命館文学』5341994年、132-148

・井上正美「中世気候の多様性について」​関西中世史研究会編『西洋中世の秩序と多元性』法律文化社​、1994年、353-371


 注や参考文献なども含め、全体で730ページを超える大著です。読み流しの部分も多かったですが、13世紀から1740年までの(主にヨーロッパの)気候変動をつかむことのできる一冊です。

 なお、第二巻、第三巻も邦訳刊行が予定されているようです。

 

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Last updated  2019.11.21 23:13:42
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2019.11.16


櫻井康人『図説 十字軍』

~河出書房新社、2019年~

 

 著者の櫻井康人先生は東北学院大学教授。特に後期十字軍に関する論文を多数発表されています。

 本書は、「図説」シリーズですから当然ですが、多くの図版とともに、十字軍をそこに至るまでの道のりからこんにちまでを描く、最新の研究動向を踏まえた概説書です。

 本書の構成は次のとおりです。

 

―――

プロローグ 十字軍とは何であったのか?

第1部 クレルモン教会会議への道のり

 第1章 批判される「ピレンヌ・テーゼ」―「マホメットなくしてシャルルマーニュなし」

 第2章 「キリストの騎士」の誕生

第2部 盛期十字軍の時代

 第3章 第1回十字軍

 第4章 第2・3回十字軍とエルサレム王国

 第5章 報復の連鎖―13世紀

第3部 後期十字軍の時代

 第6章 東方・地中海での覇権争い

 第7章 混乱するヨーロッパ世界

 第8章 十字軍の終焉

エピローグ 盛期十字軍の歴史化と二つの十字軍観

 

あとがき

十字軍国家支配者一覧

十字軍関連年表

主要参考文献・図版出典文献

―――

 

 読了から感想を書くまでにかなり時間が空いてしまいました。基本的には通史ですから、細かいところは省略し、興味深かった点のみメモしておきます。

 まず、「ピレンヌ・テーゼ」とその現在の位置づけからはじまる構成が興味深いです。​『ヨーロッパ世界の誕生』​で提示された「ピレンヌ・テーゼ」がこんにちでは批判されていることは色んなところで目にしていますが、本書ではテーゼのポイントを2点にしぼり、それぞれへの批判の要点がまとめられているので、要点をつかむにはもってこいです。

 上記の構成には省略しましたが、本書には7つのコラムも収録されています。十字軍において重要な役割を担った主要な一族の家系図や、「十字軍国家の農村世界」など興味深いテーマが紹介されています。

 多くの図版とともに、最新の成果をふまえた十字軍の通史を提示してくれる良書です。

 

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Last updated  2019.11.16 21:35:24
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