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カテゴリ:フランス社会
フランスの雇用紛争の話、日本でも結構報道されているみたいですね。
カルチェ・ラタン(パリの大学が固まっている地域)では学生のデモ隊と警官隊が衝突したりしているようですが、私の生活圏はいたって平和なままですし、デモが行われる地域に近寄るつもりはないので、ご心配なく。 あくまでも個人的な解釈ですが、なーんでこんなことになってるのか、私なりの理解&考えを少しばかり。 ■で、なんでもめてるの? ことの発端は若年者の雇用促進のために提案されたCPE(Contrat Premiere Embauche、直訳すると“初回雇用の雇用契約”、日本の新聞では“若者向け雇用制度”って訳してますね)という法案です。 フランスといえば失業率が高いイメージがありますが、失業率は少しずつ改善してはいるんです。2006年1月で失業率は9.6%(2005年1月は10.1%)、ただ改善しているとはいっても、25歳以下の失業率は22.2%。超高いですよね。 若者、特に新卒の場合はやはり経験がないということで、日本のように新卒ですぐに就職を決めるのは難しいのが現状です。フランスの学生のほとんどは薄給や無給でStage(インターンシップ、企業研修ですね)をして経験をつみ、それから本格的な就職をめざす人がほとんどのようです。大学をでていても、日本と違って入学ハードルが低いせいか、特に文系学部の学生は学士号をとっただけでは就職が困難、それよりも高校から職業訓練校(イメージ的には日本の専門学校のような感じでしょうか)に行って、経理等の実務に役立つ資格を取ったほうが就職はすぐ見つかるようです。いわゆる「学歴」が有利に働くのは、修士以上、またはグラン・ゼコールと呼ばれる超一流校(フランスの政界、財界の大物を輩出している学校。日本で言うと東大・京大のイメージですね)で卒業資格を取った人くらいのようですね。 今春は日本の新卒採用も売り手市場になっているようですが、超超超氷河期に就職した私からすると、文系の就職が厳しいのはあたりまえの気もします。けどフランスは日本と違って新入社員を一から研修して育てたり、上司が部下のキャリア育成に配慮するなどという慣習自体がないので、実務知識がない新卒の就職状況は日本よりもはるかに厳しいのが現状のようです。 で、CPEっていうのはなんやねん?といいますと、26歳以下の若者を雇用した場合、2年間は理由無しにいつでも解雇できる、っていう法案なんです。要は雇用主側の負担を軽くすることで雇用を促進し、若者の失業率を下げよう、っていう狙いなんですよね。 その法案に反対している学生、労働組合のストが最近活発化していて、それが日本でも報道されているんですね。 ■怒ってあたりまえじゃぁ けどね、これって学生、社員側からすると反対して当たり前だと思うんですよね。だって、明日いきなりクビになるかもしれない不安定な雇用契約なんてサインしたくないじゃないですか、やっぱり。3ヶ月程度は失業保険相当のものがおりるようだけど、フランスの普通の雇用保険って3年くらいおりるんですよね(勤務期間、その他条件によって変動はするけど)。それが年齢が若い、経験が少ないからってこんな不利な契約を結ばなければいけない、っていうのは理不尽な話だし、若者の生活はただ不安定になるだけですよね。 ただ、企業側にとってはやはりうま味はありますよね。フランスの社会保障費の企業負担はすごく高いのだけど、おそらくCPEの場合はその負担が軽減されるだろうし、いつでも雇用調整がきくのであれば、アシスタント的業務はすべてCPEにまわす、っていう考え方もあるかもしれないし。 こんな法案が可決されてしまうと、CPEがますます労働市場を混乱させかねない、ということで労働組合や大学生、高校生がストをしているのです。 ■さらに政的思惑、大統領選も絡んでるんですよ このCPEを協力にプッシュしてるのがドピルパン首相なんですけどね、この人は来年の大統領選挙に立候補すると言われてるんです。で、彼の強力なライバルがサルコジ内相、右よりな発言もたくさんするし、嫌われ者ではある一方、政治的実績も挙げている大統領選の有力候補です。 国民からここまでの反発を買うことを予測していたのかどうかはわからないけど、CPE案が出てきて以来、ドピルパン首相の支持率は一気に下降中、15%ダウンして現在の支持率は37%だそうです。このままCPEを強行におしすすめると、ドビルパンの支持率はますますさがりますよね。サルコジ陣営にとっては大統領選にむけてこーんないい流れはありません。だからサルコジ内相の言動には注目も集まっているのだけど、彼は現在のところなるべく発言を控えているような感じがありますね。 こういった政治的駆け引きもあるせいかどうかはわかりませんが、ドビルパン首相は強行にCPE撤回を拒否しています。政治的には条件を変えることで(対象期間を1年にする、失業手当対象期間を増やすetc)で国民感情を緩和しようとする意見もあるようですが、学生などは全面撤回でない限り、交渉のテーブルにつくことも拒否する姿勢のようです。 ■デモ、デモ、でも。 ソルボンヌ(パリ第6大学)で事務をしている知り合いがいるのですが、彼女いわく、大学のPC等、いろんなものがデモ隊によって破壊されているそうです。先週のデモでは逮捕者やけが人もかなりの数でたようですね。 大学の大教室などはデモ隊が占拠しているので、当然講義は休講。教授や有志の尽力で企業の会議室を借りたり、インターネットで授業を中継したりとなんとか講義を継続しているクラスもあるようですが、フランスの大学はまもなく学年末試験。特に最終学年の学生にとっては、この時期に講義が受けられないというのは自分の卒業資格試験にも影響しかねない重大な事態です。デモをする権利は認めつつ、授業を受けたい学生の権利も守れないものか、というのが多くの学生の意見でもあるようです。 個人的にはCPEなんておかしな法律は棄却されるべきだと思うし、それにデモをする学生、労働組合の動きはもっともだと思います。ただ、学校設備を破壊すると一番困るのは学生、その辺のバランスがとれないものかとも思ってしまいます。とはいっても手加減したデモなんてデモではないですしね。やはり私の考え方は「平和の国日本」的考え方なのでしょうか。 ■まだまだ続きます 今週の火曜には、フランス全土で大規模なデモが予定されています。公共機関はほとんどデモに参加するはずなので、またパリの地下鉄も半分しか運行しないんだろうなぁ。 今週、来週あたりはまだまだCPE騒動が続きそうですね。どんな結果になるのか、注目していこうと思います。 いずれにせよ、デモでけが人がでないことだけを祈ります。 文中写真はLiberation紙より。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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