ジャック・ル・ゴフ『[ヨーロッパと中世・近代世界]の歴史―その誕生と老齢化―』
ジャック・ル・ゴフ(酒井昌美訳)『[ヨーロッパと中世・近代世界]の歴史―その誕生と老齢化―』~多賀出版、1997年~(Jacques Le Goff (Trans. Tobias Scheffel), Das alte Europa und die Welt der Moderne, München, 1994) 著名な中世史家ジャック・ル・ゴフ(1924-2014)による、古代から現代までのヨーロッパ世界の概観です。 本論100頁程度で、訳者による小見出しも多く、非常に読みやすい小著です。 本書の主張のポイントとしては、初期中世におけるヨーロッパの最初の輪郭として、キリスト教的共同体と様々な王国からなる多文化的伝統を基盤とした共同体の2点を挙げ、ヨーロッパの特徴として「統一が諸民族の多様性から創造される」と指摘している点と思われます(17頁)。 アンリ・オゼールによる近代性の定義の簡潔な整理も含め、中世史研究であまりにも有名なル・ゴフが現代までを簡明に見通している点で興味深い1冊です。 一方、訳書として何点か気になる点がありました。 まず、本書の底本は原著のドイツ語訳(訳者はフランクフルトの書店で購入したそうです)。したがって、フランス語の原著の直接の翻訳ではありません。にもかかわらず、原著情報が本書のどこにも記載されていないのが残念です。インターネット上で調べると、原著はJacques Le Goff, La Vieille Europe et la nôtre, Paris, Le Seuil, 1994のようです。 次に訳語について。「シャムパーニュのメッセ」(40頁)は、「シャンパーニュの大市」のほうが一般的な表記です。「第四回ラテラノ総会議」(58頁)は「第四回ラテラノ公会議」。「英国人ゴシエ・マップ」は、「英国人」の訳語の是非はともかく、英語風に「ウォルター・マップ」と表記するのが一般的では。哲学者ジャン・ボードリヤールの表記は、「ボードリャール」(96頁)とあったり「ポードリヤール」(104頁)とあったり、校正が不十分な印象でした。 ただし、何度も引き合いに出して申し訳ありませんが、鎌田博夫氏の訳(ル・ゴフ編『中世の人間』やル・ゴフ『ル・ゴフ自伝』など。後者はかろうじて再読して記事も書きましたが、前者は読み返そうとして、あまりのひどさに再読を諦めました)に比べるとはるかに読みやすく、内容的にも面白いことは間違いありません。 とはいえ、ドイツ語からの重訳が理由なのか、邦訳書でありながら、ル・ゴフの著作に関してこの訳書が取り上げられることはあまりないように思われます。(2026.02.15再読) ・西洋史関連(邦訳書)一覧へ