西洋中世学会『西洋中世研究』4
西洋中世学会『西洋中世研究』4~知泉書館、2012年~ 西洋中世学会が毎年刊行する雑誌『西洋中世研究』のバックナンバーの紹介です。 第4号の構成は次の通りです。―――【特集】天使たちの中世<序文>池上俊一「天使たちの中世」<論文>稲垣良典「天使の存在論」池上俊一「天使の訪れ」金沢百枝「天使の肉体―天使イメージの変遷と天使崇敬―」山本成生「天上と地上のインターフェイス―奏音天使の学際的素描―」村松真理子「「天使のような貴婦人」の系譜―シチリア派、清新体派からベアトリーチェの誕生まで―」池上英洋「天使的イメージとルネサンス・ネオ・プラトニズム―レオナルドにみる錬金術とグノーシス主義―」【論文】杉山博昭「隠された実母―『モーセとエジプト王ファラオの聖史劇』に投影された社会的関心―」河野雄一「中世の継承者としてのエラスムス:1520年代の論争を通して」【講演】Lester K. Little, “Plague in the European Middle Ages”山本成生・後藤里菜「レスター・リトル氏講演会 報告と感想記」【新刊紹介】【彙報】赤江雄一ほか「2011年度若手支援セミナー報告記」伊藤博明「シンポジウム「中世とルネサンス―継続/断絶』要旨」――― 今号の特集は天使。池上先生による序文は収録論文の概観と天使研究の意義を指摘します。 稲垣論文は、哲学の観点から、トマス・アクィナス『神学大全』などの史料により天使の存在に関する議論をたどります(私には難解でした)。 池上俊一論文は、歴史学の観点から、種々の史料に基づきながら、天使の姿、役割の諸相を論じます。 金沢論文は美術の観点から、肉体を持たないはずの天使がいかに描かれてきたかをたどります。スフィンクスのような聖獣から有翼人像への移行、またケルビムとセラフィムが混同される図像など、興味深いです。 山本論文は、音楽の観点から、楽器を奏でる「奏楽天使」の図像分析を中心に、その役割を指摘します。 村松論文は、文学の観点から、ダンテの作品などを史料として、「天使のよう」と形容される貴婦人について論じます。 池上英洋論文はルネサンス芸術の観点から、グノーシス主義の受容から、君主が両性具有的に描かれる図像の分析を通して、完全性の表現が意図されていたことを指摘する興味深い論考。 杉山論文は、モーセを扱う聖史劇の分析から、モーセの実母が巧みに隠されていたことなどを指摘し、その効果・意義を指摘します。 河野論文は、先行研究において様々な位置づけをなされてきたエラスムスの諸著作の分析を通じて、カトリックだけでなく宗教改革者とも論争をしていたことを指摘し、その思想・立場の意義を論じます。 講演の部では、2012年3月4日開催の講演会における、Littleの(おそらく)講演原稿と、その報告・感想記を掲載。Little論考は中世ペストについて、先行研究のペスト論が誤解を招くこと(中世特有と論じられがちだったが、実際には18世紀まで断続的に続いたことを指摘)、従来重視されてこなかった初期中世のペストへの当時の対応、そして近現代におけるペスト菌の発見などを概観し、ペスト研究を再考します。山本・後藤両先生の報告・感想記は、当該講演会とリトル報告の状況・概要を明快にまとめています。 新刊紹介は39冊の欧語文献を紹介。赤江先生が紹介しているBynum, Christian MaterialityとŞenocak, The Poor and the Perfectの2冊が気になります。また、記事は書けていませんが、Jacques Berlioz, Pascal Collomb et Marie Anne Polo de Beaulieu (dir.), Le tonnerre des exemples. Exempla et mediation culturelle dans l'Occident medieval, Presses Universitaires de Rennes, 2010でも大きく取り上げられている、Ci nous ditという史料について紹介する文献も今号では紹介されていて(小林先生による紹介)、こちらも気になりました。 彙報は、第4回シンポジウムと、ポスターセッションなどが行われた2011年度若手支援セミナーの概要報告の2本です。(2025.04.09再読)・西洋史関連(邦語文献)一覧へ